Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

特許行政年次報告書 2018年版

商標の外国出願に注目

先日、特許庁に行ったときに、特許行政年次報告書があったもので、ハーグ協定の資料と一緒にもらってきました。

www.jpo.go.jp

すでに、2018年6月28日に発行されていたものです。

相当立派な資料であり、以前なら、白書として2,000円ぐらいで本屋さんで販売していたような冊子がタダでもらえるなんて、特許庁はお金があるんだなという感じがします。

 

今回は、明治150年ということで、明治期の特集があります。大きな冊子ですので、色々なことが書いてあります。辞書的に使うのが正解でしょうか。

 

第1部の知的財産をめぐる動向、その第1章の国内外の出願・登録状況と審査・審判の状況を見ていて思ったのは、P.9(特許)、26(意匠)、35ページ(商標)の表です。

これらのぺージは、5極(日本、アメリカ、欧州、中国、韓国)の出願のやり取りを示した表で、だいぶ前から特許庁が出しているものです。

https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2018/honpen/0101.pdf

 

●特許と意匠と商標を比較して見ていると、だいぶ傾向が違います。

1.特許では、

  • 特に、日本からアメリは、日本の出願超過
  • 日本から中国も、日本の出願超過
  • 日本から韓国も、日本の出願超過
  • 欧州は、イーブン

2.意匠では、

  • 特に、日本から中国が出願超過
  • 日本から、アメリカ、欧州、韓国も出願超過

3.しかし、商標では、

  • 日本からアメリア/欧州は、出願が少なく、反対に、アメリカ/欧州から日本へが出願超過
  • 日本から中国/韓国へは、日本からの出願超過

となっています。

 

●商標の出願件数に注目しました。

外国商標は、日本からの出願件数がすくないのが、日本の課題です。

日本のGDPが世界の6%あるとして、一応、5極のアメリカ、欧州、中国、韓国での出願人の内訳をみて、その中の日本の出願人のパーセンテージを見ると、

  • アメリカ:1.2%(日本からの出願比率)
  • 欧州:0.6%(日本からの出願比率)
  • 中国:0.4%(日本からの出願比率)
  • 韓国:2.6%(日本からの出願比率)

ということです。

日本自体に比較的大きな市場があるためでしょうが、世界GDP6%の国なのに、この数字は低いなと思います。

 

一方、

アメリカへの出願中、欧州からは12.5%、中国からは6.5%、韓国からは0.9%

欧州への出願中、アメリカからは3.4%、中国からは2.4%、韓国からは0.3%

中国への出願中、欧州からは1.7%、アメリカからは0.9%、韓国からは0.6%

という数字です。

 

アメリカは欧州で、欧州もアメリカと中国で、中国はアメリカと欧州で、韓国は中国で、相当頑張って出願しています。

特に、アメリカと欧州の結びつきは非常に強いのと、中国と欧州の結びつきも強いというところでしょうか。

全体的には、日本からの外国への商標出願は、伸ばす必要がある感じです。

 

特許で日本からアメリカや欧州への出願が多く、意匠でも中国への出願が多く、負けている感じがないのですが、商標はボロ負けです。ここは、しっかりと考えないといけない点です。

 

●特許は、欧米との競争があるので、対抗上、欧米が多く、意匠は、模倣品対策で、中国に多いのだとは思います。

 

商標の出願がないということは、どういう理由でしょうか?

 

日本企業はコーポレートブランド中心で、その出願は高度成長期に一巡して、更新ばかりだと言う声が聞こえてきそうです。

 

大企業は、実は、自動車は別として、欧米での事業が上手くいかず、電機等、撤退気味なところが多いので、このような結果になっているのかもしれません。そうであれば、より大きな施策が必要です。

 

また、商標登録をとる必要性が十分理解されていない気がします。

 

税務上、子会社に無償ライセンスするなど、ありえないのですが、まだまだ。何らの手当て無しに、子会社に無償の商標ライセンスをしている会社も多いと思います。

 

日本企業は、コーポレートブランド中心の運用で、事業ブランド、商品ブランド、技術ブランドの使い方が下手なので、こうなってしまったのかも知れません。

 

更には、企業の知財部が、特許中心であるため、こんな結果になってしまった可能性もあります。

 

このあたり、分析してみる必要があるように思います。

 

現在は、日本の食料品やお酒などの輸出など、主として、中小企業が念頭に置かれた外国商標出願推進の取り組みはあると思いますが、これは本筋の話ではなさそうです。

 

日本の外国商標出願が増えることは、日本企業の事業事業が順調に推移していることを示すバロメーターだと思います。

 

アメリカ、欧州、中国企業並みに、外国商標出願を増やす必要があり、そのための課題や施策を考えるのが、各企業はもとより、経産省特許庁の仕事ではないかと思いました。

経産省は、日本企業の外国商標出願が少ない原因を探り、日本経済との関係を考えて、政策を実施して欲しいと思います。

仮説としては、日本人の商標についての考え方の整理が必要だと思います。

また、日本の商標制度が、非関税障壁となって日本人を甘やかした結果が、この結論なのではないかと推測します。

 

特許庁は、マドプロ出願を3倍程度に伸ばすこと目標にすべきと思います。