中国で商標登録の取消
2018年8月3日の日経に、焼酎の「森伊蔵」と「伊佐美」が、中国で無断登録されていた件で、中国商標局が登録の取り消しを決定したという記事がありました。
www.nikkei.com
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2つの商標は関係のない福岡県の会社が商標登録
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過去、両社は中国当局に異議申し立てをしてきたが認められなかった
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今回は「3年間不使用」だったとして請求が認められた
2012年4月18日付の日経に、前段階にあたる、異議申立の記事がありました。
- 2007年に福岡県大牟田市の有限会社が、「森伊蔵」「伊佐美」「村尾」の商標を無断で中国で登録
- 森伊蔵酒造(垂水市)、甲斐商店(伊佐市)、村尾酒造(薩摩川内市)が異議申立
- しかし、中国商標局は、この異議申立を認めなかった
- 理由は、中国での販売実績が無いため。悪意を持った登録だとする根拠がない
- 森伊蔵と甲斐商店は、最審査請求を申請。中国に輸出する予定はないが、偽物が出回ると購入者に迷惑。村尾酒造は、最審査請求せず
とあります。
コメント
異議申立のフェーズと、不使用取消審判のフェーズは、全く違うものです。
異議では負けてしまい、その再審査請求も認めらなかったので、次の方法として、不使用取消をしたようです。
記事からは、中国で販売実績がなかったので、悪意をもった登録だとする根拠がないということですが、日本的に考えると、意味が分かりにくいなと思います。
日本では、周知商標の後願排除効の問題となり、国内周知と外国周知の双方がありえて、ある程度、海外で周知なものは、外国周知の考え方を使って、登録排除が可能と考えます。
しかし、どうも、中国では、周知商標と著名商標の区別がなく、馳名商標に一元化されているようです。
そして、馳名(ちめい)商標の認定は、今回のような、不使用レベルでは難しいと思います。
また、最近の中国法には、パリ条約にある、いわゆる「代理人の不当登録」を更に延長したような規定である、「契約、業務往来、その他の関係者による出願は、拒絶される」という悪意の登録の排除規定があります(中国商標法15条2項)。
しかし、今回は、この規定の発効前の案件のようですので、これは適用されていないと思います。
そうすると、今回は、欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせるもの(10条7号)、社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの(10条8号)といった、総括条項を適用しようとしたのかもしれません。
そう考えると、現地での使用が必要というのも、うなずけます。
このあたりは、推測であり、正確ではないですので、ご容赦ください。
教訓としては、日本で有名になったら、輸出をする計画がなくても、中国では商標登録をすべきということだと思います。
外国周知を認めてもらおうなど、あまい幻想は抱かない方がよさそうです。
森伊蔵、伊佐美ほどの有名銘柄で、中国に商標出願をしていないということは、問題を引き起こす可能性大ですので、出願すべきとなります。
先日、ビックカメラのお酒の売り場で、中国からの観光客と思われる男女が、どの「獺祭」にしようかと相談しているところを見ました。
森伊蔵や伊佐美が、自ら中国に輸出していないとしても、観光客がお土産として買って帰る場合があります。これが、中国入国時に税関で没収されるようなことがないようにするためにも、中国で権利取得しておくのが、一番の方法です。
商標権がないのに、外国で商売しようと思うなどもっての他であり、海外で頼りになるのは、個人はパスポートで、企業は商標権です。
なお、村尾は、まだ、件の無断権利取得者が権利を持っているままのようです。大丈夫なのでしょうか?