Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

「AIで弁理士が失業」への反論

弁理士会副会長が説明

2017年11月16日 のIT Mediaに、先日の日経新聞で紹介されていた、野村総研とオックスフォード大学の共同研究で出てきた、「AIで弁理士が失業」という記事について、弁理士会の副会長の反論記事がありました。

www.itmedia.co.jp

 

問題となっている日経新聞の記事は、2017年9月25日、日本経済新聞が報じたもので、野村総研と英オックスフォード大学の共同研究で、「弁理士業務の92.1%がAIで代替可能」いうものです。

www.nikkei.com

AIに代替されるは、弁護士は1.4%の業務、弁理士は92.1%とあります。中小企業診断士への評価が高く、代替の可能性は、0.2%とあります。

www.nikkei.com

これに対して、10月9日の日経には、弁理士会会長の反論が出ています。弁理士の仕事を各種定型書類の提出と、中核の業務である特許明細書の作成に大別し、全社はAIで代替できそうだが、後者は一品料理を作るような極めて個別で創造的な仕事として、反論しています。

  • 発明者は発明の内容を理解しているが、特許として有利に記述するノウハウは持たない
  • 弁理士は発明者の話を聞きながら、その表情も読み取りつつ、明細書を書き上げていく
  • 当面、AIにできるとは思わない

とあります。

そして、5割は代替されるのか?という質問に対して、せいぜい4割と答えています。減った業務は、コンサルで補うとしています。

 

このような経緯のあと、今回、弁理士会副会長が、パワーポイントまで用意して、反論したようです。マスコミを集めた説明会でも開催したのでしょうか。

  • 弁理士業務は、発明者へのヒアリング、特許調査、明細書作成、商標登録出願、ライセンス交渉・契約、審決取消訴訟、侵害事件まで多岐にわたる
  • AIが得意な分野やAIに任せればよいが弁理士には、人間的な業務が多く、AIには向かないものがある
  •  定型的な書類作成や情報検索、統計的分析などはAIに向くが、対人スキルが必要な場面は人間の方がうまく対応できる
  • 人間とAIの協業に可能性がある

 

 コメント

日経の記事を読めば分かりますが、弁理士会会長の話は、記者の誘導というか、誤解があるようです。日経記者は、特許事務所を見学したことが無いのだ思います。

弁理士会会長が、各種定型書類の提出と明細書作成の2つに大別したので、50:50の比率と記者が早合点したようです。そのため、50%が無くなるやら、40%ぐらい無くなるという不毛な議論になってしまっています。

 

明細書の作成がAIにできるなら、訴訟の準備書面の作成や契約書の作成もAIにできるので、弁護士業務のAIで代替される比率は、1.4%ではなく、50%以上になるはずです。弁護士の業務で、AIにできないのは法廷に出ることぐらいですが、全体の中で比率は低いと思います。

 

たぶんですが、弁理士会会長は、定型書類の提出、いわゆる特許事務管理のことをイメージしたのだと思います。特許は、経理処理のようなものが、大量にあります。この点、確かに、そこは、AIで代替できるものがあると思います。この点、今でも、法律事務所などに比べれば、特許事務所のペーパーレスや機械化は進んでいる方ですし、事務管理のAI化は、どのような業種の企業でも同じように進展しますので、何も特許事務管理に限ったことではありません。ほとんどの民間企業が皆同じです。

 

誤解を放置しておけないということで、弁理士の業務は幅広く、また、分析・統計といったAIが得意な分野ではないヒューマンな要素が多いという、副会長の反論になっていると思いました。

 

弁理士会会長の説明を待つまでもなく、明細書作成は、今のところ、AIには無理です。アメリカでは、弁護士業務のうち、証拠開示(Discovery)でAIが使われているです。メールやサーバーにあるデータの解析ですね。

 

特許調査はAIが活用できる可能性があるのですが、翻訳よりも難しいのではないかと思います。その当時の技術水準の理解というものが、その道のプロの技術者でないと、できないと思います。技術者の頭は技術が抽象化されていると思います。

知財の調査系でも一番先に、機械化が進んだ、商標調査はどうかというと、審決のDeep LerningができればAIが貢献する可能性があるように思います。審決の膨大なデータはあり、AI化に向いているのですが、問題は、商標の事業規模が小さすぎて、AI投資をすることができないとい点です。

政府の予算でもつけて、実験的に商標のAI化をやる方法はありますが、より本質的に考えると、折角AIを使うなら、商標の著名性など検索エンジンと連動させて判断可能ですし(ブランドの認知度の判断を検索エンジンでやることも可能です)、商標制度そのものを、使用主義的に変更することが可能であり(商標使用の実際は、ある程度の情報がDesk Top分析で出ます)、そちらが先決ではないかと思います。

 

新聞記者は、知財業務でのAIの可能性を発見したいのだと思いますが、現状、まだではないでしょうか。

 

まったく違い意味ですが、IT Mediaに、本当のAIは、単純労働に影響するのではなく、ファンドマネジャーや医者、弁護士といった知的生産物を創造するナレッジワーカーにこそ影響するという話がありました。

看護師の仕事は無くならず、判断する医師の仕事は無くなるとあります。

それは、そうかもしれません。2045年にシンギュラリティが来るとの予測です。

www.itmedia.co.jp