Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

権利のための闘争

商標登録異議申立の勧め
 
よくいわれているのは、日本人など農耕民族は権利をコツコツと取得するのが好きで、一方、欧米人などの狩猟民族はコツコツ権利を取るよりも侵害訴訟で権利行使してとか、異議申立とか、争うのが好きという国民性の違いに基づく違いがあるいいます。
 
以前の日本企業は、金持ち喧嘩せずで、権利は取得するが権利行使はしないという風潮でした。今の日本企業は、(電機メーカーなどは)それほど金持ちではありませんし、各社とも、模倣品対策、特許権侵害訴訟も積極的で、権利行使をいとわない会社が多くなって来ていると思います。この点は、徐々にですが、欧米化していっているように思います。
 
権利取得でお金を使うより、侵害訴訟や異議申立でお金を使うのは、知財のような無形資産においては、本来は、自然なことではないかと思います。イェーリングの「権利のための闘争」ではないですが、権利ははじめから権利としてあるのではなく、権利を主張する人がおり、相手方と戦い、結果として権利として認められるというものだと思います。特に、知財は、動産や不動産の所有権に比較して、振れ幅の大きな権利です。権利と認めらるものが、拡大される傾向がずっと続いています。知財のような無体な権利には、本来的に、「権利のための闘争」が必要だと思います。
 
商標の場合は、権利のための闘争といえば、模倣品対策もありますが、異議申立が決定的に重要です。異議は商標管理の基本だと思います。商標は囲碁のよう陣取り合戦ですので、異議をすることは隙のない権利網を構築することにつながります。また、第三者に対する抑止効果があります。何よりも異議をしないと、商標管理者に闘争心がわきません。以前、武田薬品が△と〇を組み合わせた図形には全部、異議をしていたと話を紹介しましたが、その精神は重要です。(負けが込むと担当者はいやになると思いますが。)
 
先日、日本商標協会の外国商標制度部会にオブザーバー参加させてもらったのですが、そのときの話題は、アメリカ異議事件で、「BUDWEISER」ビールが、オーストラリアの「WINEBUD」ワインに異議をして勝ったというものでした。「BUD」が共通しているので、戦うという考え方です。ダイリューションではなく、単純に出所混同するという結論でした。バドワイザー側は、アンケートも出しています。BUDWISER自体には、いろんな歴史があるよう(面白いので見てください)ですが、商標管理はやってるなと思いました。
 
異議案件を抽出する方法も課題ありです。紙公報でなくなり、ペーパーレスで、データベースの時代になり、情報会社に任せることになってしまい、担当者が公報チェックする機会がなくなり、異議申立をしようとする意思も低下しているように思います。これに、国内の付与後異議の制度も加わり、一旦、権利になってしまっているので、心理的に異議申立に躊躇してしまうことにあり、異議制度が危機にあるように思います。付与後異議は、個人的には、1996年改正の反省点の一つと思います。
 
外国、特に英米法系の国で、異議で戦うと相手方が署名者を呼び出しする等の反作用もあるのですが、それをうまくマネージメントして、異議申立を積極的に戦いたいものです。

グローバル商標を創る過程で

同意書と共存契約書

グローバル商標を作る過程では、余程、独自の長い名称でもない限り、他人の商標との抵触ということが必ず出てきます。
特に良い名前であればあるほど、誰かが先行して使っているので、必ず引っかかります。

  • そこで諦めると、グローバルで、その商標を使った商売ができません。
  • 相手方と合意せずに、そのまま使うと裁判になり、負けてしまいます。

そこで、同意書や共存契約が出てきます。場合によっては、買収・使用許諾もありえます。この業務をしているときは、商標担当者の血が騒ぐときです。会社の将来に影響を与える、重要な仕事だからです。

- 同意書
国によりますが、商標出願の審査で、第三者の権利に引っかかったとき、その権利者から同意書をもらえば登録してくれる国があります。完全に類似はしていないとか、関心の商品ではない(例:自転車と自動車)とか、もう使っていないが権利は持っているとか、のとき、同意書(letter of consent)をもらうえることが多いと思います。無償がほとんどですが、有償のときもありえます。有償のときは、使用許諾と考えても良いと思います。

- 共存契約
一カ国ではなく、ある相手方と多くの国でも問題を起こすときがあります。そのとき、国ごとに同意書を取るのではなく、まとめてグローバルに共存するために契約することがあります。Co-existing Agreementです。全く同じ商標か、類似の商標が多いと思いますが、A社はこの分野には進出しない、B社もあの分野に進出しないというように、何らかのすみわけをするわけです。このあたりは、役員会議にかける内容となります。

