Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

2016年の税関の輸入差し止め

年間2.6万件の輸入差止(62万点)

2017年3月3日、財務省のホームページで、知的財産侵害物品の差止状況についてのニュースリリースがありました。

www.mof.go.jp

輸入差止件数は、10年連続で件数は2万件(5年連続で2.5万件)を超え、点数は62万点。引き続き高水準です。仕出国(地域)別では、中国から来る件数が7年連続で9割超で圧倒的です。10年前は韓国と中国が半々でしたので中国の一人勝ちです。

今年の特徴としては、インクカートリッジなどの特許侵害物品の輸入差止点数が大幅に増加して18万点となったようです。

下記のページに、事例があります。

www.mof.go.jp

以前は、バックや衣類や靴などの模倣品が多かったのが、最近は、インクカートリッジ、スマートフォンケース、医薬品等が、差止品目の上位を占めています。

2017年3月4日の朝日新聞によると、インクカートリッジが増えたのは、正規メーカーが税関に対し、偽物の特徴などを積極的に情報提供したことなどが影響したとのことです。

コメント

年によって多少の凸凹はあるようですが、水際規制の件数は、この10年は横ばいのようです。

模倣品案件で公になるのは、裁判案件・警察差押案件・税関水際規制でしょう。裁判になるのは少数ですし、警察の案件も年間500件程度のようです。税関の水際規制のボリュームは非常に多いものです。

インクカートリッジや医薬品は、儲けが大きいので、案件が増えてきているのだと思います。医薬品や商標権侵害で止めているようですが、インクカートリッジは特許権侵害が多いようです。

特許での活用が、今年の一番の注目点であり、水際規制の一つの流れだと思います。

弁理士会の研修

継続研修履修状況の通知

日本弁理士会から、「継続研修履行状況の通知について」が送られてきました。これまでの2年で20.5単位取得済みで、あと3年間で49.5単位取得が必要とありました。今年になって参加した研修がカウントされていないので、まずまずの受講ペースです。

弁理士以外の方には興味がないかもしれませんが、少し前から弁理士会の研修が大きく変わっています。現在、弁理士の研修は単位制度になっており、5年で70単位取得が義務であり、単位不足にはペナルティがあります。リアルな講義もありますが、時間のない人などにe-learningが提供されています。

ここしばらく、企業のブランドコミュニケーション部門に在籍していましたので、土日に開催される倫理研修以外は講義に出席できず、e-learningを命綱にしてきました。この研修は特許業界との数少ないつながりでした

今回、特許事務所に転職したので、これから大手を振って講義に行くことができます。事務所は弁理士会館に近いので研修に歩いて行けて便利です。

弁理士試験には、昭和63年に合格したのですが、当時は新人研修に重きを置き、継続研修は法改正の情報共有程度だったように思います。

新人研修のことは今でも鮮明に覚えています。秋に弁理士試験に合格し、研修が始まり、翌年まで研修があったと思います。その年の大阪の合格者は8名だったのですが、名古屋の人が沢山合格しており、名古屋の人は時間や交通費の関係で、大阪で受講する人が多く、合計20名以上はいたと思います。大阪の弁理士・弁護士の先生が、面白く特許・商標・意匠の話をしてくれました。もちろんリアルな講義です。

東京での講義も2回ほどあり、私は学生でしたが、同じ大阪から参加の大手事務所勤務の参加者が新幹線のグリーン車に乗るので、奮発してグリーン車に乗った記憶があります。

侵害訴訟の実務、商標・意匠の実際の話、特許の明細書作成実習もあり機械系のクレームを書いた記憶もあります。確かちり取りの発明でした。受験期間中に、このレベルの教育が受けられれば、合格が早くなったのではと思った記憶があります。 

最近の弁理士会の研修では、先日参加した、「グローバル人材育成研修」が良かったと思います。インターグループの英語プレゼンの研修も良かったですし、研修会のあとに若い商標弁理士さん達と飲み会で最近の商標業界の生の声を聞けたのも良かったと思います。

