Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日立の知財中計(2021年)

こんなものを外に出すんだ

2019年6月26日付で、日立製作所知財の中期計画が出ています。

説明会資料:株主・投資家向け情報:日立

https://www.hitachi.co.jp/IR/library/presentation/190626/190626-2.pdf

研究開発部門のIR向けの説明会用の資料です。

 

社内向けに、知財部門が説明会をすることは良くありますが、対外に対して、知財部門が説明会をするのは、珍しいなと思いました。

 

社外向けですので、数字などは、なかなか入れられないと思います。

 

さっと見たところで、目についたのは、2018年の振り返りで、発明恩賜賞を受賞した欧州の電車のデザインです。これは、公になっている話ですし、いい話ですので、載せやすいものです。

2年前にも、粒子線治療システムが恩賜賞をとっているようです。

 

さて、他に目についたのは、SDGs(社会価値、環境価値、経済価値)、競争(Collaboration)で、全体をまとめているというところです。

 

SDGsは、流行りのような言葉ですので、これを中心に説明するのは、通常ですし、特に日立の場合は、社会イノベーションを標榜しているので、SDGsとは、親和性が高いように思います。

 

マジックペンのようなフォントで、「Hitachi Social Innobvation is POWERING GOOD」「世界を輝かせよう。」が、スローガンになっています。

日立製作所

日立製作所

「POWERING GOOD」って、どういうニュアンスの言葉なのかなと思いました。

力強い感じですが、非常に強烈です。丸紅スピリットに通じるものがあるなと感じました。日立は「野武士」と云われることがありますが、それに通じます。

 

Webを見た範囲では、海外展開は、していないようです。

 

「丸紅スピリット」

経営理念 | 会社情報 | 丸紅株式会社

(丸紅、強烈です。漢字一文字を上手く使っている点、お習字のフォント自体、内容そのもの、全て強烈です。この教育を受けた社員は、腕っぷしが強い社員になりそうです。社是「正・新・和」の精神。志、挑、論、強、正の漢字。強い会社ができそうです。

 

日立に戻って、「競争の森」という施設があるようで、そこでの活動について、ガイドラインを作ったともあります。

 

もう一つ、面白いなと思ったは、日立は知的財産を相当広義に捉えています。「特許等」(狭義の知的財産)だけではなく、その外に「著作権・営業秘密」、更にその外に「情報」、更にその外に「データ」を置いています。知財は特許、意匠、商標だけではなく、著作権まで入るというのは、一般的になってきましたが、営業秘密まで知財と捉えているのか?と感心するのですが、

日立は更に「情報」や「データ」まで、広義の知的財産としています。

 

「情報」と「データ」の違いは、分かり難いですが、おそらく「データ」の方がボリュームも多く、内容も多種多用なんだろうなという気がします。

社会イノベーション事業をしようとすると、特許だけで知財部門の仕事は完結しないんだなと思いました。

 

ウルトラマンが小さくなった理由

大きいウルトラマンは昔のアメリ

2019年6月19日の朝日新聞で、ウルトラマンが小さくなった理由という記事を読みました。

ネットフリックスで、4月からウルトラマンシリーズの最新作の「ULTRAMAN」が世界配信されているようです。

ULTRAMAN | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

コメント

記事では、上記の評論家の意見と、円谷プロ側の制作意図の紹介もあります。

ウルトラマンは悩みつつ行動する存在で、1996年からのウルトラマン三部作では、ウルトラマンは未来を歩く地球人自身で、いつかは自分もウルトラマンに近づけるかもというコンセプトがあるとあります。

 

円谷プロの説明は、わかったようなわからないような説明ですが、それに比べると、上の説明(評論家の宇野常寛さん)の説明は、良く分かります。

 

なぜ、科学特捜隊は、いつも弱いのかと思っていました。

強いウルトラマンと対比させるには、科学特捜隊は弱い方が設定しやすかったのかもしれません。

 

あと、最近のウルトラマンが小さくなった理由に、パリウッド映画のアメコミヒーローとは異なる等身大ヒーローを生み出す意図などという説明もありました。

 

アメリカのアメコミヒーローは、スーパーマンスパイダーマンバットマンアベンジャーズなどみな等身大です。

アベンジャーズとは|アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー|マーベル公式

 

これはまた、なぜ等身大である必要があるのか?は論点です。

等身大の方がリアリティがあるし、自分もヒーローになれるかもしれないというのがあるのでしょうか?

