Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

付与後異議か、付与前異議か

どちらが良いのか、考えてみました

最近、商標では商標登録異議申立を、現在の商標登録後に事後的に異議申立する付与後異議が良いか、平成8年の法改正前のように、商標登録前に異議申立する付与前異議が良いか、議論になっています。

ざっくり賛成反対を整理すると、弁理士さんは付与前異議に戻すべきという意見が多く、反対に企業の担当者は付与後異議のままで良いという意見が多いようです。

企業の担当者としては、付与前異議に戻ると、全ての商標について、異議申立のために、権利化が3ヶ月間等は遅れることになり、これが問題と考えているのだと思います。

 

平成8年の法改正のときに、知財協会の商標委員会(沖電気の飯塚さんが委員長)で、法改正の検討をしたのですが、付与前か付与後かの問題は重要だということで、特に各委員の意見を確認されたのですが、そのときは、マドプロのために、一刻も早く権利になってほしかったので付与後に賛成してしまったのですが、今は、失敗したなと思っています。

 

当時は、(EUTM(CTM)や、マドプロではなく、)マドリッド本協定に傾倒しており、無審査がいいと思っており、商標登録は訴訟要件でしかない程度と考えていたので、そのように発言したのだと思います。

 

手元の研修会の資料によると、商標登録異議申立件数は、2016年で449件です。大体、毎年400~500件というところのようです。

そして、2016年の取消決定は76件。維持決定は359件とあります。異議の決定全体では、435件です。これを比率に直すと、取消決定(異議申立成立)が17.5%、維持決定(異議申立不成立)が82.5%となります。

 

異議申立をするとき、どの程度異議に勝てる確率があるのかが、異議をするかどうかの判断ポイントになります。海外の代理人から案内がくると、成功確率が50%とか60%とかあると、異議をしようかと思いますし、40%とかあると止めておこうかと思います。

 

また、企業で多くの異議を扱っていた感覚でいうと、グローバルに年に数十件程度は異議をするとして、全体で75%程度の勝率を維持したいと思っていました。

100%の勝率にするというのは、本来やるべき異議をしていない(消極的すぎる)となりますし、30%の勝率では積極的過ぎ、異議に伴う手続きで業務が停滞する可能性があります。

裁判などの争いごとは、結局は、勝つか負けるかですので、勝率50%程度で良いのだと思います。ただ、上手くやっていることを示すため、目標としては、75%の勝率を目指していました。これは、署名者が証人喚問されることなどもあって、大変なケースに遭遇したことが原因です。75%の数字は、異議申立することを、慎重に判断することを意味しますし、異議申立書の主張内容を高度化させて勝ちに拘ることを意味します。

 

さらに、以前紹介した、特許ニュースに出ていた韓国の異議の成功確率が、43.8%とあります。 

nishiny.hatenablog.com

 

この3つの数字の視点で見ると、日本の異議の成功率(17.5%)は、あまりに低いように思います。これでは異議をする気になりません。日本の代理人は、確率20 %といっているのでしょうか?

 

異議の成功率が低い理由なのですが、その不服申立の手続きに原因があると聞きます。異議が成立したとき、不服は元権利者の出願人サイドですが、審決取消訴訟特許法178条)になります。そして、異議の取消決定の場合は、特許庁長官が被告になります(特許法179条)。

無効審判の場合は審判の請求人が被告にありますが(特許法179条)、異議決定が成立した時に出願人サイドが訴訟をする相手は特許庁長官です。

特許庁としては、異議の成功率を上げると、自らが被告になってしまうので、現実問題として、異議不成立になる傾向があるというのです。

 

ポイントは、付与前異議に戻すと、異議が成立すると拒絶になるので、出願人サイドとしては、拒絶査定不服審判となることです。特許庁は手間にはなりますが、裁判ではないので、比較的、異議成立の判断が出しやすくなります。

 

ちなみに、異議申立人の立場に立って、異議が成功しなかったときは、不服申立の手段がないと法律に規定があります(商標法第43条の3)。その理由は、工業所有権法逐条解説によると、異議は審査への協力でしかないことと、商標無効審判が可能だからとされています。しかし、これは、異議の成功確率が低いこととは関係ありません。たまに議論される無効審判との比較には特に意味がないと思います。

http://www.jpo.go.jp/shiryou/hourei/kakokai/pdf/cikujyoukaisetu20/syouhyou_all.pdf

 

異議が機能するようにしないと、商標制度が活性化しません。欧州でも、米国でも、中国でも、韓国でも、異議は企業が自らの権利範囲を拡大するために行う活動です。出願よりも異議の方に重要性は高いのが通常です。

 

目標は、韓国の勝率程度です。

本来、付与後異議でも、付与前異議でも、勝率さえ確保できれば、どちらでも良いのですが、こんなところで特許庁が消極的判断を下すのは良くないと思います。

 

そのために、シンボリックな意味合いも込めて、付与前に戻すべきという主張に意味があるのだと考えています。 

 

ただ、付与前異議に戻すと、登録が遅れる問題もあります。

付与後異議のままで、特許庁長官が被告になることを減らすには、二つの方法がありと考えました。

1.異議申立が成立し、取消になった権利についての、不服審判制度(再審のようなもの)を新たに設ける

2.審決取消訴訟の被告適格を、無効審判と同様に審判請求人にする

 

訴訟の被告になってしまうことを恐れ、異議をする人が少なるなるという意見もあると思うますので、その対策が、1.です。特に、異議の活用を、識別性の判断中心で考えると、こちらになるだと思います。

しかし、海外で異議をしてきた経験では、識別性で異議をするようなことはありません。相対的理由が基本です。当事者の争いです。そこから考えると、2.になります。

 

異議は審査への協力に過ぎないという意識が高か過ぎたのが、問題点だと思います(公衆審査という言葉はありますが、その意味するところは、情報提供です)。そうではなく、異議を当事者系の問題というようにとらえ直す必要があります。

 

ちなみに、異議成立で、審決取消訴訟に行った件数は、8件(前年1件)という数字です。異議成立が76件ですので、10%程度は、訴訟になるということのようです。

 

また、アクションプランで、勝率50%の異議申立を目指すことも必要だと思います。

たぶん、セットで、特許庁の識別性の判断は厳しくするということが、必要になると思います。

(全体に欧州に近くなるイメージです)