Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

確信的な(悪質な)特許権侵害への対応

パナソニックの豊田さんの寄稿文を読んで

2017年12月21日の日経の私見卓見というオピニオン欄に、パナソニックの元知的財産センター長の豊田秀夫さんの寄稿文がありました。

www.nikkei.com

内容は、確信犯的に特許を侵害する悪質な企業が増えている。国際的な大企業のときもある。パテント・トロールより深刻な問題。しかし、特許庁などの危機感は薄い。早急に、実態調査や対策を講じるべきというものです。

 

説明としては、ライセンス交渉をまとめるには、手間とコストがかかるが、技術革新は速く、交渉妥結を待たずに製品が市場から姿を消すことも珍しくない。そして、交渉を引き延ばして特許を侵害したまま逃げ切ろうとする企業がいる。

パテントトロールは、訴訟をふっかけて和解金を得る手法。金額の折り合いさえつけば交渉はまとる。

これに対し、ごねて特許権者をあきらめさせたい、悪質な特許侵害企業との交渉は難しい。裁判を起こしても、時間とコストがかかる。「差し止め請求権」も、なかなか認められない。

特許庁は、新たに「裁定制度」の構想を出したり、異業種間の交渉のガイドラインの策定を準備したりしている。

しかし、トロール対策ばかりが強調され、悪質な特許侵害企業に関する議論や実態調査はほとんどない。

このままトロール対策に偏重した制度設計が進めば、特許権者の権利が不必要に制限され「特許のただ乗り問題」を助長させかねない。バランスの取れた議論が必要。

 

詳しくは、日経を見てください。

 

コメント

トロールは、だいたいイメージできます。特許権を企業から買い取り、裁判を起こし、その間に交渉をして、ある程度の金額をせしめる会社という理解です。相手方は、製品の販売はしていないので、クロスライセンスができす、どうしても対価が高額になるのが、対応が難しい点とされていました。

 

日本の裁判所は、コストは大したことがないのですが、裁判を提起しても勝てないので、トロールも日本を飛ばして、ドイツ等で裁判を起こすという話がありました。 

nishiny.hatenablog.com

 

一方、豊田さんの話は、確信的(悪質な)特許権侵害企業ということで、 模倣品・海賊版対策の特許版のようなことと理解して、考えてみました。

 

一読しただけでは、確信的(悪質な)特許権侵害企業というもののイメージがつかみにくかったのですが、仰るように、ITなど製品の移り変わりの速い分野では、逃げ切ろうとする企業がいるというのは、事実だと思います。

模倣品対策で言われている、モグラ敲きであるとか、イタチごっこ、という言葉が、この種の特許権侵害企業には当てはまるのだと思います。

 

スタートアップの会社には皆さん優しいですし(実際、影響もないことも多いでしょうし)、外国企業で特定国でのみ活動して日本に入ってこない会社(製品を日本で販売しない会社)の場合はどうすることもできません。

 

ある程度の規模をもって、日本で活動しているが、特許を無視する会社に、特許権者として、差止請求するのは正当な権利行使ですので、それを円滑にできるようにすべきという話だと思いました。

 

私見ですが、このような問題に、対応するには、素早い判断で差止が認められる制度が必要です。

 

外から入ってくるものについては、アメリカのITCの差止のようなものが必要ということになると思います。たぶん、アメリカでも連邦地裁ではなく、行政機関が行っているので、素早い動きが可能だからです。しかし、現在の日本の税関は、著作権、商標権、意匠権など、現在の税関職員が簡単に止められるものはやりますが、特許は難しいと思います。法改正も必要でしょうし、特許庁からの出向とか、弁理士の採用とか、工夫が必要です。

 

もう一つは、国内向けの話ですが、韓国の確認審判制度です。技術的範囲の検討を技術的素養のない裁判官と弁護士がするのは無理です。今回、ロースクールでも、技術の分かる司法試験合格者を増やすという方向をトーンダウンしたように、裁判官や弁護士では無理があります。韓国の制度の方が、良いと思います。

 

この2つを組み合わせると、ある程度、豊田さんのいうものに、対応できると思います。また、特許権者を、バランスの取れているところよりも、少し有利にしたぐらいの方が、経済は発展すると思いますので、日本全体にとっては良いことだと思います。

しかし、これらの実現には、頑強な反対勢力がいそうです。