 

海外で大きなものは、キングコングぐらいしか思いつきません。フランケンシュタインは多少は大きいですが、巨大というほどではありません。

 

これに比べると、日本のヒーローは、マジンガーZや、バビル2世、ガンダムなどのロボットものを含めて、皆大きい感じがします。タイムボカンシリーズのロボットも、そこそこ、大きい感じです。

 

この違い、あまり考えなかったですが、日本人と、アメリカ人の考え方に何か違いがあるのかもしれません。

 

ゼウスやポセイドンになると、ちょっと大きい感じがしますので、古代ギリシアの感覚は、日本に近いのかもしれません。

ウルトラマンは神様であり、人を超越しているが、アメコミヒーローは、より人間に近いということなんでしょうか?

国家公務員の合格倍率は9.6倍

女性は3割越え

2019年6月25日の朝日新聞の夕刊で、国家公務員の2019年度(2020年4月採用)の合格倍率が10倍を切ったことが記事になっていました。

  • 合格倍率は9.6倍(昨年度は10.9倍)
  • 2012年以降で初めて10倍を下回り、過去最低
  • 申込者数は、1万7295人(約2300名減)
  • 女性は、567人
  • 女性の割合は、過去最高の31.5%で、3割越え
  • 理工系が民間企業に流れた
  • 上位は、東京大(307人)、京都大(126人)、早稲田大(97人)

とあります。

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これは、試験の合格者で、ここから官庁訪問があって、最終採用されるのは、ここから大きく減るようです。

国家公務員総合職試験ガイド2019に、一年前の数字があります。

https://www.jinji.go.jp/saiyo/syokai/30sougougaido.pdf

 

例えば、特許の審査官は、この試験の合格者です。

19,609人の受験者で、合格者は1797人いるようですが、実際に採用されたのは、673人とあります。37%しか採用されないということなので、3分の1です。

試験に合格するのが、だいたい、10分の1ですから、30分の1(3.4%)。大変な試験だなと思います。

 

一般職の昨年度の数字は、

国家公務員一般職試験ガイド2019にあります。

https://www.jinji.go.jp/saiyo/syokai/30ippangaido.pdf

 

33,582人の試験受験者で、 7,782の合格者。採用者は、3,179人とあります。

受験者と採用者で比べると、9.4%となりますので、1割弱です。こちらも大変そうです。

 

例えば、商標の審査は、この試験の合格者だと思いますが、特許庁で採用されたのは、行政職で34名とあります。そこから、10名ほどが商標審査官になるようです。

 

 

ちなみに、総合職と一般職の試験ガイドを見ていて、民間企業の採用パンフレットとはだいぶ違うなと思いました。

民間企業の採用パンフレットでも、先輩社員の写真とか声とかもありますが、企業の事業であるとか、将来性とか、理念・ポリシーといったものがあるのが普通なのですが、国家公務員の試験ガイドには、それはありません。

 

別途、各省庁が採用パンフレットを作っているのでしょうか?あるいは、Webサイトをみて、どんな仕事をしているかは、自分で調べろというスタンスなのでしょうか?

 

それと、こらのパンフレットは、若手官僚の個人の写真を大きく扱っている点も、特徴的です。総合職の方は、聡明そうな方ばかりです。一般職の方も、負けず劣らずです。

こんな方感じの人が、国家公務員として、求める人なんだなとビジュアル的に理解できますが、ちょっと私には無理かもと思う人が出てきそうです。

 

もう少し、親しみのわく、敷居の低い、面白いパンフレットにした方が、受験者は広がるように思いました。

 

 新聞には、試験に合格した数字だけが出ていますが、採用されない合格者が、こんなにいるだなと思いました。総合職では3分の2が採用されず、一般職でも半分が採用されないというのは、どういうことなのかと思います。

公務員試験一般に絞ってきて、合格までしたけで、採用されなった人は、どうなのかなと思います。地方公務員等の試験を受けているのでしょうか?

