Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

聖護院八ッ橋と井筒八ッ橋

不正競争防止法違反?

テレビのニュースで、京都の八ッ橋メーカーの訴訟の話が出ていました。2018年6月14日のNHK NEWS WEBの次の記事が詳しいようです。

www3.nhk.or.jp

  • 「井筒八ッ橋」が「聖護院八ッ橋」に対し、事実でないことを宣伝しているのは、不正競争防止法に違反するなどとして、広告の差し止めなどを求める訴えを提起
  • 訴状によると、「聖護院八ッ橋総本店」が創業年を元禄2年、1689年だと宣伝しているのは根拠がない
  • また、八ッ橋を最初に作ったように宣伝しているのは不正競争防止法違反
  • 「井筒八ッ橋」も信用上の損害を受けた
  • 創業年が入った広告の差し止め、600万円の賠償を求める訴えを京都地方裁判所に提起
  • 「井筒八ッ橋」のオーナーは、「京都や八ッ橋業界全体の信用を守りたいという思いで提訴しました。聖護院八ッ橋にはうそをつかないでと言いたい」
  • 「聖護院八ッ橋総本店」は「現段階ではただ驚くばかりでお答えのしようがない」
  • 「京都八ッ橋商工業協同組合」によると、はっきりした発祥は分からない。製造会社によって由来が分かれている

コメント

テレビでこの事件を聞いたのですが、どこが不正競争防止法違反になるのか?この話、訴えの利益があるのか?というのがはじめの感想です。

 

聖護院八ッ橋が、一番最初に八つ橋を作ったように宣伝をしているけれども、それが事実と違うのであれば、独禁法系の景表法の事案ではないかと思いました。

景表法で不当表示となれば、措置命令や課徴金納付命令になります。ただし、今回の話は江戸自体の事実認定の話で、消費者庁もどう判断したら良いかわからず、動いてくれなかったのだと思います。

 

そうなると、井筒八ッ橋本舗とすれば、訴えの利益に疑問があるものの、民事裁判のできる不競法で裁判を提起しようということになります。

 

Webサイトで確認したところ、原告の井筒八ッ橋本舗のサイトには次の記載があります。

  • 祇園の「井筒茶店」は、慶長三年(1603年)初代女将岸野ぬしが創業
  • 井筒八ッ橋本舗は、文化二年(1805年)、初代津田佐兵衞が開業
  • 文化二年1805年に、津田佐兵衞が井筒茶店との関わりを持った。茶菓子、米、味噌、醤油販売と井筒茶店の仕出しを開始
  •  当時、当時祇園茶店で人気を博していた堅焼き煎餅が、箏曲の祖・八橋検校の遺徳を継承した琴姿の「八ッ橋」
  • これこそが唯一「八橋検校」の由来をもつ「井筒八ッ橋」

創業文化二年 井筒八ッ橋本舗 | 井筒八ッ橋の歴史

 

一方、聖護院八ッ橋総本店のWebサイトには、TOPページに今回の訴訟についてのコメントがあり、訴状は届いていないが、訴訟提起される理由は一切認識していないとあります。そして、

  • 八ッ橋が誕生したのは、元禄二年(1689年)
  • 江戸時代中期、箏の名手であり作曲家でもあった八橋検校は、近世筝曲の開祖
  • 検校没後四年後の元禄二年、琴に似せた干菓子を「八ッ橋」と名付け、黒谷参道にあたる聖護院の森の茶店にて、販売し始めた
  • 現在の当社本店の場所にあたります
  • 以来、320年余りに渡り、当社は八ッ橋を製造し続けています。

八ッ橋の歴史 - 八ッ橋について|聖護院八ッ橋総本店

 

井筒八ッ橋本舗も、聖護院八ッ橋も、八ッ橋が八橋検校に因んでいるという点だけは、共通します。

 

Wikipediaによると、八橋検校は、1614年~1685年とあります。江戸時代は、1603年から1865年を指すようですので、八橋検校が活躍したのは、江戸時代初期ですね。

 

この争いは、歴史の確認が必要ですが、明確な文献などがないとすると、学術的には解決が難しそうです。各々が提出する証拠もあまり決定的なものがないとすると、いつから八ッ橋があったのか、だれが作ったのか、作った人と今の会社とは、どのような関係になるのかなどは、明確にならなら可能性があります。

 

前述のNHKの記事によると、「京都八ッ橋商工業協同組合」は、八橋検校以外に、三河国で川で亡くなった子どもの供養に8つの橋をかけたことを広めるために作られたという説などもあり、製造会社によって由来が分かれているとあります。

 

やはり裁判に向いている話とは思えません。京都八ツ橋商工業協同組合などでお金を出して、大学の歴史の先生に、徹底的に文献をあたってもらった方がよさそうです。

 

それがわかるまでは、双方、不明ということで、業界全体で、トーンを落とした記載にしておくべきなのではないでしょうか。

この問題の処理は、裁判官よりも、景表法の専門家の方が、適任であるようには思います。