- 商標の買収・使用許諾
どうしても使いたいなら、この方法となりますが、相手も目下盛業中で商標を使用している場合、相手にしてくれません。営業やマーケティングの人は軽く何とかしろと言いますが、相手方があることなので、なんともなりません。間に挟まれ、商標担当者は苦しみます(いい経験にはなるのですが)。

- 相手との我慢比べ
時が解決することを期待して、我慢比べということもあります。10年も経つと相手の事情が変化していることもあります。ハウスマークの権利化は、数十年スパンで面倒を見ないといけません。そのため、入社して、ずっと商標という人が居たりします。

- ちなみに、苦労の跡が認められる、有名なケースとして、コンピュータの米アップルと、ビートルズで有名な英アップルレコードのケースがあります。
アップル対アップル訴訟 - Wikipedia

ハウスマークで抵触問題が発生したときは、商標部門は大変なことになります。創業からグローバルに権利がとれるまでは、この苦労がありますので、相当優秀な担当者を商標担当に張り付ける必要があります。ハウスマークですので、地域ごとに違うものを使うこともできませんので、誠心誠意、相手と話合うしかないと思います。

昔は、欧米企業ぐらいしかハードルになる相手方がいなかったように思います。また、グローバルに権利数が圧倒的に少なかったので商標選択の自由がありましが、これからとなると昔の企業よりもハードルが高くなっています。今登録されているブランドは、宝物のようなものです。

外国商標 出願国の考え方

どの国・地域まで出願すべきか?

以前、ハウスマークの外国商標の出願に関して、「商品・サービス」のことを書きましたが、今回は、国・地域を考えてみたいと思います。

現在、商標登録制度のある国・地域は200ほどありますので、民生品なら、200カ国・地域が対象になります。しかし、その中には、人口も少ない国・地域で商標登録制度を持っていたり、費用対効果で本当に出願が必要かどうかまよう国・地域が多いのも事実です。

 

国や地域については、大きく分けると、実際に商売のある国・地域だけ(仕向け地のみ)に出願する方法と、実際には仕向け地ではなくても商品が流れている国・地域(本当の市場)には出願するという方法に分かれると思います。後者の考え方は、その国・地域に、エンドユーザーや中間流通業者といったお客様がいるのであるから、仕向け地ではなくても、実際に商品が流通しているところには出願すべきとなります。

 

この点、日本の電機大手は、ハウスマーク(HITACHI、Panasonicのようなブランド)の場合、だいたいどこも、180~200程の国・地域を対象にしています。商標登録制度がある国は、すべてカバーしておこうという考え方です。実際に商品が流れているというのはそうだと思いますが、もう一つ、企業の見栄のようなものがあります。仕向け地ベースで、売上だけで見ると、60カ国・地域で、ほぼ、99%以上カバーできるのではないでしょうか。

 

しかし、通常は予算もありますので、売上やGDPなどを基準に、ある程度納得のできるところで出願国・地域は決める必要があります。出願国数ですが、ある有名な規格マークで60ヵ国、その後継の新しい有名規格マークで120ヵ国程度と記憶しているのですが、ハウスマークでも120ヵ国あれば、十分なように思います。以前、海外の大手企業のハウスマークを調べたとき、日本企業よりもだいぶ少ない国数だと思いました。

そして、この国・地域と、前回お話しした商品・役務を組み合わせて、多少の色付けもして、権利取得基準ができあがります。

 

予算を確保して、数年かけて、決めた商品・役務について、決めた国・地域について、出願して囲碁のように自分の陣地を取ります。陣取り合戦は、陣地の拡大が目標です。

そのとき、こちらが欲しいところにいる先行権利者がいる場合は、何等かの条件を示して、相手方との棲み分けが必要になります<同意書や共存契約です>。

また、こちらの陣地と思っているところに入り込んでくる会社(模倣品業者ではないことが多いです)がありますので、これに対する対応が必要です<異議申立です>。

広告出稿

インターネットがTVを抜く

2017年4月7日の日経に、世界の広告市場として、媒体別広告費で、インターネットがテレビを抜く予測だということがニュースになっていました。

英調査会社のゼニスオプティメディアの調査で、ネット広告費は前年比13%増の2050億ドルとなる予想で、1%増の1920億ドルの予想のテレビを抜くようです。

新聞には「表」がついており、2017年の順番は、1位はインターネット、2位がテレビ、3位が新聞、4位が雑誌です。

この4つの媒体では、かつての王者は新聞でした。雑誌は表に載っている期間中ずっと一番下です。1996年に新聞が1位から陥落して2位になり、替わってテレビが1位となっています。そのテレビを2017年にインターネットが抜くようです。インターネットの伸びるカーブが急な姿です。

