王 萌 弁理士の講義
少し前ですが、2017年9月27日に日本商標協会の実務検討部会が開催した、中国の「商標審査基準」と「商標審理基準」の改正の説明会に行ってきました。
講師は、北京成城一心知的財産代理有限公司の、所長の王 萌 (おう もえ)弁理士です。
膨大な量の中国の商標出願を処理するためには、審査基準などが整備されていることが重要です。現在の中国商標法は、2013年の第三次改正商標法ですが、この法律に対応した審査基準と審理基準が、2017年になって公表されました。12年ぶりの改正ということです。
王先生は、大手のKing & Woodにおられて、その後、独立された女性弁理士です。早稲田大学に交換留学で来られていたようで、日本語が堪能です。話をして違和感がありません。若いうちに留学することは、大切なことだと思いした。
審査基準は商標自体の登録性(識別性、違法性・合法性)についてのもので、審理基準は第三者の権利との調整(先行商標との関係、不使用、無効)のものです。2つでワンセットのようです。
面白かった点は、次のような点です。
- 審査意見書制度の導入
中国では、出願に拒絶理由があるときに、意見書を出せず、すぐに拒絶査定になり、不服申立は審判請求しないといけませんでした。これは、海外からも不満の多いところでした。
今は、一部、使用証拠を出せば登録になるようなケースや、商標の構成要素に権利不要求を求めるような時に、審査官の裁量で、意見書を提出できるようです。
大量の出願を処理するには、意見書提出など、時間のかかるものは、対応できなったのだと思います。
- 商号商標の識別性欠如
中国では、単純に「⚫⚫株式会社」というような、商号商標(商号をそのまま商標出願したもの)は、識別性なしとして、登録にならないようです。
商号は、商号で、別途、会社法?などで保護があるので、そっちで対応してくれということだと思います。
商号商標を登録するためには、図形要素を付加するなどの工夫が必要なようです。
- 代理人・代表者による不正出願、特定関係人による不正出願、先使用権
ここが、一番面白かった点です。代理人・代表者による不正出願を拒絶するのはパリ条約の義務ですし、(先に使っているものを一定条件下で使用継続を認める)先使用権は日本にもあります。しかし、特定関係人による不正出願というのは聞いたことがありませんでした。
売買関係、委託加工関係、加盟関係、投資関係、スポンサー、共同開催、業務考察、狭義関係、広告代理関係、その他の商業往来関係(親族関係、従属関係=元社員など)があるときは、本来の権利者が権利をもっていなくても、先に使用していることと、知って使ったことの立証で、それらの特定関係人の出願を排除できるようです。
代理人・代表者の不正出願を、広くしたような規定です。実際上、このような事例が多いということでしょうか。
また、代理人・代表者の不正出願、特定関係人の不正登録、先使用権を並べて説明していたのは、非常に秀逸だと思いました。
台湾と違って、中国の先使用権は、周知のようなものを要求し、ハードルは日本に近く高いようですが、先使用という観点で、特定関係人の不正登録と近いものがあります。
所属部会は違うのですが、懇親会にも参加しました。自分が所属していない部会の飲み会に参加するのも、たまには良いなと思いました。王先生にお名前の中国語の発音を聞いたのですが、日本式の「おうもえ」でよいとのことでした。