行ってきました

春日大社

本日、上野の東京国立博物館で開催していた「春日大社 千年の至宝展」に行ってきました。私の実家が奈良の春日大社の社家町の高畑町にあり、初詣は奈良の春日大社に行きます。その春日大社には国宝殿というものがあるのですが、奈良には興福寺東大寺・新薬師寺国立博物館に有名な仏像が沢山あり、それに比べたら大したことはないと思って行ったことがありませんでした。

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よくみる鹿島立神影図のほか、江戸時代の春日権現絵巻、春日宮曼荼羅、奉納された武具(刀や鎧)、伎楽面や装束、神仏混淆時代の春日神の仏像などが、多数展示されていました。今まで何度がみた平成館の特別展に比べて入場者の年齢層が高いのも今回の特徴でした。

個人的に面白かったのは、藤原道長の自筆日記で息子の頼通が春日詣でするときの有名な歌が書かれているものや、春日大社に行きたいがなかなかいけないのでその替わりに描かれた春日宮曼荼羅厨子のタイプもありました)などです。

売店には、今回の展示会用と説明がありましたが、「シカスガ」など3つのゆるキャラグッズが準備されていました。

 

・館内で写真がとれた灯籠コーナー(春日大社は年2回の節分万灯籠・中元万灯籠が有名です)

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・上野公園のソメイヨシノはまだでしたが、公園の一角に寒緋桜(カンヒザクラ)が咲いていました。

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トリビアですが、今、私が住んでいる横浜市の戸塚には奈良の春日大社の分社の相州春日神社があり。今は無くなってしまった横浜ドリームランドが関係しています。開発会社が当時成功していた奈良ドリームランドにあやかるため、奈良から勧進してきたものです。神社の写真です。

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 ・奈良から連れてきた鹿もいます。広くないので、奈良の鹿に比べてちょっとかわいそうです。

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フランク三浦 勝訴確定

最高裁でも登録維持

2017年3月7日の朝日と日経に、関連記事が出ています。昨年4月、知財高裁から商標登録有効との判決が出た「フランク三浦」(本当の商標は「浦」の点がない文字です)の上告審で、最高裁の決定が出たようです。フランク・ミュラーからの上告が棄却され、大阪のフランク三浦側の勝訴が確定し、商標登録が有効であることが確定しました。

 

コメント

最高裁の決定は読んでいないのですが、新聞記事レベルの情報に基づいてコメントします。この事件は、昨年4月、大きなニュースになりました。ワイドショーや情報番組で大きく紹介されました。今回は、高裁判決維持ですので、ニュースバリューは低いようですが企業のブランド管理、商標管理の視点からコメントします

商標の類似は、称呼、観念、外観の内、いづれか一つが類似すると商標は類似となると教えられ、特に称呼類似が類似の基本と教えられました。これは昔の話であり、最近は総合判断が重視され、特に外観などが識別の要素になります。(だんだん中国の商標実務に近づいてきました。)

それはさておき、この「フランク三浦」事件ですが、企業の視点で、ブランドを守るという観点では考えさせられる判決です。個人的にフランク・ミュラーの代理人に、もっと頑張ってもらい、商標登録の無効を勝ち取ってほしいと思っていました。

観光地の土産物店で、サントリーの「Boss」のTシャツをパロディにした、「Bose(坊主)」のTシャツが売られており、修学旅行生が喜んで買うというシーンをご存知だと思います。また、パロディに寛容な社会は、文化のレベルが高いことを示すなどという意見もあります。

これが文化やパロディで止まるなら、まだ良いのですが、著名商標のブランド価値を低下させるとなると別の問題です。「フランク三浦」の安物時計が大量に出回ることで、本家の「フランク・ミュラー」の高級時計の人気がなくなり、売り上げが下がる可能性があります。安物を持っていると勘違いされるような時計に大枚を叩けないという心理です。代理人にはこのような具体的な主張を、ある程度の証拠をもって主張して欲しかったのですが、知財高裁判決をみる限りでは「売上低下の事実」の提示や「アンケート調査結果」などの主張はありませんでした。