今話題になっているのは、米グルーグル傘下のユーチューブです。差別やテロ行為を助長する動画に有名企業の広告が掲載されている問題で、広告主が出稿取り下げをするという騒ぎがあるようです。

 

コメント

世界のことなので、日本は多少は事情が違うのかも知れませんが、方向としては日本もインターネットが一番になるんだろうと思います。TVを見るより、スマホを見ている時間の方が長い人が多いように思いますし、商品を購入する可能性の高い人に狙い撃ち的に広告ができるようですので、効果という意味ではインターネットの方が上かもしれません。

どのような仕組みか良く知りませんが、インターネットでは、その人に適した広告を見せる手法が一般的になっています。マンションの広告を見たら、しばらくマンションのバナーが沢山出てくるというような具合です。

このニュースと下のリンクのニュースも、違う記者ですが、双方ともシンコンバレーの特派員の記事です。広告代理店の仕事も、最先端のネット技術の世界に入ってきているのだと思いました。

www.nikkei.com

「バルス」って?

フランフラン」に社名変更

2017年4月4日の日経新聞に、インテリア雑貨店「フランフラン」を運営するバルスが、9月1日付で社名を「フランフラン」に変更するというニュースがありました。

知名度の高い店名と社名を統一することで、さらなるブランド力の向上をねらうとあります。1号店の出店から、今年で25周年ということです。看板やロゴなどは変える必要がないため、投資は少額ということです。

 

コメント

Francfranc」は、ショッピングセンターなどでよく見ますが、バルスという社名は知りませんでした。バルスのホームページを見ても、他の事業ブランドがありません。上述の新聞によると、同社は高級雑貨店「バルストウキョウ」をやっていたが、不採算事業なので少し前にやめたようです。

www.bals.co.jp

 飲食業界やファッション業界では、多くのブランドを展開している会社が多く、その場合は、社名とブランドはかい離していて当然です。例えば、吉野家ホールディングスが、牛丼の吉野家の他に、はなまるうどん、お寿司の京樽を展開したり、ファーストリテイリングが、ユニクロ、GU、Theoryをブランド展開するような感じです。

バルスのホームページを見ると、展開しているのは、「Fancfanc」ブランドだけでしたので、今回の話は納得できます。

以前、Fancfrancを初めて見たころ、読み方がわからなかったこともあり、外国の企業・ブランドかと思っていました。バルスという社名は聞いたことはあるのですが、たぶん新聞でFancfrancの紹介記事があるときは、大体、社名を書いて紹介することになっているので、そこで見たことがあるぐらいなのでしょうね(ほとんどの場合、新聞は、会社名を書くことになっています)。

ちなみにですが、「バルス」という言葉ですが、金曜ロードショーの「天空の城ラピュタ」で、「バルス!」の呪文を叫ぶときに、皆でこの呪文をツイートしてサーバーをパンクさせるという方のバルスの方が有名だと思います(これが、社名変更の理由ではないと思いますが)。

アディーレ法律事務所の宣伝

3弁護士会が懲戒審査を決議

2017年4月4日の朝日新聞に、アディーレ法律事務所の宣伝についての記事がありました。不適切広告について、消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けた問題に関して、東京弁護士会など3つの弁護士会が、同事務所と所属弁護士について、「懲戒するか審査すべきだ」と決議したというニュースです。これも景表法違反ですね。

自社サイトで、着手金を1か月間は全額返還するキャンペーンといいながら、実は常時このようにしていたということで、昨年2月に消費者庁から措置命令を受けたということですが、今回は弁護士会が懲戒処分したというのではなく、懲戒審査相当とした(これから審査する)だけでもニュースになっているようです。

