Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

型番的名称と商標

海外の事例の調査研究

知財管理の2017年6月号(Vol.67 No.6)に、「二文字以下のアルファベット・数字から構成される型番的名称に関する商標調査研究」という論説がありました。

www.jipa.or.jp

会員にならないとWebサイトからは見れないようです。企業の知財部、事務所、図書館等にあれば、確認いたいただけると思います。

アルファベットや数字の組合せにより構成された名称(型番的名称)は、型番として用いるだでなく、商標として用いられる場合もあり、その登録可能性や権利範囲は国によって違うので、海外で調査したというものです。

アンケートを実施し、現地の弁護士、弁理士(現地代理人)に回答してもらったものをまとめたものとあります。

 

内容

日本では、商標審査基準で、アルファベット一文字又は二文字から商標や数字からなる商標、アルファベット一文字又は二文字の前後に数字を組み合わせた商標などは、識別力がなく、原則として商標登録できないとされています(例:「A」「123」「AB2」)一方、使用による識別力の獲得をすれば登録可能です。

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/syouhyou_kijun.htm

(商標審査基準の3条1項5号、3条2項の箇所を参照)

 

一方海外では、型番的名称の商標登録が可能な国が存在し、日本企業にとって悩ましい問題。そのため、海外15ヵ国・地域を調査を実施。そのうち8ヵ国を論文に。

 

型番的名称が、原則として、商標登録されるのは、米国、EU、インドネシア、ブラジル。

逆に、原則として、商標登録されないのは、、タイ、ロシア。

中間が、中国とオーストラリア。

 

 

ただし、米国でも、「Model. No.」と明記して商品裏面に記載するような態様であれば、型番としての使用であって、商標としての使用でないため、商標権侵害にあたらないという反論は可能。

EUでは、数字や文字と商品との関係を考慮して、識別力を判断し、登録を認めるようです。権利行使は、国によって、判断に差がある。

中国は、アルファベット一文字又は二文字、一桁の数字については識別力なしだが、アルファベット一文字と数字を組み合わせれば登録になる。

オーストラリアは、アルファベット一文字、一桁又は二桁の数字は、登録になりませんが、それ以外は登録になる。

 

論文では、まとめとして、ロシアとタイが型番的名称が商標として識別力を有しないとされる傾向があり、それ以外の国は、識別力を有するとされるとあります。

そして、事前の調査や現地代理人への相談を推奨し、その際、型番的な名称がどのような意味を持っているかを説明すること(被服の場合のサイズ由来、アルコール飲料の場合のアルコール度数由来など)を推奨しています。

 

コメント

アルファベット3文字は商標登録されるが(NHKYKKのように)、アルファベット二文字は商標登録されないという、日本の商標審査基準の考え方が、一般の宣伝や営業の方に広く伝わっています。そのため、商標候補が調査で引っかかって、なかなか決まらないときに、じゃあアルファベット2文字プラス数字で商標としておきましょうか、ということになることも多いと思います。

 

この日本の運用に非常に慣れているので、日本の常識と世界の常識が違うとして面食らってしまうというものです。

 

ただ、考えてみると、日本・ロシア・タイ組と、米国・EU・インドネシア・ブラジル組で比較しても、実際上は同じことを言っているようにも思います。

 

日本でも、審査基準の間口で狭くしていますが、使用による識別力の獲得を認めていますし、米国等でも、明確に型番的な使用まではこの商標権の効力は及ばないとしています。結局は、どの国も、侵害判断としては、実際の使用時に商標として機能するように使用(表示)するか、型番としてのみ機能するように表示するかの差であるように思います。

 

また、この問題は、二つに分けて考えると良いように思いました。

一つは、このような商標を採用することの適否です。BMWプジョー欧州の自動車メーカーなどは、このタイプの名称を、明確に商標として意識して採用しています。これは、積極的にマスターブランドを生かすための作戦です。日本ではカメラメーカーなどは、このタイプのようです。

これと、使えるものがないので、アルファベット2文字+数字で行っておこうかとの間には、大きな差があるように思います。

 

二つめは、型番的使用の場合に、訴えられるリスクを低減するには、どうするかです。こちらは使用方法によります。もし、型番的な使用の場合は、その表示方法の徹底が必要になりますし、多少、商標的な使用にもなる中間的な使用態様なら、商標調査等が必要になるように思います。