Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

海外で事業を拡大する

シスメックスの話

2018年7月13日に、関西大学の東京センターで行われた、BSI東京専門部会委員会に参加させてもらい、シスメックスの井上二三夫さん(知的財産本部 本部長)の話を聞く機会がありました。全体が、「知財ブランディング」というテーマで、そのうちの一つの話です。

シスメックスは、利益率の高い、超優良企業とは知っていましたが、まとまった話を聞いたのは、はじめてでした。

 

まず、どんなビジネスをしているかというと、血液の検査について、臨床検査機器、検査用試薬、サービス&サポートの3つを同時に展開しているということです。血液検査の全体をやっていることが特徴です。

売上が2819億円で、営業利益が591億円。営業利益率は、20%です。特許の独占排他権の機能をフル活用している感じでした。

 

そして、2001年頃から、日本市場のシェアが行きつくところまで行って、海外展開に活路を見出したようです。そこから売上高が5倍ぐらいになっています。ここには、失われた20年というものは存在しません。

海外に本格的に進出するとなると、まずは、販路の確保となり、既存の販売網を買収して、商品・サービスを提供することになりますが、そうなると、知財紛争が多発し、その対応をしてきたようです。

 

ブランド戦略については、Sysmex Wayというもものがあります。企業理念とされていますが、ミッション、バリュー、マインドという形でまとめられています。

www.sysmex.co.jp

 

Sysmex Wayでは、

  • ミッション「ヘルスケアの進化をデザインする。」
  • バリュー「私たちは、独創性あふれる新しい価値の創造と、人々への安心を追求し続けます。」
  • マインド「私たちは、情熱としなやかさをもって、自らの強みと最高のチームワークを発揮します。」

という整理されています。

 

マインドって何?という細かい点はさておき、日本企業では、ブランドの整理と、経営理念・企業理念が2本立てになってしまっている会社が多いなかで、一本化されているのは、非常に良いと思います。

2本立てになっているのは、昔から、家訓、社是といったものが存在し、そこにブランドを後付けしたためです。

家訓、社是は、心の問題であり、ブランドの考え方は、頭の整理という説明を聞いたこともありますが、2本立ては、普通に考えて、望ましいものではありません。

 

お話しを聞いて、一番、驚いたのは、特許出願です。国内出願をだいぶ絞って、海外の売上比率(非常に多い)に合わせて、外国出願が非常に多いようですが、そのことは、最近であれば、自然な話です。

しかし、特許出願を検討するときに、その出願(明細書、クレーム)は、Sysmex Wayに合致するかという視点で、検討しているという話には驚きました。

ここまで、経営理念=ブランドの考え方が、徹底している会社は、聞いたことがありません。

 

ブランドの考え方の整理は、海外展開するときの肝です。

外国人には、この企業が何のために存在するか、何を目指しているのか、大切にしている考え方は何か、など、ロジカルに説明する必要があり、ブランドの考え方=経営理念が、非常に重視されます。

日本企業では、ブランド戦略の導入をサーポートする企業が、広告代理店であったり、広報関係の会社であることが多く、経営戦略としてのブランド戦略になっていないことが多いですが、シスメックスはさすがだと思いました。

ブランド戦略は、広告やデザインためだけのものではありません。

 

本気で海外に展開しようとする日本企業にとって、非常に、参考になる会社だと思いました。

 

商標に関しては、世界193ヵ国・地域に出願しているとか、模倣品対策(消耗品があるようです)は徹底的に行うようです。このあたりは、知財部門の本業です。

 

明細書にSysmex Wayが入っているぐらいですら、模倣品対策にも、この精神が入っているのでしょう。全件対応しているようです。

 

知財知財としてやるべきことをしているだけなのでしょうが、それがブランド構築にも通じており、知財とブランド戦略の理想形の一つの理想形であるような気がしました。