Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

中国の商号判例(氏名と商号との抵触)

慶豊包子舗事件

2017年9月7日の特許ニュースに、中国の商号判例紹介がありました。林達劉グループの北京林達知産権研究所 北京魏啓学法律事務所の魏啓学さんと李美燕さんの判例解説です。2016年中国法院10大知識産権案件(JETROの調査資料もあるようです)にあるようです。

 

中国北京が本拠の北京慶豊包子舗(以下「慶豊包子舗」という)は、肉まん店のチェーン展開をしていて有名なようです。一方、被告は山東慶豊餐飲管理有限公司(以下「慶豊餐飲社」で、その代表者は「徐慶豊」という個人です(簡体字では「徐庆丰」)。

慶豊包子舗は、「慶豊」商標について、42類の「レストラン等」を指定役務にした商標権を持っています。また、「老庆丰/LAO QING FENG」という商標について、30類の「饅頭、肉饅頭等」を指定商品にした商標権を持っています。

 

被告は、吉利餐庁など8つの企業内食堂で営業をしたようですが、その時に使用したスローガンは、「庆丰餐飲の全社員は貴方を歓迎する」というものでした。その他、公式サイト、店舗ドア、メニュー、広告・宣伝で、「庆丰」や「庆丰餐飲」を使用しました。

一審と二審

一審の山東省済南市中等裁判所での判断は、次のようなものです。

慶豊餐飲社の主張:会社の代表者の名前を商号として登録する権利があり、登録した商号は使用する権利があり、また、慶豊包子舗は著名商標ではなく、使用商標も同一・類似ではない。

一審の判断:字体、大小と色彩上、際立てて使用していないので、商号の合理的な使用に該当する。また、慶豊餐飲社の商号登記時に山東省や済南市では有名ではなく、商標権侵害を構成しない。

二審の山東高等裁判所は、一審を支持しました。

 

最高裁判所の再審

本件は、最高裁に再審請求され、最高裁は商標権侵害と不正競争の双方を認定して、一審、二審を取り消して、商標権侵害行為と商号の使用停止を命じる判決を下しました。

徐慶豊氏は、かつて北京餐飲業界で勤務していたことがあり、慶豊包子舗の知名度や影響力を知っているはずで、ただ乗りの悪意を有し、公衆に誤認を与える恐れがあるので商標権侵害に該当し、また、慶豊包子舗は商号でも有名であり、同一種類の営業をすることは商号へのただ乗りもあり不正競争でもあると判示しました。

 

解説 

魏さん、李さんの解説には、法律の適用関係が丁寧に説明されていました。

  1. 商標が「著名商標」の場合は、当該商号の使用が、商標権侵害、不正競争になる
  2. 「著名までいかない商標の場合」は、商号の商標と言われている部分が、際立てて使用しているかどうかが判断のポイント
  3. 今回、一審二審は形式的に字体、大小、色彩等の使用態様を際立てて使用していないとしたが、最高裁は公衆の認識を中心に、文字「庆丰」を使った被告使用行為は商標的な使用に該当するとした(商標権侵害)
  4. 「著名でもなく、際立て使用するものでもない場合」は、不正競争があり、先行商標の知名度、商号使用者のただ乗りの主観的な悪意、客観的な誤認混同のおそれなどから判断する(不正競争防止法違反)
  5. 今回の最高裁は、不正競争行為を商号同士の比較で認定していますが、被告の商号と原告の商標でも商標権侵害状態にあり、よって、被告商号と原告商標の比較でも不正競争防止法違反になるのではないかと議論を展開しています

コメント

判決は納得できるものです。

特に日本企業の商標や商号といった、ブランドが中国企業の商号として取得されてしまい、商号の使用であるという後ろ盾の下、実質的に商標権侵害が生じることが良くあるので、商号についても商標権侵害や不正競争防止法での規制がかかるようになることは望ましいと思います。

ちょっと古いですが、「日本雅馬哈(ヤマハ)株式会社」事件、「香港松下電器」事件などに、通じる論点です。

 

今回は、代表者の氏名であり、氏名権(中国ではこの言葉を使うようです)がありますので、商号の採用に一定の正当性があり、どちらが保護されるかということで、公衆の利益を優先したのだと思います。

 

今回の慶豊包子舗の説明が下記のサイトにありました。

timor-sparrow.net

 

2016年中国法院10大知識産権案件には、有名なマイケル・ジョーダンの中国名(喬丹)を使った「喬丹体育」の事件もあったようです。

 

中国では、日本の20倍の商標出願がありますので、商標権侵害などで、裁判に争われる案件も非常に多いはずです。

中国の判例は事件としても面白いものが多く、また、中国には賢い人法律専門家も沢山いるので、徐々に判例も整備され、法律運用レベルも日本を超えてくるのも時間の問題という気がします。

 

だた、今回の解説にもあるのですが、「著名商標保護に係る民事紛争案件審理における法律応用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈」とか、「商標民事紛争案件審理における法律適用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈」など、司法が作った規則があり、それが適用されています。

自由主義の国では、通常、判例を法学者や実務家が判例評釈して、判例の背後の理論が整理しますが、中国では裁判所自身が解釈指針を決めている(あるいは、解釈という名の立法行為をしている)ようですので、この点は、やはり違和感があります。