標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き
2018年6月4日の日経に、自動運転などのIoTの特許に関して、特許庁がライセンス交渉の手引きをまとめたという報告書を出したという記事がありました。
記事は理解が難しいのですが、大略、次の内容を言っているようです。
IoTに関連して、部品やサービス業では、大企業から中小企業までが参入を狙っている。
一方、クアルコムやエリクソンといった通信会社が5Gの特許を有しており、自動運転などでは、自動車メーカーが通信業界とのライセンス交渉が必要。
しかし、自動車メーカーは通信業界のライセンス交渉に不慣れで、部品サプライヤーが交渉すべきとの立場。
特許庁は、自動車メーカーがライセンス料を負担することもあり得るとの立場になった。
コメント
この件に関係して、特許庁が、2018年6月5日に、標準必須特許のライセンス交渉の手引き、というものを出しています。
標準必須特許のライセンス交渉に関する手引きを公表しました | 経済産業省 特許庁
51ページにわたる手引き(ガイドライン)です。今朝は、目次と、本手引きの目的という冒頭の部分と、あとがき、の部分だけ読みました。
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/files/seps-tebiki/guide-seps-ja.pdf
あとがきは、特許庁長官の宗像さん名で出されています。
- 1年前、標準必須特許の実施条件を定める裁定制度を導入してはどうかという議論が浮上
- 実施権者の申立てに基づく制度では、特許権者と実施権者のバランスを取ることができないと判断
- 特許庁が特許権者を軽視しているとの誤ったメッセージになりかねない
- 実施権者の不安は、経験不足。ラインセンス交渉を進めるため、信頼できる情報を提供
- 国内外の専門家の話を聞き、世界中の議論の一端を紹介
- できるだけオープンなプロセスで、広く意見を聴取。論点をしぼり、分かり易く整理
- ガイドラインは、アップデートしていきたい
という内容です。
本手引きの目的には、
- 特許と標準は、一見相反するもので、緊張関係が生じる
- FRAND宣言された必須標準特許でも、例外的に、差止が認められるケースはある(ホールドアップ)
- 一方、差止がないだろうと、誠実に交渉しない実施者がいる(ホールドアウト)
- 標準化団体は、ライセンスが、公平・合理的・非差別的になるように指針を整備
- 必須標準のリストには、標準に必要でない特許も含まれている面がある
- 従来は、通信関係企業のクロスライセンスで解決。当事者なので評価もしやすく、相場観があった
- IoTでは、当事者が変化し、クロスライセンスでは解決は困難
- 特許権者と実施権者の利益のバランスを図ったガイドラインを策定
- 規範(ルール)ではない
- この手引きは、資格のある専門家が、中小企業に助言する際に利用されることを想定
というような内容です。
昨年、判定が入るとか言っていたのですが、結局、見送られたようです。日本の裁判所では技術的な判断は無理があり、韓国の判定制度(確認審判制度)のようなものができると、良いのではないかと思っていたのですが、少し残念です。
たぶん、海外の特許権者や日本の部品メーカーから、パブコメで、色々な意見が出たのだと思います。
あとがきの記載からすると、実施権者(=自動車メーカーなど)が請求する判定制度を考えていたようですが、ここが良くなかったのではないでしょうか?
特許権侵害の場合に、必ず確認審判を前置とするなら、それは、特許権者が請求ものになります。もちろん、実施権者側からの、特許発明の範囲に入らないという判定も、あっても良いのですが、双方向でないと合理的ではありません。
外国の権利者からすると、裁判所の方が、説得しやすいと映るのかもしれませんが、通信の発明を持っている日本の特許権者や、実施権者からすると、裁判所よりは、特許庁の方が、技術がわかっていると映っているのではないかと思います。
特許庁は、裁判所に遠慮したのか、外国企業に遠慮したのか分かりませんが、もっと、自信をもっても良いのではないかと思います。結論が、公平でさえあれば、行政でも司法でも、良いように思います。何かもったいないことをしたように思います。
それはさておき、このガイドラインですが、ルールではないということであり、確かに、現在の通信関係の必須標準特許の運用を説明しているところが多いような文章です。
手順の解説がメインで、独禁法のガイドラインとはちょっと違うものなんだと思います。
通信関係の標準必須特許に詳しいわけではないのですが、読みやすい文章で、上手に整理されているようですので、一度、目を通そうと思いました。