Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

判定制度の活用

標準必須特許についての判定制度

2018年2月22日の日経に、特許庁が4月にも、標準必須特許の判定制度を始めるという記事がありました。www.nikkei.com

  • 通信分野などで「標準必須特許」の判定制度
  • これまでは特許に該当するか争いになれば、裁判所に最終的な判断を委ねていた
  • 「IoT」技術の進展に伴い、特許を巡る争いも増えている
  • 双方の企業の主張を聞いたうえで、3カ月程度で結論を出す
  • 特許庁の判定に法的拘束力はない
  • 訴訟にかかわる企業がその結論に納得すれば裁判に発展するケースが少なくなる

というような内容です。

 

特許庁のWebサイトに、パブリックコメントの募集がありました。その中の下記の資料が詳しく説明していました。

標準必須性に係る判断のための判定の利用の手引き(案)(PDF:966KB)

  • IoT により、様々な業種の企業が情報通信分野における標準規格を利用する必要性が増大
  • ライセンス交渉の当事者が通信業界の企業同士から、自動車等の最終製品メーカやサービス業界等に拡大
  • ライセンス交渉の当事者の変化に伴い、クロスライセンスによる解決が困難に
  • 特許の必須性やライセンス料率の相場観について見解の乖離
  • ライセンス交渉の態様にも 変
  • 特に、対象特許発明が、標準必須の特許であるかどうかの判断は、ライセンス交渉に影響
  • その判断につき当事者間において争いになった場合は、 当事者同士のみで解決することが困難
  • 特許庁が公正・中立な立場から示すことは、 当事者間のライセンス交渉の円滑化や紛争解決の迅速化に貢献
  • 当事者間のライセンス交渉において特許発明の標準必須性に関して争い
  • 特許庁が、判定において、当事者の主張・立証に基づく標準必須性に係る判断を行い、その判定結果を公開する
  • 標準規格文書から特定される仮想対象物品等が特許権の技術的範囲に属するかどうかの判断を公に示す

コメント

これらの記事・文書から理解したのは、IoTでは、通信関係の特許が自動車や流通のサービスなど、あらゆるところで活用されるようになり、そのとき、通信事業者同士であれば特許が標準必須特許と納得していたものが、異業種なので料率を決めての対価支払いになり、係争は裁判にまでなる。技術的範囲に属するかどうかの判断は、特許庁が従来の判定を改良して、担当するというものです。法改正はないようです。

 

特許庁の判定では、従来は、イ号の特定(実施技術≒侵害しているとされる製品)の特定が必要だったのを、これを標準規格文書から特定される仮想対象物品に広げるというもののようです。また、当事者対立構造が前提で、相手方には、答弁書の提出も認められるようです。

 

従来から、判定もたまには利用されていると聞きましたが、まれという理解でした。折角ある制度の利用促進としては良いと思います。

技術の素人の裁判所でも、判定を活用する運用が望ましいと思います。これは、裁判官が特許庁の判定結果を持ってこいというだけで可能です。

特許裁判件数が少ない理由に、裁判官の数が少ないという点があり、判定を上手く組み込むと裁判が迅速化し、沢山、訴訟を処理できるようになります。

 

標準必須特許のことを良く知っているわけではないのですが、企業の知財部にいた時、特許担当者が検討をやっているのはよく見ていました。

参考になりそうなもので、特技懇に仁ラボ 代表の鶴原 稔也さんの論文がありました。

http://www.tokugikon.jp/gikonshi/273/273kiko1.pdf

パテントプール等での必須性評価では,標準規格と当該 必須特許との特許請求の範囲(クレーム)とを比較し,合致していれば必須特許と判断し,合致していなければ非必須特許と判断している。この際,先行技術調査は行わず無効性についての判断は一切行っていないのが実情である。 このため,無効理由があり,あるいは先行技術によりクレーム範囲が縮小し本来なら非必須特許となるべきものが必須 特許として処理されることもあり得る。パテントプールでの必須性評価には特許1件あたり100 〜150万円の費用を要すると言われており,必須評価申請 を行った特許権者が負担している。LTEに関してETSIに提出された必須特許数は5919件であり,49社が宣言している26)。もし,標準化団体であるETSIが6000件の特許を1件あ たり100万円で評価すると60億円の費用を要し,とても 標準化団体(最終的には構成メンバー)が負担できる金額ではない。

多少の問題はあるとしても、すでに技術規格に、必須特許はリストアップはされているようです。

 

今回のIoT向けの判定制度は、仮想対象物品というものを想定し、それが標準特許とされるものの技術的範囲に属するかが問われるわけですが、特許の前に、仮想対象物品がそもそも技術規格を使っているのかどうかが、争いになるのだろうと思いました。

また、そもそもの仮想対象物品の特定について、かなり議論が出てくるように思いました。

 

判定制度は、韓国のようにもっと活用すべきなので、今回の制度も基本的には賛成です。