フランク・ミュラー」側としては、「フランク三浦」に勝手にパロディを出されて、商標権まで取られて、踏んだり蹴ったりなのですが、高裁判決も言っているように「広義の混同」についての主張が通り一遍であり、力が入っていないと感じました。法律事務所もあまり情報や予算をもらっていないと推測します。(ここは「フランク・ミュラー」社のやる気の問題でもあります。商標権が取られるのは嫌なので訴訟をするが、本気でこまっているのではないように思いました。現在のところ、売上も下がっていないのかしれません。ただし、「フランク三浦」の存在の、将来への影響は不明ですが。

また、今回の結論は、当事者の問題ではありますが、国の産業政策の問題でもあります。また、国際常識にも反しているとも思います。全体として課題のある判決という気がします。

最高裁はいいとして、知財高裁がテクニカルに、単に、法律論のレベルで、著名商標の保護を考えるからこのような判決が出るだと思います。(商品「リンゴ」に商標「青森」を登録するのとあまり変わりません。法律の前に一般常識を働かせる必要があるのではないでしょうか。)

日本の商標法や不正競争防止法では、正面から、dilutionやpollutionを認めずに、条文に該当するときだけそれらしい結果となりますが、それでは、本質的に著名商標の保護が十分ではありません。

世界で戦えるブランドや商標の育成が、国家百年の計であり、いつか消えていくパロディ商標に大切な商標権を付与することに、産業政策から見た正当性はないと思います。

フランク・ミュラー側から侵害訴訟で訴えられ、差止や損害賠償はかわいそうなので、おまけでフランク三浦を助けてあげるのであれば、私も理解しますが、重要な商標権を付与するのはそれとは意味が違います。今回の「フランク三浦」は商標権を取得してから商品を売り出したそうですが、今回のこの騒動を海外の商標専門家が見てどう思うか心配です。商標協会などで、一度、海外の商標専門家にアンケートを取ってはどうでしょうか。

フランク・ミュラーの代理人には、日本の産業発展を願う大きな気持ちで、フランク三浦に侵害訴訟を起こし戦っほしいと思っています。裁判所も、これが、海外のラグジュアリー・ファッションメーカーの商標ではなく、日本のソニートヨタでも同じ判断をしたのでしょうか。 

アカデミー賞の発表

あのPwCが、なぜ?

今年の米国のアカデミー賞の発表では大きなハプニングがあり話題になっています。作品賞の発表のとき、作品賞は「ムーンライト」と発表すべきところ、主演女優賞用の紙が入った封筒を渡してしまい、「エマ・ストーン/ラ・ラ・ランド」と記載されているので、プレゼンターは「ラ・ラ・ランド」と発表したというものです。発表のバタバタも、興味を引きますが、もう一つ、裏方のPwCの方も話題になっています。

実は、アカデミー賞の集計は、大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパースPwC)が、80年以上にわたって担当しており、PwCの会計業務の正確性をアピールするネタになっていました。

2017年2月28日の日経の夕刊には、同社が「司会のベイティ氏、ダナウェイ氏、アカデミー賞の視聴者のみなさんに心からおわびする」とのコメントを出していることが紹介されています。

コメント

主演女優賞用の紙と作品賞用の紙を間違って渡してしまうというのは会計事務所としてはお粗末な感は否めません。ヒューマンエラーとしてはありえるミスですが、それを本当に大事な場面でやってしまうというのは致命的です。

集計自体が間違っていたのではないようですが、最後の確認がいい加減だったんですね。

私も特許事務所に勤務することになりましたので、細かい仕事が多いのですが、間違いをしないように、丁寧に、慎重に、仕事を進めたいと思います。

 

 

 

色の商標(新しい商標)

色彩のみの商標が登録に

2017年3月1日付で、経済産業省のホームページに、新しい商標の中で一つだけ登録査定がなかった「色の商標」が登録になる旨の発表がありました。 引用します。

特許庁は、色彩のみからなる商標について、(2月28日付けで)初めて2件の登録を認める旨の判断をしました(別紙参照)。なお、これらの登録を認めた商標については、出願人から登録料が納められた後、商標登録されることになります。

