Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

意匠法の改正

画面、空間、権利期間延長など

2018年8月17日の日経の「一面」に、来年に意匠法が改正され、意匠の保護期間を5年延長などの法改正をするという記事が出ています。

www.nikkei.com

  • 2019年の通常国会提出
  • 保護期間を5年延ばし、25年にする
  • 意匠の物品性を緩める
  • ウェブサイトのレイアウトを保護
  • 建築物の内外装を保護
  • 全体の22%が権利満了まで権利維持しており、同じデザインを長く使う方向。保護期間を5年延長(欧州と同じ)
  • 基本デザインを展開したデザインの出願期間を問わないとする
  • 複数意匠を同時出願可能に(欧州、中国、韓国と同じに)

という内容です。

 

元ネタは、産業構造審議会知的財産分科会 意匠制度小委員会です。下記に資料があります。

www.jpo.go.jp

http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/isyounew06/03.pdf

 

パブリックコメントを募集しているようで、2018年9月21日まで提出できます。

http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/isyounew06/04.pdf

 

コメント

ロングライフデザインと関連意匠がブランドを理由にしています。

 

基本は停滞する意匠制度の立て直しです。

 

弁理士試験の受験時代に、意匠即物品という言葉を聞きました。

意匠は、物品性(抽象的なデザイン/モチーフは保護しない)や工業上の利用性(一品製作ではない)は、意匠の根幹だという説明でした。主に著作権との分境のための概念だと思います。

意匠は、産業革命の副産物で、織物の寄託から始まっている=物品性とか、50個以下は著作権で保護し50個以上は意匠で保護(英国の古い判例)=工業上の利用性など、たぶんに、歴史的・流動的なものだなと思いました。

 

ただ、コンピュータソフトウェアやディズニーのキャラクターが著作権の保護の対象になるなどとなると、大量生産物が著作権の対象になっていますので、50個で、意匠と著作権を切り分けるなど、今は、誰も言わなくなっています。

現在の社会的要請に応じて、意匠制度も変化すれば良いと思います。

 

さっと、特許庁の「意匠制度の見直しの検討課題について」というパワーポイントを見た限りでは、海外の制度、特に、欧州の制度を参考にしているなと思いました。

ハーグ協定に入ったので、ハーグを使って外国出願をする、あるいはハーグルートで外国から日本に意匠出願が入ってきますので、意匠制度をグローバルで通用する制度にしておくことは、必要なことだと思います。そうなると、参考になるのは、欧州です(アメリカの知財制度は、少し変わっており、国際標準ではありません。)

 

画面デザインや空間デザインは、従来からも、著作権や不競法で十分ではないかもしれませんが、一応は保護されています。

また、Webデザインなど、多くの先行デザインの事例があり、今更、制度をつくっても、審査資料の蓄積もないと思いますので、どうやって審査するのかなぁという気もします。

さらに、従来は、著作権や不競法の保護では、特に出願という方法が不要であり、周知・著名になった後に、模倣御者が現れたときのみ、裁判等で争えばよかったのが、事前に、意匠調査や意匠出願というコストがかかることになるので、企業に負担となり、今までのような、自由で活発な企業活動を阻害するという主張もあると思います。

 

一般に、特許庁弁理士は、職域拡大のため、何でも、産業財産権の制度に入れようとしますが、弁護士さんや裁判官は、裁判ネタが減るので、嫌がるのではないか思います。

 

先例としては、サービスマーク登録制度が入るまで、不正競争防止法事件が沢山あったのが、1992年に制度導入されると、サービスマーク登録制度中心に社会が動いたことが参考になるように思います。

 

企業からみると、知財ミックスの時代ですので、意匠でも、著作権でも、商標でも、不競法でも、自由に選べることが重要なように思います。コストをかけてでも権利化したいなら、意匠出願でも、商標出願でもすれば良いと思います。また、海外ではできるのに、できない制度というのは、良くないように思います。

 

しかし、実際は、新しい商標と同じで、日本人は、新制度は大好きですので、当初は出願は盛り上がるのですが、経営貢献を考えるとそうでもない=ブームに終わる、ということになりそうな感じもします。

 

このあたり、やってみないと、分からないですので、やってみれば良いと思います。

 

画面や空間については、審査資料がないし、異議申立もないことと、物と違って残らないことからすると、無効審判が大量に発生し、無効審判の審決取消訴訟が増えることは想定されます。

 

また、空間デザインは、米国でトレードドレスとして、主に商標で保護されるものですので、意匠と商標が競合します。(出願から25年の権利期間エンドまでは意匠で、それ以降は商標でという棲み分けなのだと思いますが)

 

日本の意匠制度が本当に復権するには、アップル対サムスンスマホ訴訟のように損害賠償金額を上げるべきなのですが、そこには触れていません。関連意匠を広く認めて、混同で侵害を判断するなら、強い権利の設定が可能になります。今回の改正のポイントでしょう。

 

強い権利を作るために、審査官が、拒絶査定を出せるか?もポイントです。

企業の担当者はいやがりますが、ここができないなら、欧州のように新規性は審査しない方が、まだましです。

 

どちらにせよ、今回の意匠法の改正は、昭和34年法改正以来の大改正になりそうですので、これに対する備えが必要です。