Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

技術ブランディング(1)

「エンジニアリング・ブランドのすすめ」

夏の宿題として、「技術ブランディング」について勉強しています。アマゾンや、良く行く図書館の蔵書をキーワード検索して、それらしい本が数冊ありましたので、その紹介・まとめをしたいと思います。2018年発行の新しい本です。

 

一冊目は、日刊工業新聞刊の「エンジニアリング・ブランドのすすめ」(一般財団法人アーネスト育成財団編、小平和一朗著)です。サブタイトルにー企業力、商品力を高める技術経営戦略ーとあります。

 

著者は、もともと技術者で、大学で電子回路を真空管で学び、会社に入ってからは、トランジスタ、IC、マイクロコンピュータの技術開発に従事されてきたようです。

回路図面作成(ハードウェア)が、仕様書作成(ソフトウェア)に変化することを経験されました。その後、商品企画部へ異動となり、新規顧客開拓などもされ、事業部長まで経験されています。

その後は、研究者、経営コンサルタントをされているようです。

 

さて、内容ですが、世の中に、会社のブランド(コーポレートブランド)や、商品のブランド(プロダクトブランド)はあるのに、技術のブランドはないのか?というところから、「エンジニアリング・ブランド」という概念を提唱されています。

製品を支える「技術」を可視化して、その機能なり、特性なり、考え方なりを、顧客に伝えていくためのもののようです。

 

エンジ二アリング・ブランドとは何か?

例えば、「ハイブリッド・カー」という概念は、エンジニアリング・ブランドとなり、プロダクトブランドの「プリウス」を支えます。競合他社のパンフレットに「ハイブリッド・カー」とあると、トヨタプリウスを連想し、「ハイブリッド・カー」は、エンジニアリング・ブランドとして成功としています。

他の事例としては、クラレ「人口皮革」があり、「クラリーノ」という素材のプロダクトブランドを支援しています。

また、アサヒビールの「アサヒスーパードライ」の「洗練されたクリアな味、辛口」というスローガンも、顧客が享受する商品特性を伝えるものとしてい、エンジ二アリング・ブランドであるとします。

 

<コメント>

これらは、商品の普通名称や、スローガン(キャッチコピー)と整理され、商標登録にはならないものです。確かに、技術の特性を示すものですが、前二者は、商標では普通名称(化)として法的に保護されなかったり、最後のものは、スローガンとして商標では保護されず、保護があるとすると著作権だけというものです。

商標法の発展が、出所混同の防止を、立法の基礎にしてしまっているために、現実のブランディング活動と合致していないようです。

ただ、前二者は、業界全体の発展のためにも必要であり、そもそも一般開放するつもりで、作成した言葉であると言えますので、法律の不備という問題にはなっていません。

 

企業理念とエンジニアリング・ブランド

BtoBの技術開発型の企業には、企業理念(経営理念)の中に、エンジニアリングの要素を入れ込んでいる会社が多いようです。事例として、日本電産村田製作所東京エレクトロンSUBARUクラレ住友化学などをあげています。

<コメント>

これらの技術系の会社が、企業理念の中に、技術の要素を入れているという点は、そうなんだなと思いました。エンジニアリング・ブランドとして大きなところも押さえておこうということでしょうか。

 

ソフトウェア企業のWebサイト分析から

ソフトウェアという目に見えない、無形なものを作っている会社のWebサイトを分析しています。

会社の事業の内容を的確に表したものが多いようです。

<コメント>

ソフトハウスの対象は、モノではないので、言葉で説明するしかありません。キャッチコピー、スローガンなど、短い言葉で、事業内容を適格に理解してもらおうとしているようです。

 

エンジ二アリング・ブランドの事例

エンジニア・ブランドを作ってきた、事例として、次の事例をあげています。

  • 台湾のOEMメーカーの太平洋自行車:ホスピタリティ(資産活用)
  • クラレ:大学の医療機関との共同研究、学会活動(新規顧客開発)
  • 東洋製罐:顧客との商品開発
  • バーコードリーターのウェルキャット:顧客への技術説明

<コメント>

このあたりは、技術者が行っている、技術開発以外の部分(営業に近い部分)でしょうか。

 

エンジ二アリング・ブランドの伝え方

新聞の1面やテレビ欄などにある、小さなミニ広告とWebサイトを活用して、伝えている事例をあげています。

<コメント>

BtoB企業にとっては、効率的な方法だと思います。予算が限られていても可能のように思います。

 

顧客とのブランド構築

技術者の開発営業の仕方が、説明されています。特に、ADSLの例は、参考になりました。 当時の通信の技術者にとって、音声回線で、数メガの情報が入るのを理解してもらうのは、大変だったようです。

<コメント>

このあたりは、開発営業のやり方という感じです。普通の営業よりもタイトかもしれません。

 

<総括コメント>

BtoBの世界では、技術者自ら営業やマーケティング活動をしないといけないようです。BtoCの顧客と異なり、技術者しか説明もできないことが背景にあります。

この本には、技術者が、市場開発、営業、マーケティング活動を行うときに参考になるような事例が、多数掲載されています。

タイトルは、エンジ二アリング・ブランドということですが、それを使って宣伝・広告活動により売上増進というタイプの話ではなく、

エンジニアが、自分の技術を、いかに、事業につなげていくかが、この本の言いたいところだと思いました。

そして、それができれば、そこには、エンジ二アリング・ブランドができている事だと理解しました。

技術者が、日々実践していること、また、MOTなどで勉強する内容なのだと思すが、こと本にあるような事例をいくつか挙げられると、良さそうです。