Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

「マリカー」の議論(3)

法解釈の視点

マリカーの行為は、法的にはどのような問題となるのでしょうか。任天堂の主張は、著作権侵害と不正競争行為です。

著作権侵害

日本ではコスプレは大流行です。子供のお供で、幕張のジャンプフェスタや池袋のコスプレ会に行ったことがあり、そこで沢山のコスプレーヤーを見ました。彼らは、基本、個人で服を作って、個人で楽しんでいるようです。著作権には、私的使用の複製を著作権侵害としない例外規定(著作権法第30条)があり、そのため、この程度なら著作権侵害になりそうです。(法律の文言上は、例外は家庭内等に限るとあり限定的です。)

コスプレ大会の主催者などは、個人とは言えないので、グレーゾーンであり、現状は、お目こぼしをしてもらっているようです。著作権者の許可なく、コスプレの衣装をレンタルすることも、著作物の複製をするためにレンタルすることになりますので、著作権侵害を促進する行為であり、共同不法行為か間接侵害になりそうです。

中国北京の石景山遊楽園は、あまりにキャラクターのコスチュームが偽物くさくて、本物ではないと直ぐにわかるという面がありますが、それを横に置いて考えると、事業者自体がストレートに著作権侵害をしており、ややこしい法律の理屈は必要ありません。

しかし、少し離れて観ると、今回のマリカー石景山遊楽園のやっていることは、結果としては大差なく、マリカーは、任天堂のキャラクターの恩恵を十分に受けていたと言わざるをえないと思います。

② 不正競争防止法
任天堂ニュースリリースによると、1)マリカーが社名に「マリカー」を使っている点と、2)任天堂のキャラクターのコスチュームを着た人達の映像・画像をSNS等で拡散して宣伝営業に使って、顧客誘引をしている点を不正競争防止法上問題ありとしています。 

www.nintendo.co.jp

ここまで大々的に公道を走られたり、SNSで拡散されたりすると、任天堂自体が運営している、あるいは、任天堂マリカー社にライセンス許与して協力しているという誤解が生じる可能性があります。

また、マリカー任天堂が運営していると消費者が理解した場合には、マリカー側の不手際で事故が起こった場合でも、消費者が任天堂に対して、損害賠償請求してくるかもしれません。(任天堂に責任はありませんが、消費者としては訴えやすい任天堂の責任追及をすることもありえます。)

遊園地などでマリオカートをする場合と、東京の街中の公道でマリオカートをする場合では、事故の危険性は格段に違うことは明らかです。

③商標権はどうなっているのか

マリカー」の商標権はどうなっているのでしょうか。「マリカー」商標はマリカーと尾田久敏なる個人が出願(一部は権利になっています)を持っており、一方、「マリオカート」は、任天堂と尾田久敏なる個人が、出願(一部は権利になっています)をしています。商標権の所有状況は、だいぶ錯綜しているようです。

こういう事件が起こったときは、後付けで、出願しておけばよかったと云われますが、通常、企業の商標権取得の予算は限られており、不要な出願や、可能性だけで出願できるものでもありません。「マリオカート」は出願しておくべきと思いますが、その略称の「マリカー」までは出願しないというのは、通常の判断だと思います。

法的には、上記の①~③ですので、一番、マリカーを止めやすい、「マリカー」商標権を任天堂はもっていないので、非常につらい立場にあります。(侵害訴訟でも、最近は商標権侵害だけではなく、著作権不正競争防止法とかいろいろ組合せますが、商標権があることはやはり非常に強いのです。)

商標権がないので、著作権侵害か不正競争行為でマリカーを追及するしかありません。任天堂の立証次第ですが、キャラクターコスチュームのレンタルや、マリカーSNSでのキャラクターコスチュームで運転していること掲載する行為を止めること程度は可能ではないでしょうか。任天堂が、社名の差止まで請求しているかは不明ですが、一般論でいうと、社名の差止は影響が大きいので、裁判所も慎重になると思います。最終的には、「マリカー」名称の著名性に依存しますが、まずは、商標無効の判断からスタートするとなると、相当な長期戦になることが予想されます。