Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標の管理(Trademark management)(その3)

商標の適正な使用

本書の特徴の一つである、商標の適正な使用(適正使用管理)です。

 

「使用の定義」

まず、ランナム法の使用の定義の紹介です。すなわち、商標の使用を製造物、容器、密接な関係のある販売用展示物、製造物のラベルの上に表示し、それらは、商業上販売されうるもので、または、輸送されるものでなければならないとしています。

 

「一貫性」

商標はいつも同じ形を使用するのが、侵害対策上も有利であり、もし、使用態様を変えるときは、商標登録をやり直すか、商標の訂正(アメリカでは、登録後でも可能です)をすべき。(※ブランドマネジメントで良くいう、Consistencyですね)

そして、

・綴りを間違えないこと、

・商標は固有名詞と同様に最初の文字は大文字にすること、

・商標を使用するときは普通名称と区別すること、が挙げられています。

 

「商標権の喪失」

●一般論

・使用を中止し、再開の意思がないときは、放棄と見なされること、

・商標権者の不注意により、普通名称化すること(セロファンは、もともとデュポンの商標で放棄する意思はなかったが、広告に商品の説明的に使用した結果、普通名称化した)、

により権利が消滅するとあります。

 

●一般大衆による不適切な使用

・商品の一般名称を作っておかなかったために、一般大衆が普通名称化してしまった例(エスカレーター、アスピリン

・防ぐためには、「trademark」「Brand」「TM」などを付けること

 

●ライセンシーによる不適切な使用

ライセンシーの商標の使用法は、油断なく監視しなければならない。製造物の品質を維持せず、出所を適当に表示しないときは(※社名の偽りのことでしょうか?あるいは、ロゴの不適切使用のことでしょうか?なんとでも解釈できる言葉です)、権利者の商標に対する権利が喪失する。

 

「商標登録標記(表示)」

米国法では、不当利得返還請求、損害賠償請求のためには公的な表記が必要。商標を表示するラベル、包装、他の印刷物に、少なくとも一回は、商標に近接して、明確にわかるように商標登録標記をすること。

・Registered in U.S. Patent Office(※当時は、まだ、Patent & Trademark Officeではなかったのでしょうか)

・Reg. U.S. Pat Off.

・Ⓡ(※出てきました)

 

この標記をするのは、

新聞、雑誌、ダイレクトメール、ステーショナリー(レターヘッド、封筒)、取引書類(小切手、インボイス、注文書、引受書、領収書)、広告看板、映画、テレビジョン

ラジオの場合は、例えば、『「フィルコ」はフィルコ会社の登録商標です』と所有者に言及するとあります。

 

この商標登録標記は、基本商標(デュポン、RCA、フォード)の下の補助的標章(※Trademark は、markの上という意識があるようです)にも、同様に行うとありあす。

 

「他人による使用」

他人による使用は、「(卸や小売りなど)取次業者による使用」と「ライセンシー」による使用があるとします。

 

・取次業者は、競業者よりも、商標の使用が自由である分、知らず知らずに誤った使い方をことが多く、そのため、デュポンのダクロンガイドラインを引き合いにだして説明をしています。

ダクロン ポリエステル繊維製縫糸 と一般名称を併記

ダクロンは、所有格に使用しない(’sをつけない。ダクロン ポリエステル繊維製縫糸の、とする)

ダクロンシャツ、ダクロンセーターとはしない。ダクロン ポリエステル繊維製織物(シャツ)と記載する

ダクロンを使った商標をつくらない(商標ダクロンの部分にせよ、それと認識される他の言葉、商標、会社名、織物の説明その他と組み合わせて使用しようとしない

また、J&Jの例を引いて、ロゴタイプガイドラインを提示することを勧めています。このガイドラインには、BAND-AIDのような商品の商標もあります。

 

この適正使用管理の法的な説明としては、ある全国的な清涼飲料会社が、一人の卸売り会社に商標をライセンスしたところ、その業者が自身でラベルを用意し、その商標を自社の会社名の一部にして、他の会社から買った清涼飲料にも使用して、全国的な清涼飲料会社からの購入を中止してもその商標の使用を続けた場合につき、連邦地裁は、差止ではなく、(※登録を無効にして)使用継続を認めた(※たぶん、Naked License)という説明しています。

 

・ライセンシーによる使用

自分が権利者でないものを、ライセンスはできないません。また、ランセンシーの使用だけでは商標権を確立できません(※Robert Ripleyの“Believe it or not”の事例を引いていますが、推測するに、始めから単なるラインセンスだけでは、使用ありとは認められないという話ようです。この「無から有は生じない」=何某かの努力が必要というタイプの論点ですが、ライセンスにおいて、Quality Controlが必要な一つの理由のように理解しました

 

・ライセンス契約の条件をあげています

  1. Quality Control
  2. ライセンスの譲渡の禁止
  3. 商標をさらに別に特徴づける宣伝材料や包装の使用禁止
  4. 許諾の趣旨に合致しない宣伝材料や包装の使用禁止
  5. 契約に従わないときのライセンスの取消
  6. 適正使用管理、侵害排除の責任分担

 

・使用許諾は拡大しており、それに賛否は言えないが、法律的な話であり反トラスト法の問題があるので、ライセンスは、法律家に助言を求めるべきであるとして、締めくくっています。

 

コメント

この章は、この本の一番重要なところだと思います。

 

ランナム法の制定は、1946年の戦後すぐです。20世紀初頭には、普通名称化した商標が多かったのかなと思います。そして、普通名称化の防止と商標登録表示はセットで考えているようです。

 

米国法は、商標登録表示をしていないと、損害賠償金が減ります。このあたりは、公示を補うものとも、商標権者の保護ともとれます。商標登録表示を励行させ、普通名称化を防ごうという意図を感じます。

 

他人による使用の本論は、ライセンシーへのQuality Controlですが、それよりも、卸、小売りによる商標の使用を先に扱っている点は、出色です。

社内でさえ十分にコントロールできないのに、卸や小売りのブランド表示のコントロールは、簡単ではありません。しかし、消費者の目に止まるのは、こちらです。

 

消尽論(用尽論)は、特許向けの議論であり、商標では製品そのものは、消尽的に考えても良いと思いますが、卸、小売りは、別の使用行為(販売役務での商標使用)と考えるべきです。その考えがこのあたりにあると思います。

そして、本来は、別行為ですから、単に点々流通させることと、単に言及するという程度を超えた使用には、ライセンスが必要になるばずです。

 

残念ながら、ロバート・リップレイの「真か嘘か」は、前提の話が分かりません。しかし、使用許諾だけをもって、自分の使用(意思)があるとはいえない。少なくとも使用意思ありというためには、実際的な統制(Quality Control)が必要ということだと理解しました。

そして、ブランドロゴの適正使用管理は、このQuality Controlの大前提であり、重要な管理項目というのが、この章の読み方だと思います。

 

ちなみに、この商標は、フィルコとJ&Jの法律顧問が執筆とあります。企業の弁護士でないとできない議論だと思います。