Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

キッコーマンの醤油瓶

立体商標登録に

2018年4月21日の朝日新聞で、キッコーマンの赤いキャップの「しょうゆ卓上びん」が立体商標登録されたという記事を見ました。www.asahi.com

  • 持ちやすく液だれしにくい機能とすっきりした形が特徴
  • 1961年の誕生から同じデザイン
  • 出荷本数は、累計5億本越え
  • 100各国以上で販売
  • デザイナーは、工業デザインナーの故・栄久庵憲司
  • 商標登録は、3月30日付け

とありました。

 

コメント

確かにこの瓶はどこでもよく見ましたし、日本の工業デザインの代表例としても有名です。立体商標の制度の導入が、1996年の商標法改正とありますので、なぜ、今頃になって登録されたのか?と疑問に思います。

J-Plat Patを見ると、赤いキャップのしょうゆ卓上びんの登録がありました。色彩付きの登録です。キッコーマンの商標・ロゴはありません。

  • 第6031041号
  • 平成30年(2018)3月30日
  • 平成28年(2016)10月11日
  • 指定商品は、第30類の「卓上用容器入りしょうゆ,しょうゆ」
  • 商標法第3条第2項適用、とありました。

2年かかっており、伺い書、意見書、面談、手続補正書、手続補足書など、特許庁の審査官と何度もやり取りがされていました。それ自体は、立体商標の審査としては普通のことだと思います。

 

赤いキャップのあの形のびんを見ると、中身が「しょうゆ」だと直ぐにわかります。しょうゆメーカーは沢山ありますが、一升瓶のようなものはびんは全メーカー共通で、ラベルだけの違うという商品ですが、あの赤いキャップのびんは、びんに印刷されていたキッコーマンのロゴと相まって、キッコーマンのしょうゆであることを認識することができます。

 

今回の登録は、商標やロゴがありませんので、純粋に、びんの形状だけからない商標です。

 

論点は、赤いキャップのこのびんを見て、商品者や取引者がキッコーマン醤油を思い出すのか、しょうゆ一般を思い出すのか、ではないでしょうか。即ち、このしょうゆびんは、Generic(一般的)ではないかという論点です。

現実に、飲食店では、このびんを単なるよくできた醤油びんと考えて、中身は全然違うメーカーのしょうゆ(安いしょうゆ)を入れていた店も多々あったと思います。(キッコーマンのブランドへのただ乗りですので、これをあまり評価する必要はありませんが)

 

もう一つの論点は、指定商品です。これは、「醤油瓶」の立体商標であり、「しょうゆ」の立体商標ではないのではないかという論点です。

確かに、この瓶は、スーパーなどの小売店で、中身のしょうゆが入った状態で売られていますが、その後は、市販のしょうゆをつぎ足して使う醤油瓶となります。

スーパーでは、しょうゆのところに置かれているので、商品「しょうゆ」の立体商標という面もありますが、このロングライフの製品の機能などを素直に考えると商品「醤油瓶」と考えるのが素直なように思います。

 

一点、思い出したのは、昔、関西では、しょうゆの他に、ウスターソースでもこの瓶が使われていたことです。黄色いキャップがソースで、赤色のキャップがしょうゆです。非常に多くの飲食店や会社の食堂のテーブルにありました。今でも、立ち飲み屋などに行くと、健在ではないかと思います。あのびんは、丈夫で簡単に割れるようなものではありませんので、一つ買うと、相当長い間、使用できます。

 

この黄色のウスターソースのびんの存在をどう考えるかは、難しい問題です。ソースの会社にキッコーマン側が許可をしたということを聞いたことがあるので、たぶんライセンスがあったのだと思います。キッコーマンのびんの機能面やデザインとしての完成度が高いので、ソースのメーカーがお願いをして、使わせてもらったものと思います。

 

ただ、ライセンスがあったにせよ、一社独占ではないことが、消費者や取引者に、このびんは、Generic(一般的)なものであるという印象を与えていた感じがします。キッコーマンパブリックドメインとして、公開したような印象です。

 

そのソース会社には、ライセンスは契約を結んできちんと管理していたとか、ライセンス供与先以外には模倣品対策をしていたとか、当該、びんの形状がパブリックドメインではないという対応をしていたことを示す証拠が求められてもおかしくないと思います。

 

関東では、ウスターソースの文化がないので、分かりにくい話かもしれませんが、関西人には理解してもらえると思います。

 

コカ・コーラのびんと対比可能な、日本の代表的なインダストリアルデザインですので、模範的な審査内容であることが 求められます。