Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

知財使用料統計(2018年1月~6月)

財務省統計 黒字30%増

2018年8月21日の日経に、財務省の1月~6月の国際収支統計での、知的財産権使用料の収支の話がでていました。

www.nikkei.com

  • 1月~6月の知的財産権等使用料収支は、1兆5034億円の黒字
  • 半期ベースで過去最高。前年同期比で、30%増
  • 欧州での黒字幅は、1.9倍の1275億円。特に、スイスとの収支は黒字額は9.9倍
  • 米国との黒字額は、19.9%増の2644億円
  • 中国との収支の黒字額は、15.5%増の1534億円
  • 総務省の)科学技術研究調査によると、1位は自動車関連。自動車は親子間の取引
  • 2位は医薬品製造

とあります。

 

コメント

まず、財務省国際収支統計を見ました。国際収支統計の中のサービス統計に、知的財産権等使用料という項目があります。

www.mof.go.jp

平成15年(2003年)に、知財収支が黒字化していから、一度も、赤字になっていません。2015年に通年で2兆3508億円となり、これがいままでの最高で、2016年は少し落ちていますが、2017年は回復傾向で2兆2905億円です。2018年は、後半も良ければ、2015年の過去最高を通年でも超える可能性があるのだと思います。

リーマンショック後の2009年に落ち込んで、2012年ぐらいから回復傾向にあるようです。

 

ただ、この財務省国際収支統計は、業種別の内訳が不明です。それがわかるのが、総務省の科学技術研究調査です。

http://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/kekkagai/pdf/29ke_gai.pdf

上は、2016年分の分析ですが、

  • 技術輸出の受取額は3兆5719 億円(海外の親子会社からの受取額が2兆 7335 億円、受取額全体に占める割合 76.5%
  • また、技術輸入の支払額は 4529 億円(海外の親子会社への支払額が 1251億円、支払額全体に占める割合 27.6%)
  • 技術貿易収支額は3兆1190 億円。7年ぶりに減少
  • 受取額、支払額ともアメリカ合衆国が最も多く、受取額は1兆 3824 億円。支払額は 3280 億円
  • 受取額は、中国が4456 億円。タイが 3016億円。イギリスが 2211 億円
  • 支払額は、オランダが241 億円,スイスが223 億円、ドイツが191 億円などとヨーロッパ諸国が多い

とあります。

 

ジェトロセンサーの2016年11月号に、中村江里子さんの「技術輸出を中小企業も」というタイトルの論考があり、これによると、技術輸出の6割が、輸送機械で、自動車メーカーが海外からの子会社から得ている収入です。

http:// https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/ad129bf97cb4311f/20160075.pdf

 

田辺三菱製薬の「ジレニア」は、同社が基本特許を取得し、日本以外での開発権と販売権を1997年にノバルティス(スイス)に許可、臨床開発などを共同で実施。80カ国以上で承認を取得。田辺三菱製薬のロイヤルティー収入はジレニアを中心に、2015年度には前年度比 52.5%増の920億円。同社の医薬品事業売上高全体の2割、という記載がありました。

 

自動車は、内部の関係ですが、田辺三菱は外部関係ですので、凄いなと思います。

 

論考は、中小企業も伸びているとして、中小企業も、海外への技術輸出を進めることを勧めています。

 

この点、知財がしっかりしている田辺三菱製薬のような大企業であれば、知財部や法務部を中心に、海外の法律事務所も上手に使って、海外の大企業と交渉することも可能ですが、中小企業では、そうはいきません。

日本の特許事務所は、権利化の能力のお手伝いは可能ですが、ほとんどの特許事務所は、中小企業の技術輸出はやったことが無いと思います。

日本の法律事務所も、現地会社の立ち上げなどには、関与していると思いますが、技術輸出は得意ではないと思います。

 

日本の特許事務所が、中小企業の知財部・法務部の機能を一部お手伝いし、海外に技術輸出をすることをサポートできれば、素晴らしいのではないかと思いました。そのためには、田辺三菱製薬のようなケースを成功させたノウハウを、特許事務所に移植する必要がありそうです。

 

海外の中小企業から、大企業顔負けの契約書を送られてきて、凄いと思うことがありますが、日本の中小企業もその能力を磨く必要があるとも言えます。