特に、今回は、代表の石丸幸人弁護士だけではなく、所属弁護まで審査の対象となるようです。弁護士として、法律的に正しくない取扱いを見逃した点を問題視しているようです。景表法は運用が難しい法律ですので、弁護士でも間違えるということでしょうか。あるいは、法律的には危ないと思っていたが、上司を止めることはできなかったのでしょうか?弁護士といっても勤め人ですので、上司の方針に盾突くのは難しいというのは十分理解できます。しかし、法律違反は避けないといけませんし、それで懲戒処分を受けるのは避けたいところだと思います。

従来、この種の懲戒があるときは、ボスの責任だけが追及されることが多かったらしいのですが、今回、所属弁護士にも責任ありとすることは、当該所属弁護士さんは苦しい立場に立つと思いますが、長い目で見ると、法律事務所での所属弁護士の発言権をアップすることにもつながるのではないでしょうか。

アディーレ法律事務所は、弁護士事務所としてTVCMを大々的に初めてやった事務所ではないかと思います。昔のように、弁護士法か弁護士会の会則かで、宣伝をさせないというのは既に時代遅れだったと思いますが、TVCMは高いのによくできるものだな思っていました。

アディーレ法律事務所のホームページを見ると、弁護士数や支店数も非常に多いのですね。素直に驚きです。人員数は、大手法律事務所です。
www.adire.jp
ちなみに、「アディーレ」とはラテン語で、身近なという意味のようです。事務所名からは、依頼者の身近にありたいという創業の理念・理想を感じるいい名前です。しかし、そのような身近な法律事務所というのは、大企業的な事務所ではなく、かかりつけの医院のような町医者のような気もします。医者の場合、大学病院というものがあり、病気のレベルにより、町の医院→地元の病院→大学病院というような協力関係があります。一方、法律事務所には、大学経営の法律事務所や、それに近いものがないですね。

過払い金返還訴訟のTVCMが有名でしたが、過払い金返還訴訟は時効で終結方向と聞きますので、今後は、何を飯のタネにするのでしょうか。

商標の普通名称化の防止(その2)

通名称化の防止活動は「低調」?

 

商標が普通名称化するという状態は、画期的な新製品(まったく新しいカテゴリー)の商品を売っているということですので、企業にとっては非常に良いことです。営業やマーケティングの専門家などは、固有名詞、代名詞となるような商標が一番良い商標と云いますが、その意味は、画期的な商品という意味と同じです。

 

第二次世界大戦後、日本生産性本部主催で、ミッションが組まれ、アメリカに商標管理を学びに行きました。団長は武田薬品の当時の武田長兵衛社長で、成果として「商標管理」(日本生産性本部)という本になっています。この本などで、普通名称化の防止は日本でも一般的なったのではないかと思います。®表示なども紹介されました。入社時に、商標の上司から、読めと言われた本の一つです(歴史の古い会社知財部や特許事務所には置いてあると思います。ちなみに、上司からは木村三朗先生の「特許管理」誌の外国商標の論文も読めと言われました。外国商標には基本書というものがなく、これしかないと説明を受けました。最近は各国別に色々な本が出版されており便利ですね。)。

 

日本でも普通名称化の可能性がある商標は、沢山あります。例えば、「味の素」(うまみ調味料;もう化学調味料とは云わないようです)、「セロテープ」(セロハンテープ、ニチバンの商標)などです。

会社に入ったころには、特許の明細書に、普通名称化しそうな商標を記載することは避けるよう云われており、技術者向けの会社の特許研修のテキストには、普通名称と紛らわしい商標一覧表がついており、明細書作成時に気を付けるように指導がありました。

また、商標部門には、NHKから電話が良く架かってきて、これは御社の商標ですか?という確認が良くありました。

しかし、ある時期からその電話がなくなりました。世の中一般に普通名称化に対してあまり気を使わなくなったように思います。

その理由ですが、①TM表示や®表示、カタログでの商標の注記などが日本でも一般的になり、商標管理が徹底されてきたため、②Wikipedia特許庁のサイトで商標かどうかが簡単にわかるようになったため、③日本では画期的な新製品が出なくなったため、④他者の商標を尊重する気風が低下してきている、など理由が考えられますが、

根底には、営業、マーケティングの専門家がいうように、固有名詞、代名詞となる商標が一番良い商標という理解が広がっているためではないかと思います。

 

通名称化の問題は、法律的・知財的な意見と、営業・マーケティングの意見が、対立する面白い論点です。両方の主張に、十分理由がありますので、企業における適用をどうするか決めないといけません。法務・知財部門の意見だけでも、営業・マーケティング部門の意見だけでもだめで、ブランドマネジメント部門の調整が必要な部分です。