Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

「そだねー」の商標出願

もし依頼を受けたらどうコメントするか?

2018年3月22日配信の朝日新聞デジタルによると、北海道の六花亭製菓が、平昌カーリング女子で有名になった「そだねー」を商標出願していたことが判明し、話題になっているようです。

headlines.yahoo.co.jp

  • 平昌オリンピック銅メダルのLS北見の選手たちが使って話題となった北海道なまりの「そだねー」を、北海道の六花亭製菓が商標登録出願
  • 区分は「菓子及びパン」
  • 出願日はLS北見が銅メダルを獲得した5日後の3月1日
  • 審査には一般的に約7~8カ月かかる
  • 六花亭製菓は「そだねー」も商品化を目指しているが、道外の業者などによる商標登録を避ける狙いもある
  • 社長は、商標を独占するつもりはなく、使いたいという人がいれば自由に使ってもらえるようにしたいとの談話

 

六花亭のリリースは、下記です。

http://www.rokkatei.co.jp/images/180322.pdf

そだねー」商標登録申請について  

弊社で2018年3月1日に商標登録申請をさせていただいた「そだねー」について、 ご説明申しあげます。 弊社では、北海道のおやつとして親しんでいただきたいという思いから、「めんこい」大平原、「なんもなんも」を始めとした北海道の方言を製品名として使用させていただいております。この度も同様に、愛着ある言葉として使わせていただきたく、申請させていただ きました。 商標制度の特性上、独占という印象は避けにくいのですが、弊社で申請中の商標「北加伊道」は、他社様からご利用の申し出をいただき、ぜひお使いくださいと、先日ちょうど お返事させていただいたところでした。 今後とも、北海道のおやつとして、皆さまに親しんでいただけるよう、一層努力してま いります。今後ともご愛顧賜りますよう、お願い申しあげます。

とあります。

 

もし、六花亭がクライアントで、その出願段階で、相談を受けていたら、どう答えただろうと想像しました。

 

想像ですが、北海道には、「白い恋人」というお菓子があります。大阪で「面白い恋人」というパロディ商品が出たり、賞味期間の問題があったりしたものですが、中国人には大人気で、羽田などで爆買いされています。

 

石屋製菓が、ネーミングの由来を、そうだとは言っていませんが、フランスの1968年のグルノーブル冬季オリンピックの記録映画の邦題が「白い恋人たち」であり、これがお菓子の「白い恋人」にプラスに働いたことは客観的には否定できません。

 

六花亭も、リリースまで出していますが、オリンピックの話題になった言葉であり、その価値にあやかろることになることは、客観的には否定できないと思います。上手く行けば、「白い恋人」のような大ヒット商品ができるかもしれないという期待もあったと思います。

 

日本の法律は、模倣を禁止しているわけではないので、第三者の権利侵害にならず、調整さえできれば、模倣すること自体は悪いことではありません。

 

通常、弁理士が考えるのは、商標法に照らして、登録になるかどうかです。たぶん、特許庁は登録はしないだろうなと想像しますが、その根拠は色々考えられます。

  • そもそも登録性(識別性)があるのか?ということが気になります。ひと昔前ならスローガンであり、商標登録の対象にならないなどとして、拒絶されたと思いますが、今は、多くのスローガンの商標登録が認められています。
  • 三者の商標権や商標出願との関係は、どうかというと調べてみないと分かりません。
  • 公序良俗違反で拒絶される可能性はあります。
  • 氏名ではないので、これを根拠に孤絶されることはなさそうです。
  • 他人の周知商標を不正の目的をもって使用する商標として拒絶されるかもしれません。
  • この言葉を有名にしたのは、LS北見の選手達であり、選手やその所属団体との関係です。日本の選手や競技団体は、商標登録を取る意思はないでしょうが、もしもあれば、冒認出願となります。何らかの他人の財産権の侵害です。もしかすると商標ではなく、著作権民法上の権利や利益かもしれません。
  • 芸能人のギャグを勝手に商標出願したら、問題になりそうです。その法的構成がどうなるか、聞いたことがありませんが。
  • イントネーションに面白さがあるので、音の商標を勧めるかもしれません。

 

企業の商標担当やブランド担当の立場で考えると、次のようなものでしょうか。

  • オリンピックのアンブッシュマーケティングにはならない。
  • 商標ブローカーと同一視されてしまうので、この商標は出願すべきでない。
  • 上田弘育氏(ベストライセンス)も出願しているかもしれない。
  • そもそも、自分で考えたものではないので、何らかの障害が発生する可能性がある。
  • 今、「そだねー」を出願しても何も良いことはない。ネットで炎上して、謝罪文を出さないといけなくなるのではないか?
  • 体を張って止めるか?

言葉の流行は、驚くほど流行り廃りがあるので、数年経てば覚えていない可能性が高いのです。毎年の新語・流行語大賞の過去分を見ると、分かります。そこから考えると、商品を出すなら今しかありません。先願主義ですので、一日も早く商標出願したいということもあります。

 

では、上手い方法は、なかったのかということです。

一つの解決策は、一ひねりを入れることです。石屋製菓は、「白い恋人たち」ではなく、「たち」を抜いた「白い恋人」であり、ズバリではありません。「そだねー〇〇」「△△そだねー」とすると、批判が回避できた可能性もあります。商標専門の弁理士なら、日常的にこのタイプのアドバイスは良くしていると思います。

 

もう一つの解決策は、北見や北海道の商工会議所や農協が、選手や所属団体の了解のもと、地域団体商標として商標出願することであり、こちらは筋がいいと思います。当然、選手や所属団体に一定の利益が還元されるようにスキームを組むことです。今からでも遅くないので、この方法を模索するのが、解決策としては、よさそうです。