国際標準の考え方
田中正躬(たなかまさみ)著、東京大学出版会刊の、「国際標準の考え方ーグローバル時代への新しい指針」(2017)のご紹介です。
熟読はできていないのですが、標準化とは何かについて、知識を得るには良さそうな本です。
著者は、京都大学大学院を出て、通産省に入った技術系の官僚で、日本規格協会理事長、ISO会長などを歴任された方です。
いろいろな事例をベースに、標準の考え方を一般の人にも分かるように説明しているので、事例を見ているだけでも面白い本です。
事例
主に、次のようなものについて、説明がありました。
仕様標準と性能標準
標準化には、欧州統合の影響があります。
例えば、ヘルメットに関して、各国で標準があったようですが、その仕様自体を標準化することは、各国の既存の標準との利害が対立して、統一が難しかったようです。しかし、仕様標準ではなく、求めるべき性能という標準を作り、仕様は色々あっても良いとすると、従来の各国毎の標準をひっくり返すことなく、整合性がとれるようになったようです。
そして、性能標準を満たしたものは、相互認証により、欧州域内を自由に流通できるようになります。
マークの氾濫
代表的な適合マークとして、欧州のCEマークがあり、欧州の標準に適合していることを自己宣言して、自分でつけるマークのようです。
この本では、色々なマークを、1)適合マーク、2)供給者のロゴマーク、3)ピクトグラム、4)ラベル、に分類していました。
商標は、2)供給者のロゴマークに入ります。
環境マーク(ラベル)の話、H社の単一マークの提案などがあります。
標準の作成と標準の評価(適合性評価の仕組み)
一般には、標準の作成に関心を持たれますが、この本では、標準の適合性評価にも、ページを割いています。
標準の作成では、コンテナの事例が引かれています。これにより、いかに、世の中がメリットを受けたかが分かります。
デジュール・スタンダードから、デファクト・スタンダードへという言葉は知っていまいしたが、オープン・スタンダードという言葉は、はじめて知りました。Linuxに関して言われているようです。
適合性評価に関しては、ISO9000などの、評価機関、認証機関、検査機関などによる評価の方法が、1990年代以降、急速に普及してきていることが説明されています。
日本の伝統的な品質管理では、マニュアルよりも、文書化できない暗黙知を重視し、人の協働を重視していたようですが、ISOなどでは、文書化、役割分担、レビュー、文書の変更などという方法となります。
透明性、説明責任、効率性という面で、世界的に見ると勝敗はあきらかとあります。
また、認証ビジネスや、オーディット(監査)文化に言及されています。監査は、医療分野、環境、人権分野、教育機関に広がり、各組織が、報告書、評価書、診断書、成績書など、形式化された文書で、説明責任と信頼性を得るということが、普遍的な行為になってきているとあります。
コメント
技術ブランドに関係するところがないかと思って、この本を見たのですが、少し視点が大きすぎて、技術ブランドには、直接関係はしないようです。
たぶん、認証マークなどを、上手く使うことは、一つの技術ブランディングになると思います。人のマークでも、活用によっては、メリットを受けられそうです。
さて、
先日、防火防災の関連で、防災の検査を受けたのですが、検査員の資格を有する方が来られました。こちらがまとめたファイルを見せながら、検査を受けました。
以前の会社で、ISOの環境監査の内部監査は受けたことがあったので、非常に近いことをやっているなと思いました。
防火の方は、消防署が昔からやっているようですが、防災の方は新しい概念ですし、消防署もそれに向けた予算・人材は簡単に取れないので、ISOの手法を採用して、上手にアウトソーシングしているなと思いました。
ISOのやり方は、ドキュメント中心で、形式的すぎるという批判はあるようですが、防火防災行政は、すでにISO流になっており、ISO流の方法も日本に根付いてきているんだなと思いました。
すべての事業者で、防火防災の責任者を設置し、研修を義務づけ、修了証を発行し、定期的に検査があり、検査では書類の完備を求め、書類の背後には実際に消防訓練を実施していることや、月次点検をしていることが必須になっています。
標準化機関は、冊子の標準を販売していたとのこと。消防署も、本を5000円で販売しています。
話は違いますが、TOEICのテストも、証明書という意味では、近いものがあります。
ブランドマネジメント、商標管理にも、知財管理にも、もう少し、標準という考え方が入ってよいのかもしれません。
ブランドマネジメントと監査は、親和性が高いのですが、環境ISOのような面倒なことはやめてくれと言われ、ライセンスアウトの案件は別して、自社使用の件では、監査まできないことが多いと思いますが、これからのテーマだろうと思います。
まともにブランド監査を実施したら、多くの事業所のブランドマネジメントは、不十分となり、ブランド使用権限が剥奪されるか、ブランド面での指導を受けることになると予想しています。
日本企業のブランド力は、欧米企業に比べて相当低いのですが、その理由の一つに、ブランド管理部門のブランド監査能力の欠如があると思われます。
この点、日本のブランドマネジメントは、広告代理店などがメインで、広報宣伝部門が行っていることが、大きな理由のように思います。
経理などにやってもらった方が良いのかも知れません。