萼 優美先生の翻訳(日本経済新聞社)
知財協会の商標委員会の勉強会で、商標担当者の業務について話をするチャンスをもらったので、「商標管理」なるものを復習しようとしています。
横浜市立図書館の蔵書検索で、「商標管理」と検索すると次のような書籍が検索結果に出てきました。
1 戦後型企業集団の経営史 石油化学・石油からみた三菱の戦後/平井岳哉著/日本経済評論社/2013.7
2 商標(ブランド)のすべてがやさしくわかる本/飯島紳行著/すばる舎/2002.08
3 新・商標とサービスマークがわかる12章 グローバルに暖簾を活かす法/木村三朗著/ダイヤモンド社/1997.03
4 日立の知的所有権管理 経営戦略と特許企業の将来を築く知的所有権とその戦略的活用/日立製作所知的所有権本部編/発明協会/1995.04
5 国際商標戦略/桑野正之著/有斐閣/1990.1
6 商標管理 商標管理専門視察団報告書 Productivity report/日本生産性本部/1960.4
7 商標の管理 実業家のための手引/合衆国商標管理委員会編/日本経済新聞社/1957.11
商標管理のタイトルの本は少ないようです。
6の「商標管理」は有名ですが、7の「商標の管理」を久しぶりに見ました。
この本は、INTA(The International Trademark Association)の前身のUSTA(The United States Trademark Association)の時代の「Trademark Management(A Guide for Businessman) 」という本の翻訳で、萼(はなぶさ)優美先生の翻訳です。
昭和32年の本ですので、私でも、まだ生まれていません。
目次は、
- 正しい商標の選択
- 登録
- 商標の適正な使用
- 商標の内部的管理
- 商標の警保(警戒保全)
- 商号
- 外国における諸問題
となっています。
当時のUSTAの商標管理委員会のメンバーが、分担で執筆しています。
目次の下の細目をひらうと、次のようになります。
- 正しい商標の選択
まえがき、商標はどんな役目をするか、諸君の現在もっている標章を活用すべきではないか、新しい特殊製品マークを選定するについての注意、造語商標の作り方、特に問題の種となる標章、商標に望ましい特徴、新規商標の事前テスト、結論
- 登録
まえがき、合衆国特許庁における登録、どのような商標が登録されるのか、どのような商標が登録されないのか、変形標章の登録、同一商品についての重複登録、登録の効果
- 商標の適正な使用
商標の適正な使用、基本的な要件、広告または一般刊行物における使用、商標権の喪失、商標の所有権についての標記、一つ以上の商標の使用、他人による使用
- 商標の内部的管理
まえがき、登録商標の一覧表の作成、弁護士の役目、社内法律顧問をおかない場合の最小限度の必要事項、各商標に関する歴史的記録の保存、各商標に関する営業実績の記録保存
- 商標の警保(警戒保全)
まえがき、危険の覚知、警備はまず社内より始まる、会社外における商標使用の警保、総結論
- 商号
商号と商標の区別、商号の選択、商号の侵害、一つ以上の商号の使用、架空もしくは仮の名称
- 外国における諸問題
まえがき、正しい商標の選択、登録方針、適正な商標の使用、商標の内部的管理、商標の警保、商号
という内容です。
米国法を前提にしていますが、ほぼ、商標管理としてやることは網羅されているようですし、ビジネスマン向けとありますので、分かりやすく書かれています。ただ、翻訳は先生がご自分で訳したのかどうか分かりませんが、少し硬い感じがします(「警告保全」を「警保」とされていますが、あまり聞きません。それも、この本の味かもしれません。)
どうも、警保は、社内には適正使用管理をすることで、社外には普通名称化の防止のための警告などを行うことのようです。
マーケティング側面のブランド論の方は、ケラー先生やアーカー先生のように、どんどん研究が進んでいるのに対して、この61年、商標管理の内容はあまり進歩していないのではないかと想像しています。(この点は、INTAの最近の解説で確認するようにします)
日本企業の商標部門の置かれている立場は、あまり良くないようですので、当時よりも状況が悪化している可能性もあります。
ハウスマークの適正使用管理、ライセンス、警告保全のあたりは、現在、商標管理部門の手を離れて、ブランドマネジメント部門に移っています。
昔の商標管理では、更新時の使用証拠の提出が一大行事であったので、このため、カタログや製品写真を、毎年事業部門に調査して、送ってもらい、それをファイルに入れていました。
面倒なのですが、このときに、同一性を超えたような不適切な変形使用も確認・指導できますし、記録の保全もできます。
商標の更新が楽になり、この結果、商標部門は特に何もしなくても良くなり、ここが商標部門の地位低下の遠因の一つではないかと思っています。
適正使用管理、ラインセンス、異議申立、商標使用情報蓄の蓄積、警告、普通名称化の防止、商号、このあたりをやらないと商標調査や出願や更新だけをやっていても、企業では評価されません。
また、この本にはあまり書かれていないものに異議申立があります。米国の異議は商標管理に重要な役割を果たしています、非常に効果があります。これに対して、日本の異議は無くても良いレベルの存在です。
企業の商標部門の現状を見ると、平成8年法改正は、失敗だったのではないかと云いたくなります。
当時、知財協会の商標委員会のメンバーで、法改正にはグローバル化のために賛成しましたが、理念のない法改正は、結局、商標部門Passingにつながってしまっただけではないかと反省しています。
グローバル化も、進展したのでしょうか?
なお、この本ですが、61年前の本ですが、読む人も少なく、横浜の図書館がきっちりと保管していくれているので、十分綺麗な状態です。