Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標とネーミング

ネーミングプロセスの研究

知財管理のVol.67の12号に、「商標及びブランディング観点を踏まえたネーミングプロセスの研究という論説が載っていました。

www.jipa.or.jp

知財協会の商標委員会の第2小委員会のテーマということです。抄録は誰でも見れるところにあり、詳細は冊子なりで確認が必要なようです。

大略は、次のようなものです。

  • 商品・サービスの名称は、事業部などのネーミング部門が開発
  • 権利の観点から、商標部門による商標調査をクリアする必要がある
  • 名称の採択可否の判断でしばしば両部門間の意見衝突が生じる
  • 委員自身がネーミングプロセスを体験し、ネーミング部門の視点の理解を試みた
  • 商標部門は、名称の重要度を考慮し、リスク対応を提案し、調整が必要
  • 商標教育という解決手段から、効果的なネーミングプロセスのあり方を提言

 

詳細は、知財管理を読んでいただきたいのですが、まず、ネーミング部門にはその名称へのこだわりや愛着があり、駄目だと言っても説得が容易でなく、その原因を探ろうとネーミングを実体験したということです。

 

ネーミング部門は、ターゲットへの訴求力のある名称を求め、商標部門は商標の使用の安全性を求めるので、認識のズレが生じる。調整が必要になるが、名称の重要度と商標リスクを共有して、調整する必要がある。また、当該企業におけるブランド体系やブランド理念などに反する場合は、商標部門からも指摘が必要となる。

 

そのため、当該ネーミングのポジショニングの明確化が重要で、マップ化の提案があり、名称の寄与度、商標の重要度、企業のブランディングの方針のほか、当該ネーミングについての情報や、経営情報まで入れて、検討することが必要であり、商標部門には十分な情報が必要であり、ネーミングの当初から情報を共有できるスキームが必要と締めくくっています。

 

コメント

商標部門が、ネーミングの実務を体験したということだけでも意味があると思います。貴重な経験になったと思います。

一方、ネーミング部門が、商標調査をすることは、最近ですので比較的簡単です。調査の費用もかかるので、調べ方を宣伝担当者などに伝授すると、案外ちゃんと調べてくれます。

 

そういう意味では、ネーミング部門には商品情報、事業の情報、商標情報がありますので、商標部門だけが純粋に商標登録だけを見ているということになりがちです。

 

この論文では、あまり言及されていませんが、商標部門の良いところは、全社の関所になっているところだと思います。ネーミングを開発する部門が、マーケティング本部に集中しているような場合はまだ良いのですが、事業部に分かれ、各部門がバラバラに、ネーミングができるとすると、コーポレートブランドや、ブランド体系、ブランド理念と抵触する可能性が非常に高くなります。

ブランド部門が調整するのであれば良いのですが、ネーミングのチェックをブランド部門でやっていない場合は、商標部門がその役割を担うしかありません。

 

ブランド部門がなどがない時代でも、商標部門と宣伝部門だけの会社でも、上手くやっている会社はいくらもありましたので、商標部門がその気になれば、ブランド部門なんて不要です。しかし、そのためには、単に商標登録の知識だけではなく、宣伝部門やマーケティング部門に負けないブランド論や経営学理論武装をして、丁々発止やりあう必要があります。

 

この論文には、商標部門は商標リスク対応部門とありますが、全社の商標を良くする責任がある部門と位置付けることもできます。

ブランド部門ができてしまい、商標部門の地位は相対的に低下しました。ただ、ネーミングまで手の回っていないブランド部門が多いと思いますので、商標部門としても攻めるチャンスがあるように思います。

 

商標部門は、商標法的に問題はなくても、企業の矜持のために、NGを出しても良いのです。その部分が、現代的にいうと、ブランドマネジメントと言っているだけだと思います。