Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

IoTと競争法と特許制限

自動車業界の課題

2018年4月16日の日経に、IoTの普及に関連した、競争法と特許制限についての解説記事がありました。

www.nikkei.com

前半は、3月に都内で行われたシンポジウムでの米国特許商標庁長官の「競争法(独禁法)の運用が強力すぎて、特許の力を弱めている」という話から始まり、FTCがクアルコムを幅広く利用許可を与える義務に違反したとして提訴したとあります。

同じシンポジウムで、クアルコムの上席副社長は、発明者が報いられていないと主張したとあります。

クアルコムを提訴することについては、FTC内でも反対意見があったそうです。

 

後半は、IoTで、標準特許と競争法に新たな争点が生じているとして、自動車メーカーと部品メーカーの関係に言及しています。

IoT(自動運転等だと思います)で通信関係の標準特許を使用しなければいけなくなったが、従来、自動車メーカーは部品メーカーに特許処理を任せていたが、IoT特許を持つ海外企業は、直接完成品メーカーをに特許交渉をしてきているとあります。多くの企業が標準特許を使用しており、権利者が特許の使用者を補足できないためのようです。

しかし、これについては、競争法が関係し、完成品メーカーだけと交渉すると、権利者は競争法違反となるとしています。

 

コメント

後半の、なぜ、完成品メーカーだけでなく、部品メーカーにもライセンスしなければならないのかについて、勝手に考えてみました。

 

自分が部品メーカーだったとして、他の部品メーカーが、ライセンスがなくても生産しているのに、なぜ自分だけ契約が必要なのだ。不平等ではないかと反論することはありますが、それとはちょっと違うようです。

 

IoTの時代になり、自動運転やコネクテッドカーで、通信関係の標準特許(クアルコムなどが代表)を、自動車でも使います。

そのときに、自動車メーカーにさえライセンスしておけば、特許権者としては、補足が簡単です。権利者としては、すべてに対してライセンスしなくても、have made権(特許を使って、その自動車メーカー向けの部品等を作って納入させても良いという権利、自社向け専用のサブラインスのようなもの)さえ、自動車メーカーに与えておけば、それで良さそうです。

しかし、自動車業界の運用では、その前の自動車用機器メーカーや、更に前の部品メーカーに特許責任を負ってもらっているようです。ちゃんと特許処理した製品を納入せよという話です。

通常、部品メーカーが特許のライセンスを受けるときは、納入先の製品に組み込まれても、その納入先を訴えないということ(用尽説的な考え方)を特許契約で明記しておいて、お客さんに迷惑がかからないように一応は努力していると思います。

部品メーカーとそのお客さんとの契約では特許保証という言葉になりますが、無理な保証はしないように注意しているのが通常と思います。

 

カーナビの特許などの、組み込み機器を想定すれば、この関係で十分なように思いますが、自動運転、コネクテッドカーが使う通信の標準特許となると、部品メーカーの実質的な特許保証の範囲を超えているのではないかと思われます。部品由来の特許の使用を超えた、自動車本来での特許の使用になっているという趣旨です。

 

そういう意味では、自動車は自動車で、組み込み機器は組み込み機器で、部品は部品で、各々契約することが筋が良さそうです。

部品企業の営業としては、特許保証を売りにしたいというのは解りますが、横に置いておきます。

 

このような理解の前提で、勝手に考えてみたのは、次のようなことです。

 

標準必須特許を有するクアルコムが、完成品メーカーだけを相手にすると、部品メーカーは完成品メーカーのhave made権を得られないと商売ができなくなり、完成品メーカーに支配される関係になります。

ただでさえ、お客さんであり強い立場の完成品メーカーがますます強くなり、公正な競争を阻害するという理屈はできるかもしれません。

 

あるいは、部品メーカーにも、特許ライセンスを与えておかないと、新規参入の自動車メーカー(テスラやBYDのように、EVではあり得ます)が、商売をしにくいという点も考えられます。

 

う~ん。ここまでは思いつきましたが、実際、よくわかりません。