Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

コメダ珈琲のトレードドレス

和歌山の事件は和解へ

東京地裁が、2016年12月に仮処分を認めていた、コメダ珈琲店和歌山市の喫茶店運営会社の裁判(本訴)が、和解になったというニュースが、2017年7月7日の朝日新聞に出ていました。

www.asahi.com

  • 店舗外観などの使用差し止めと損害賠償を求めた東京地裁の訴訟の和解が成立
  • コメダ側の主張は、喫茶店の屋根や窓の形、提供する飲食物と食器の組み合わせなどがコメダと酷似というもの
  • 店舗外観の使用差し止め、2,000万円の損害賠償支払いを求めた本訴が和解
  • なお、仮処分については、2016年12月に決定あり。「あまりに多くの特徴が類似している」として、店舗の使用を禁じ、店舗の写真や絵を印刷物やウェブに乗せてはならないと命じていた

とあります。

 

2017年7月6日の日経によると、和歌山の喫茶店経営会社は、仮処分の決定後、営業を一時停止し、外観などを改装した上で、営業を再開していたそうです。

日経は、コメダ側は、仮処分決定で店舗の類似性が認められたことで一定の目的達成されたと判断し、和解したとみられると記載しています。

 

コメント

いわゆる「トレード・ドレス」ですね。

30年前の学生時代から、アメリカの判例ではトレード・ドレスが認めらており云々と紹介されていましたので、古くからある論点です。

 

模倣をどう捉えるかについては、他人の権利の侵害をしてはいけないが、模倣自体は悪いことではなく必要なことであるという理解が、一般的ではないかと思います。

 

例えば、スターバックスが流行ると、それにそっくりなイメージの喫茶店が沢山出てきます。しかし、どこまで似ると権利侵害になるかという点は、非常にグレーです。

類似の喫茶店が出てきたからと言って、スターバックスは本物としてますます流行っています。被害があったとも言えません。

 

商標権などがあるとまだわかりやすいのもしれませんが、それでも店舗外観が良いところで、看板のレイアウトとか、内装とか、メニューとか、食器の類似性まで、商標登録に対象にするのは難しいと思います。 

 

 Wikipediaを見ていると、日本では、「めしや食堂」「西松屋」の事例が記載してあったのですが、トレード・ドレスを認めた例はないとありました。 

 トレードドレス - Wikipedia

 

nishiny.hatenablog.com

 

トレード・ドレスは、メインは不競法マターの判断となり、サブでその構成要素の店舗外観や、使っているマークを商標登録するというところだろうと思います。

 

立体商標も商標登録できますので、ひと昔前のマクドナルドの郊外店舗なら立体商標で登録はできそうですが、その登録とそっくり同じ外観の店舗ばかりかというとそうではありません。本人自体が時代に合わせて、どんどん改良を重ね、違ったトレード・ドレスを使うことがあります。

本来、主張したいのは、消費者等に一定のイメージで認識はされている特徴でしょうが、これを数枚の図面や絵では表現できないと思います。感性的ものの寄せ集めであると思います。あえて明確にするなら、箇条書きの文章で表現か、多くの写真や絵で表現するかです。

 

消費者の意識は、アンケート調査で明確にする方法もありますが、日本企業の法務や知財がアンケートに慣れていないので、実施するアンケート調査のレベルが低いのが現状です(ブランドマネジメントでもアンケートを活用していますが、裁判に出てくるものよりは、余程しっかりした内容だと思います)。

 

現状からすれば、基本は今回のコメダ珈琲のように、警告書の送付や、訴訟提起で、自分の権利を勝ち取っていくべきものなのだと思いますが、この方法は非常にコストがかかるのは事実です。

本当は、特徴の明確化や、アンケート、警告書送付、訴訟に、もっとコストをかけるべきなのかもしれません。ブランドは、PRや宣伝で作られる面もありますが、アップルを見ていると、法務が契約書や裁判でブランドを作っていってる面があります。

ここに費用と手間を惜しんでは、いけないように思います。その意味で、コメダ珈琲は偉いと思います。仮処分ですが、勝ち取っているのも凄いと思います。

 

一方、 従来型の商標や意匠の登録では、完全な権利を取るのは無理がありますので、新しい登録制度というのも、議論としてはわかります。 

あらたしく設置される「産業競争力とデザインを考える研究会」でも議論されるようですので、期待しています。