 

昨今、一般企業の採用が早いので、公務員を志願しにくくなっているのだと思います。

アサヒとカルピスをつないだブランド憲法

どんなものか見てみたい

2019年6月28日の日経ビジネス電子版に、アサヒとカルピスをつないだ”ブランド憲法”という記事がありました。

アサヒとカルピスをつないだ“ブランド憲法”:日経ビジネス電子版

 

内容は、

  • カルピスは、親会社が変わる経験
  • 1990年に味の素からの出資。2007年には完全子会社
  • 食品と飲料で製品の特質が異なり、サプライチェーンの共通化などは難しかった
  • 2012年、味の素はアサヒグループホールディングスにカルピスを売却
  • アサヒ社長は、カルピスには、ブランド価値を高め続けてもらいたい
  • カルピスとアサヒは、組織風土に違い
  • 営業部門を別にして、なじませる時間をおいた
  • 2015年。2社で共通化できる強みは何か、議論
  • アサヒ飲料全社方針として、「ブランド価値の向上」を掲げる
  • 各ブランドの守るべき価値を定めた“憲法”を作る
  • ブランド管理委員会が定期的に社員に対して勉強会
  • アサヒ出身者に、カルピスの商品への理解を深めてもらう。カルピス出身者もアサヒ商品を理解してもらう
  • 2016年1月、カルピスとアサヒ飲料経営統合
  • 今では、生産から物流、販売体制まで共通化
  • 一緒になるときに大事なのは互いを認め合う度量
  • アサヒ飲料の“ブランド憲法”も、カルピスのブランド管理基準書を生かす形でつくられた
  • 買われた側を尊重できるかが成否を分ける

コメント

その通りだなあと思います。

現在のアサヒホールディングスは、アサヒビール中心のブランド理念はやめて、"ASAHI Group Philosophy”という形で整理をしており、多様なブランドを包含しやすい仕組みに変化しています。

 

nishiny.hatenablog.com

 

アサヒグループホールディングスには、カルピスだけではなく、もともと、NIKKAもあれは、三ツ矢サンダーまありま。ライセンス事業もあるようですので、多様なブランドがあります。

多様なブランドを受け入れる土壌はあったのだと思います。

 

ただ、カルピスの場合は、生産は、カルピス株式会社がやっているようですが、物流、販売まで共通化している点で、効率化が図れているということになります。

成功したM&Aといって良いのだろうと思います。

 

ブランドを上手く残してもらえるなら、アサヒグループホールディングスの傘下に入りたいという会社も出てくるのではないでしょうか?

 

記事にある、カルピスのブランド管理基準書、あるいは、アサヒ飲料の"ブランド憲法”は、Webで探してみたのですが、見つかりませんでした。

表に出ているは、アサヒグループホールディングスの"ASAHI Group Philosophy”だけです。これは、違うものだと思います。

 

カルピスのブランド管理基準書、アサヒ飲料のブランド憲法は、どんなものか、見たいなという気がします。

 

ブランドや商標の勉強会など、何かの機会に見ることができればなと思います。

 

特許庁の知財戦略事例集

100社を調査した結果の60社の事例集

2019年6月24日の日経新聞に、特許庁が、国内外の企業の知的財産戦略についての事例集を発行したという記事がありました。

知財戦略、国内外60社の事例集 特許庁 :日本経済新聞

  • トヨタマイクロソフトなど約100社の調査。60社の事例掲載
  • スタートアップ企業との連携が知財戦略の傾向
  • 経営層や知財担当者へのヒアリング結果
  • 今後、全国各地で説明会
  • オープンイノベーションや、異業種参入時に知財戦略が重要
  • トヨタが、IT企業が自動車分野に参入することを意識して、特許のライセンスを結んでいる
  • KDDIが、自社サービスを向上させるため、協力関係にある新興企業の権利化や訴訟対応を支援