新しいタイプの商標は、言語以外の多様なブランド発信手段として、企業のブランド戦略に大きな役割を果たすことが期待されます。特許庁は、引き続き、新しいタイプの商標出願についても適切な審査に努め、企業のブランド戦略構築を支援してまいります。 

www.meti.go.jp

www.nikkei.com

コメント

今回のニュースは、2015年4月から出願が認められた「新しい商標」である「音の商標、動き商標、ホログラム商標、位置商標、色の商標」のうち、一つだけ登録が遅れていた、「色の商標」(色彩のみからなる商標)について、登録査定が出たというニュースです。

「色の商標」が認められたのは、セブンイレブンの看板とトンボのMONO消しゴムです。しかし、今回の2件は、単色ではありません。単色の色の商標とは、例えば、ティファニーブルーのような一色のことです。次は、単色で商標登録が認めらるかが焦点になります。

 日本での「新しい商標」の出願意欲は、非常に高いものがあります。2015年4月から2016年1月31日までの1年弱に出願された色の商標は459件ですが、数十年にもわたってアメリカで出願された色の商標は860件という数字がありました。日本の出願件数は最近は中国に大きく負けていますが、産業財産権が大好きな日本人の面目躍如です。

「新しい商標」としては、将来的には、「においの商標、触覚の商標、味覚の商標」というものもありえます。これらは、今は、まだ要望がすくないというか、時期尚早というか、日本では採用されていません。(なお、「新しい商標」のうち、「立体商標」だけは、1996年から先行して採用されています。)

オプジーボ

がん免疫治療薬

3月4日の朝日新聞に、小野薬品工業の「がん免疫治療薬」である「オプジーボ」について、従来の「皮膚がん、肺がん、腎細胞がん、血液がんのホジキンリンパ腫(いづれも一部)」に続き、今回さらに「頭頸部がんの一部」の治療にも使うことが承認され、保険適用が認めらるという記事がありました。

この薬は、免疫の働きを利用した新しい仕組みの薬ということで、色々な種類のがんに効果があるようです。同社は、さらに「胃がん」の承認申請もしているようです。

コメント

従来の薬とオプジーボでは全く仕組みが違うため、一つの薬が複数のがんに対応するので、ニュースになるのだと思います。

この記事で思い出したのですが、電機製品の商標出願、特にハウスマーク(コーポレートブランド)の商標出願では、毎年、企業から新製品がどんどん出てきますので、外国商標出願は、商品の入れ替わりに応じて、同じPanasonicの商標ですが、商品を追加するための出願を、毎年していたことを思い出しました。

基本となる、テレビや冷蔵庫、エアコンは変わりませんが、電子部品やサービスは、どんどん新しいものが出てきますので、対応ていかないといけません。類似商品の商標権はあるので、使えないことはないのですが、その商品ズバリを指定商品でもっていないと模倣品対策で不便だったり、契約の登録(中国などでは契約の登録が必要)ができなかったりするのです。

この点、薬剤は、指定商品の記載はどうなっているのでしょうか。オプジーボでは、あくまでもがんの薬であり、「がん免疫治療薬」としておけば良いのだと思いますが、薬効が追加されるごとに商品記載を追加することが必要なら、大変ですね。

一般に、薬剤は、商標の類似は厳しく判断されると言います。病院や薬局で、薬の名前を間違ええると大変なことになるからと説明されていました。商品記載の実務も、広めの記載が多いように思いますので、電機メーカーのような細かい実務はないのでしょう。

今はどうか分かりませんが、自動車の部品は1万点以上あるので、自動車メーカーでは個別指定は諦めて、指定商品は automobile and thier partsとしているだけと聞いたことがあります。

特許の話

2017年1月21日の日経夕刊で、オプジーボ特許訴訟の和解の話が出ています。小野薬品と米ブリストル・マイヤーズスクイブが、米メルクを訴えて、メルクが6億2500万ドルを支払うという和解のようです。この薬、とにかくすごいですね。