Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標登録表示 Ⓡ

論理の逆転

 

商標登録表示のⓇは、商標登録が取れているときに表示することができるマークで、registered markと言ったり、日本ではマルアールと言ったりしています。

 

商標権があることを、積極的に社会にアピールし、商標権侵害の発生を抑制するためのもので、商標権者の義務といわれることもありますし、Ⓡを表示できるということは、商標権の権利とも整理できます。

 

商標法を正面から活用して、ブランド戦略を立案し、企業の成長を図り、消費者の利益を図るときは、商標登録表示Ⓡは、侵害の罪の次に重要な条文です。ただ、日本ではデザイナーがⓇをゴミのようだと言ったりして、あまり人気がありません。企業の相談でも多いものの一つです。

Ⓡに対する立場を、積極的に変更することは、付与後異議を付与前異議に戻すことと並んで、日本の商標法再生の鍵の一つだと思います。

 

日本では、商標法第73条で、商標登録表示は付するように努めなければならないと訓示規定(努力義務)となっています。省令では、商標登録第〇〇〇〇〇号というように記載するのが正式な商標登録表示とされています。そのため、コカ・コーラのボトルに「登録商標」とあるのは、番号記載がなく、正式な商標登録表示ではありません。当然、Ⓡも商標登録表示ではないとされています。

また、商標法第74条の虚偽表示の禁止では、商標登録がないのに、商標登録表示やこれに紛らわしい表示をすることは虚偽表示となり、罰則の対象になります。

 

 

Ⓡを、正式な商標登録表示とする国は多いようです(米国、英国、ロシア、中国、その他)。

外国産業財産権制度相談 事例 QA集

 

有名なのは米国ですが、Ⓡを付けることで、商標権侵害時に商標法のメリットを享受するにはⓇが必要です。米国商標法第29条によると、次のようにあります。

特許商標庁に登録された標章の登録人は,「Registered in U.S. Patent and Trademark Office」若しくは「Reg. U.S. Pat. & Tm. Off.」の文言又は R を円 で囲んだ文字,即ち,®を標章に表示することによって自己の標章が登録されている旨の告知 をすることができる。そのような登録告知をしなかった登録人によるこの章に基づく侵害訴訟においては,被告がその登録を実際に認識していた場合を除き,この章の規定に基づき利 益及び損害賠償の回復をすることができない。

最近は、著名商標の場合は、当然、皆知っているということで、Ⓡがなくても、商標権侵害時に不利に扱われないときもあるようですが、条文は上記のようになっていますので、米国ではつけるのが一般です。

 

注解商標法の第73条の説明によると、昭和34年の現行商標法制定時に、Ⓡを正式な商標登録表示にするかどうか議論になったときに、①すでに日本にⓇを商標権をとして使用している者はどうするのか?、②日本には商標登録がない商品が、米国から入ってきた場合に虚偽表示となるが良いのか?、という点で、日本では商標登録表示にⓇを採用しなかったようです。

また、同じく注解商標法の第74条の説明には、Ⓡは正式な商標登録表示ではないものの、昨今のⓇの認知からすると、商標登録表示に紛らわしい表示となり、虚偽表示になる可能性があるとあります。

 

法制定当時は、(特に、輸入品について、)目こぼしするために、Ⓡは商標登録表示からわざと外したことと、現在は、Ⓡは実質的には商標登録表示と解されていることとの、整合性がつかない状態になっているとあります。寛容な法律を作ったつもりが、寛容ではない状態となっています。たぶん、余程悪質で被害があったようものでない限り、このようなもので警察、検察、裁判所が動くことはないと思います。

 

立法論としては、①商標法第73条の商標登録表示の条文に、Ⓡを正式な商標登録表示とする、同時に、②第74条の虚偽表示の罪の条文に、商標登録があることを装って需要者を欺瞞し、または、不当な利益を得る目的をもってと、いうような主観的意図を入れる、という方法が良いと思っています。

 

商標法の虚偽表示の禁止違反で、摘発されたということは、聞いたことがなく、相当ルーズに運用されているのですが、商標担当者の中には、商標登録がないのにⓇを付すと虚偽表示になり、罰則の対象になるという理由で、商標登録表示をしないように指導している商標担当者も多いようです。

 

海外では、米国の商品が国内市場を席捲しているのを嫌う国が多く、Ⓡに厳しいときがあるようです。以前、ペルーがそのような法律になったと聞いたことがあります。運用が厳格化は分かりません。弁理士の中には、Ⓡについて、否定的な意見をいう人が多いのですが、それは、日本市場しか見ていないドメスティックな発想です。

 

しかし、ポイントは、商標権取得の推奨や、商標登録表示の大切さにありますので、虚偽表示の些末な議論で、商標登録表示としてのⓇ表示が委縮するのは、本末転倒の大問題だと思います。

 

インターブランドランキングでも、日本企業が中国企業に抜かれるのは、時間の問題ですが、少しでも、日本ブランドを強化するなら、この問題も避けて通れません。

 

TMなら違法にならないからそれで良いという人もいますが、TM表示には、米国法のⓇのような魅力がありません。模倣品大国ではありますが、中国が正面からⓇを採用したのは、正解だったと思います。日本も正面からこの問題の解決策を考えるべき時期ではないでしょうか。