とあります。

 

報告書自体は、次から入手可能です。

「経営における知的財産戦略事例集」について | 経済産業省 特許庁

 

コメント

これは、お金のかかっている調査だなと思いました。よくある、外郭団体の受託事業のように、まともに、複数の担当者を海外に送って調べているとすると、だいぶお金が、かかりそうです。

調査の実施主体が、PwCコンサルティングであり、世界各地に支社があると思いますので、そこからヒアリングに行ってもらえば、それほどはかからないのかもしれませんが、実際、どうやったんでしょうか。

 

PwCにとっては、特許庁からの依頼なので、表玄関から行ける面白い企画だったのだと思います。日本国特許庁の名前と、世界のPwCのネットワークを使えば、この調査も、思ったよりは、簡単に進むのかもしれません。

 

60社の事例が、ミソなのですが、これが、今の知財の現状なんだろうなと思います。各社、赤裸々にリアルなことを話している訳ではないと思いますが、世界の会社は、だいたいこのようなことを考えているということは分かります。

 

ただ、文章の意味を読み取るのは、これはこれで大変です。特許庁が、説明会をするようですので、それに参加した方が、理解できると思います。

 

新聞に、トヨタKDDIが例として出ていますが、トヨタは他に、ソフトウェアの特許の相互利用を行うコンソーシアムに入っていることが紹介されています。どんなソフトなのかはよく分かりません。

KDDIは、スタートアップが提案したアイディアが不当に取り扱われない仕組みを用意しているとあります。

 

nishiny.hatenablog.com

 

KDDIから見ると、スタートアップの活用が上手くいっているということになりますが、一方、より広い視点で見ると、スタートアップが元気にならないと、日本が元気にならないという面があり、従来の慣行を配して、KDDI的にやって欲しいという経産省特許庁の意向もうかがえます。

 

この事例集のもうひとつの価値は、外国企業の事例を掲載している点にあるように思います。巻頭にある鴻海の元法務部長の話は参考になりますし、やはり、海外企業は、戦略的発想で先を行っているなという感じがします。

 

企業の知財部は、こんなことをやっているだなということが、分かる事例集だと思いました。

ほとんど、商標やブランドは、言及がない感じです。実際、知財部ではなく、経営企画やコニュニケーション系の部門がやっていることも多いので、致し方ないというところでしょうか。

 

技術ブランディングGORE-TEXが参考になるでしょうか。

商標の米国最高裁判例

言論の自由違反

2019年6月25日のJapan Timesで、米国特許商標庁(USPTO)に出願され、拒絶を受けていた、「FUCT」商標についての不服申立が、米国最高裁まで進み、6対3で最終的に登録されることになったという記事を見ました。

  • 商標は「FUCT」
  • 米国では、「不道徳」または「スキャンダル」な言葉や記号の商標登録は、禁止
  • これが、米国憲法上の言論の自由の権利を侵害するかどうかの議論
  • 1905年から施行されていた法律を擁護するトランプ政権に反対し、ロサンゼルスのストリートウェアデザイナー、エリック・ブルネッティ氏を勝たせた
  • 9人の裁判官全員が、「不道徳な」商標の禁止は米国憲法の自由陳述の第一修正権利に反するとした
  • しかし、3人の裁判官が、「スキャンダルな」商標に関する制限は支持されるべきであるという異議を唱えた
  • 世界には多くの不道徳やスキャンダラスな言葉があり、神に対する誓いの言葉以上の数があり、それらを登録できないとすると修正1条に反する(Kagan判事)
  • 3名の裁判官は、政府は「想像できる最も下品な、冒涜的またはわいせつな言葉や画像」を登録する以外に選択肢がなくなると反論
  • そのような言葉は喧嘩にさえつながる可能性があると述べた
  • 出願人は、自分のブランドのカジュアル服を模倣品業者から保護するために商標登録を求めた
  • 出願人は、ブランド名は冒涜との関連性も巧妙に処理していると述べ、その頭字語は「Friends U Can't Trust」も意味するとした
  • 知的財産法を専門とする米国連邦巡回控訴裁判所は、2017年にブルネッティを支持していた
  • 米国市民自由連合は、政府担当者が、スキャンダルや不道徳を判断すべきでないと主張
  • トランプ政権は、商標登録システムを通じて宣伝することを防止したかった

