iWatch事件
(M.Z. Berger & CO., Inc. v. Swatch AG事件)
2018年2月8日の商標協会の外国法制度部会の黒田亮先生の2つめのお話しを、当日の配布資料を利用して、まとめてみました。
米国の時計メーカーのBergerが、米国特許商標庁に、”iWatch”商標を出願(2007年7月5日)し、出願公告になり、それに対して、Swatchが異議申立てをしたものです。
Berger社は、米国に古くからある時計の製造販売業者のようです。
Bergerの出願の指定商品は、第14類の腕時計などです。これに対して、Swatchは、①Swatchとの類似、②商標を使用する誠実な意思(”bona fide intention to use the mark in commerce")を欠いている、という2点を異議申立の理由としました。
異議申立の審判では、将来関連商品の開発を始めることを決定した場合に備えて、単に商標についての権利を予約しようとするものに過ぎず、当該商標を取引上使用する誠実な意思を有していたとはいえないとして、異議申立を容認しました。
これに対する訴訟(控訴)が、本件です。
1.連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判決
CAFCは、審判(TTAB)の結論を支持し、Berger社は出願時に誠実な使用意思を欠いていたとしました。
2.CAFCの検討
(1)誠実な使用意思は、単なる主観では足りず、実証できるものでないといけない
(2)本件は、使用意思を示す十分な証拠がない
(3)Berger社のオーナーや従業員は、各種証言をしているのですが、オーナーが、具体的な時計の使用計画は検討していないと答えたり、権利を予約したものと答えたり、従業員も過去に対話型スマートウォッチの開発はないと答えたりしているため、誠実な使用意思がないとしました。
3.まとめ
(1) この判決で、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、初めて、取引上商標を使用する誠実な意思の欠如は、異議申立理由となることを認めた点に意味があるようです。
(2) 使用意思のあるという立証のためには、研究開発をしている、市場調査をしている、製造をしている、販促をしている、営業活動をしている、政府の許可申請をしているなどが有効なようです。
コメント
外からは判断しずらい使用意思が、異議申立の理由になっています。公告された商標が不使用と思うときは、これからは、この主張も可能ですね。挙証責任は、どちらにあるのでしょうか。
フロードの主張、誠実な使用意思の欠如の主張など、使えるときに選択して、使っていくことになります。
一方、出願人としては、やはり米国では、実際に使用意思のある商品だけに限定することが望まれるということになります。
面白いと思ったのは、Berger社の証言が、自社に不利になるような証言をしている点です。iWatchが登録になってもならなくても、どちらでも良かったのかなぁとも思います。
iWatchという商標ですが、自らスマートウォッチに最適と言いながら、スマートウォッチを開発していないと言ったり、証言がかみ合っていないようです。そもそも、何も、スマートウォッチに使うと限定する必要はないのですが、法廷戦術で上手く証言を引き出されてしまったのでしょうか。Swatch側の弁護士が上手いのか、Berger社が素直だったのか、どちらかだなと思いました。
ユアサハラのWebサイトに、黒田先生の詳しい解説がありました。
さて、本件、ブランド面やマーケティング面から考えても、面白い話です。
まず、iWatchは、良いネーミングです。Apple社がApple Watchとしていますが、iMac、iPod、iPhone、iPadと来ていますので、iWatchでも良かったのに、Apple Watchにしたのは、この係争が理由なのでしょうか?
Berger社が出願しなければ、iWatchになっていたような気もしますし、世界中でiWatchは色んな会社から出願されているでしょうから、結局、採用できなかったかもしれません。
2007年7月5日の出願とありますが、ちょうど、Apple社がiPhoneを出すあたりです。Apple Watchは、iPhoneの成功を前提にしているので、ネーミングの検討の検討は、もう少し後になると思います。
そういう意味では、Berger社には先見の明がありますが、如何せん、商品開発力があまりなかったようです。
ちなみに、Berger社は、デジタル式の電気時計も販売しているようですが、ブランドが"SHARP”です。ロゴは違いますし、SHARPは辞書にある言葉で、造語ではないので、独占は難しく、日本のシャープがすべてを持っているのではないと聞いたことがありますので、これもその一例ではないでしょうか。