Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

読んでみました

「産業競争力とデザインを考える研究会」の報告書

2018年5月23日に、経済産業省のWebサイトに、産業競争力とデザインを考える研究会の報告書がアップされていたので、読んでみました。

www.meti.go.jp

 

全体をさっと見ましたが、「まとめ」に整理されています。

http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-4.pdf

  • 機能や品質では差別化は困難
  • アップル社やダイソン社は、企業理念に裏打ちされた独自の強みや技術、イメージをブランド・アイデンティティとしてデザインによって表現
  •  我が国は、経営層も含め、デザインに対する自信と意識が低い

具体的内容としては、

  • 「デザイン経営」の提言、「デザイン経営」を推進するための政策
  • 「産業競争力の強化に資する今後の意匠制度の在り方」で意匠制度の課題提起
  • 「デザイン経営の先行事例」
  • イノベーションの本来の意味は、発明(インベンション)を実用化し、社会を変えること
  • 技術革新だけではなく、社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けることができてはじめてイノベーションが実現。デザインが有用
  • 政府が実施すべき政策は、産業界へのデザイン経営についての啓発、意匠法の改正、行政におけるデジタル・ガバメントの実践、など

とあります。

そして、意匠制度については、

  • 画面デザインの保護
  • 空間デザインの保護
  • デザインコンセプトの保護
  • 意匠権の存続期間の延長
  • 複数意匠の一出願(一意匠一出願の緩和)
  • 物品性の記載要件
  • 図面の記載要件の緩和

という内容です。

 

コメント

デザイン経営のレイヤーと、意匠制度のレイヤーには、大きな差があります。

 

意匠即物品であり、デザインコンセプト自体は意匠ではなく、物品に化体してはじめて法的保護に値する意匠になると言われてきたので、意匠制度の根本をひっくり返す可能性がある内容です。

画面デザイン、空間デザインなど、物品性との関係が気になります。

 

現在は、

  • 画面デザインは、機器の画面デザインに限定し、Webデザインは除く
  • 空間デザインは、お店・陳列などサービスに近いので、不競法マター

ということで、整理されていますが、画面デザインや空間デザインを意匠と考えるとすると、

  • ネット上の画面デザインは、機器限定でなくす=物品性がなくなる
  • 意匠に係る物品として、サービスを観念する=物品性がなくなる

となります。

 

そもそも物品性の条件は、意匠を物品に限定することで、意匠法では意匠をコンセプトレベルで保護するのではなく、権利設定を容易にしたり、意匠の効力を必要以上に拡大しない点に意味があるのだと思いますが、もし、デザインのコンセプトを保護することに社会の要請があるとすると、限りなく特許に近づきます。

 

もし、特許に近づくなら、意匠を、図面や写真・現物だけではなく、「言葉」で特定する必要があります。「意匠の説明」「意匠に係る物品の説明」を義務化して、数ページの記載を求め、この記載に基づいて新規性、工業上の利用性(名称を変更すべきですが)などを、審査することになります。

審査官は、美大・芸大卒ではなく、工学や建築といった人を増やす必要がでるでしょう。米国や中国のように、意匠法を特許法の一部に組み替えることも必要でしょう。

本気で、デザインコンセプトを保護するなら、そこまでする必要があります。

 

一方、欧州意匠制度(旧共同体意匠制度)では、出願時は、ロカルノ協定に基づく物品の記載をしますが、権利行使時には、特に物品に限定されないようです。

例えば、自動車が物品であっても、自動車のミニカーやプラモデルにも、権利が及ぶようですので、このような法制度を取る必要があります。

 

たぶん、検討するなら欧州タイプだと思いますが、欧州の制度を検討するときは、欧州の意匠制度は意匠の寄託を原型にしていることや、欧州の著作権制度には著作権登録がない点など、検討しておくべきと思います。

 

米国中心ですが、一般には、

するのが普通だと思います。

 

画面デザインも、空間デザインも、現状でも、法的保護は一応はあり、ただ、当事者が積極的に著作権なり、不競法の主張をしていないだけであり、法運用が伴っていないだけのように思います。

 

画面デザインは、アメリカ企業が先行していますし、飲食店の店舗デザインなどは調整が必要ですが、当事者に争わせても良いように思います。

 

新しい意匠権が、音や色彩の新しい商標のように、企業受け入れられるのか、マーケットリサーチをした方が良さそうです。

 

冒頭のデザイン経営の話に戻りますが、意匠法の改正は、デザイン経営にとっては、それほど本質的ではありません。

デザイン経営をするならば、そのような日本の経営層や一般のマインドセットが重要であり、産業界へのデザイン経営についての啓発や、行政自体がデザイン経営(特許庁のWebサイトの使い勝手を良くすることなど)をすることなどが優先順位が高そうです。

 

nishiny.hatenablog.com