 

コメント

FUCTは、Fucked(男に✖✖✖された)という音を表記したものだそうです。

https://otasuke.goo-net.com/qa355532.html

 

米国最高裁判所の2017年の「The Slants」に続く、判決です。法改正まで行くのか、当面、解釈で逃げるのかは分かりませんが、不道徳、又はスキャンダルな言葉であるという拒絶は、出なくなるのだと思います。

 

日本でも、4条1項7号の公序良俗違反になるのでしょうが、登録すると、何で審査をしているのに、そんな商標を審査官は登録するのかと怒られ、拒絶すると、表現の自由に反すると云われて、審査官・審判官も大変だなと思います。

 

政府が商標登録をしたからといって、何も、政府はその言葉の使用を奨励したり、商品の品質を保証したりしているのではありませんし、そもそも、そのような商標でも、使うのは自由です(今回の裁判でも、9名全員で、そう確認しているようです)。

 

登録に、政府のお墨付き的なものを与えるのか(社会主義国の商標法の基本的発想)、そんなものはなく、出所混同防止ができれば、それで良いとするのか(自由主義国の商標法の基本的発想)、の違いであるように思います。

 

拒絶したって使えますし、模倣品は出てくるでしょうが、それは仕方ないとして、不競法で戦う方法はありそうです。

 

公序良俗違反のような条文は、恣意的に適用されやすい条文ですので、できるだけ適用しないようにするというのは、健全ということでしょうか。

 

以前から、日本人がT-シャツに書いている英語が、実は海外では使ってはいけない言葉であるということが多く、注意が必要という話があります。

 

もし、日本で、「FUCT」のの商標調査依頼があっても、分からなかったと思います。アメリカを市場とした調査依頼なら、アメリカの弁護士に聞きますので、そのフィルターで引っかかりますが、日本の調査では無理です。

 

日本にも、外国人は多く、英語の分かる人も多いので、日本だけで使用する商標でも、英語で卑猥等の意味のある商標は避けた方がよいのはもちろんです。

長持ちする商標を創りたいなら、日本だけの商標でも、少なくとも英語のネイティブチェックはすべきです。

 

今回の出願人は、分かった上で、採用しているの、この話とは違いますが。

 

ロシアの模倣品対策

国家情報監視システムによる製品マーキング

2019年6月27日のJETROのビジネス短信で、ロシアの連邦政府が、タイヤと衣類・軽企業品の製品に、マーキング貼付試験を開始するという記事を見ました。

連邦政府、タイヤと衣類・軽工業品の製品マーキング貼付試験を開始 | ビジネス短信 - ジェトロ

 

概要としては、

  • 製品流通状況をモニタリングする国家情報監視システム
  • 試験を通じた関税・諸税の税収増への貢献
  • 監督当局および市場参加者などとの情報連携体制の運営確認
  • 対象製品の生産・流通を管理する法令案の策定

 マーキング識別手段の貼付義務化は、たばこ、靴、香水・オーデコロン、カメラに続くもの。

 

同じく、2019年4月10日のJETROのビジネス短信には、

  • 官民パートナーシップで統一製品デジタルマーキング・追跡国家システムを開発
  • マーキング・追跡システムに必要な機器の生産
  • デジタルマーキングを用いて模倣品、密輸品、類似品から消費者を守ため、統一カタログ「真正なマーク」を作成

とあります。

製品流通経路把握に向けた国家情報監視システムの運営会社決まる | ビジネス短信 - ジェトロ

 

さらに、2018年12月28日のJETROビジネス短信に、今回の制度の詳細が出ていました。

  • 義務的マーキング対象製品の流通経路を把握(モニタリング)する情報システムを構築する法改正
  • 対象製品の流通過程で主体(製造者、輸入者、販売者など)となる法人や個人事業主に政府への情報提供義務
  • 施行は2019年1月1日
  • 流通モニタリング情報システム
  • マーキングコードや識別コード
  • 目的は、商品群の流通情報について、その収集・処理プロセスの自動化、保管、アクセス保証、提供、周知ならびに流通とトレーサビリティーに関する情報交換の効率向上
  • オペレーターはロシア政府により決定
  • 情報自体の所有権は連邦政府に所属
  • 製造者は政府の定める方法により自社製品に関する情報を無償で受け取ることができる
  • ロシア国内とユーラシア経済連合(EEU)域内への知的財産侵害品や粗悪品の流入防止などを目的
  • 生産者から消費者に至るまでのトレーサビリティー制度の構築を推進
  • ロシア国内ではEEUに先行して義務的マーキングの対象製品の拡大が予定されており、並行して流通情報を把握するシステムの構築が進むことが想定される
  • EEUの加盟国はロシア、ベラルーシカザフスタンアルメニアキルギス

特定製品の流通経路把握に向け法改正実施、企業に情報提供義務 | ビジネス短信 - ジェトロ

とあります。

 

コメント

JETROのビジネス短信は、一般紙には出ない面白い記事が多いのですが、これもそうです。ただ、順番を追って、深く見て行かないと、全体像が分かりません。

 

今回のものも、ロシアの新興財団などとロシア政府の合同で、トレーサビリティのシステムを作っており、模倣品が多そうな、たばこ、靴、香水・オーデコロン、カメラ、タイヤ、衣類、軽工業について、実験をしているということになります。

 

日本でも、偽造防止技術などの紹介がありますが、いちいち、盛り上がりには欠けています。 

nishiny.hatenablog.com

 

今、模倣品対策は、メルカリやフリマ、コメ兵の方に、面白いものがあります。 

nishiny.hatenablog.com

  

nishiny.hatenablog.com

 

nishiny.hatenablog.com

 

ロシアに戻りますが、国家レベルで、ここまでやるというのは、余程、ロシアは模倣品で困っているんだろうなという気がします。

 

モンゴル、中国と広い陸路で、接していますので、どこからでも模倣品が流入します。港で、一応、チェックができる日本とは大違いです。

 

ロシアのような国家権力が強い国でないとなかなか進めることができないものかもしれません。どんなシステムで、どんなマーキングで、どんな仕組みなのか、NHK特集ででもやって欲しいところです。

 

そもそも、商標制度は、出所混同の防止のためにあるといいますが、現在の模倣品の状況を見ると、商標制度は模倣品には無力です。警察でも重要事件の後追いしかできませんし、アメリカや英国など、伝統的に刑事罰のない国も多いと思います。

ネットの時代ですし、代替技術はあると思いますので、そろそろ商標制度に替わる、出所混同防止のシステムが出てきてもおかしくありません。

そもそも、商標制度自体、200年程度のものです。

 

特定の商標使用者に、商標使用の専用権を与えれば、出所混同を防止できるなんていうのは、虚構です。商標権者が、自分で差止請求や、損害賠償請求(模倣品対策)を、死に物狂いでやることが前提になっていますが、それができる企業がどれほどあるでしょうか?

警察は、他に殺人事件や、重要事件があるのに、模倣品にばかり係わってはおれません。目立つ案件で、得点稼ぎをする程度です。

ロシアのような、トレーサビリティのシステムを導入してあげないと、商標制度だけでは無理があります。

 

そうなると、商標法の目的は、より宣伝・広告機能に近くなり、ライセンスの対象物というものに近くなります。

また、指導理念も、出所混同防止だけではなく、サーチコスト理論に近くなるんだろうなという気がします。

 

商標法の制度設計や、商標法の解釈も、この事実を前提にして、考えないと、机上の空論、世の中から乖離した制度になってしまうような気がします。

 

その意味では、税収目的など、別の目的が付加されているのは、気にはなりますが、ロシアの制度は注目に値します。