Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標の管理(Trademark management)(その4)

商標の内部的管理

第4章は、企業の中でどのように商標を管理するかです。この章の執筆者は、デュポンの法務部長です。

 

まえがき

当時のアメリカにおける、各社の取り組みが紹介されています。次のようなことをしているとあります。

  • 新商標の名称選定委員会(販売、宣伝、生産、法律部)
  • 広告原稿の法務部の弁護士によるチェックと承認
  • 商標委員会(国内、外国における、登録、更新、放棄の決定)
  • 外国の登録と国内の登録状況を合致させるために、役員の一人にその責任
  • 社内法務部長(法律顧問)と広告部の定期的会合での、商標の選択、登録、使用、誤用、使用許諾、侵害、広告原稿・ラベルデザインのチェック
  • 社外の弁護士による商標関係の書類の整備の監査

その中で、紙面がないので、以下、商標関係書類の整理について説明をするとあります。

 

登録商標の一覧表の作成

(コンピュータのない時代ですので)カード式、あるいは、ノートブックで、

  • 商標の表示
  • 登録証発行日
  • 登録証の番号
  • 登録国
  • 登録有効期限満了日
  • 更新される最初の期日
  • 使用宣誓を提出すべき日

などの書誌的データを管理するとあります。そして、このカードは、2部作成し、一つは期限順に、もう一つは商標のA、B、C順にならべるとあります。

(※ここは面白いと思いました。以前にいた会社に、カードが残っていたのですが、それは商標順で、指定商品のチェックに使っていました。

期限管理は、カードではく、ノートでした。コンピュータの補助です。今の事務所は、カードを期限管理の補助に使っています。

カードを取り出して、指定商品の確認などに使うと、紛失の危険があり、ノートの方が期限管理に向いているような気がしていたのですが、デュポンは、2つ作っていたんですね。

そもそも、このカードパンチ穴の方式で、期限管理に使えるはずのものです。)

 

弁護士の役割

  • 商標登録に関する書類整備
  • 異議のための公報の調査
  • 他社の商標表示のチェック(侵害、誤用を調べる)
  • 侵害、誤用を役員に報告
  • 警告書の作成、販売・宣伝・渉外担当の社員の指導
  • 警告を聞かない相手方への訴訟
  • 国内外の弁護士の支援
  • 会社の宣伝や、顧客の資料が、法律、契約、商慣習に合致しているかのチェック
  • 会社の管理部、販売・宣伝部、渉外部の幹部への勧告(商号、商標の模倣品対策、ライセンス、信用について)

 

社内に法務部長がいない場合

最低限、次のことをする。

  • 見本印刷部の準備(※たぶん、「清刷り」のことです)。これを、個別商標、綴り、句読点、表示に関する基本的規則を示す
  • レターヘッド、インボイス、広告文、印刷物で、商標、商号、その他の表示の商標の基本的規則を記載したパンフレット(※ブランドガイドラインです)
  • 主要職員のための商標の費用、登録、保護、表示などの重要事項の実行、決裁、方針、手続き等を記載した便覧(※ブランドの全社規程です)

法務部員がいないときは、外部の弁護士に作ってもらえとあります。

(※日本では、これができる弁護士はあまりいないと思います。最近は、ブランドガイドラインは、インターブランドや、広告代理人が作ってくれますが、全社規程を作れる人はあまりいません。企業の商標出身者なら作れると思います。)

 

歴史的記録の保管

整理カードに、次の情報を記載する。

  • 商標の創作者
  • 社内での承認経路
  • 商品の説明
  • 特許に関する事項(あれば)
  • 販売計画
  • 簡単な歴史
  • ラベル、インボイス船荷証券のコピー
  • 最初の出荷日の確認(船荷書類で)
  • 国内外の商標登録に使用した提出書類のコピー
  • 商標の使用を立証する最初の商標見本
  • 侵害の警告文、回答など
  • 訴訟などの命令、判決

これらを、製本せよとあります。(※ファイルに入れるだけではNGなんですね)

 

営業実績の記録

  • 広告の見本(この点は、特に強調しています。これが唯一の証拠と言っています。)
  • 販売高および広告費用の数字(全体ではなく、商標毎、地域毎に出せるようにということのようです)
  • 継続的使用を立証するインボイス(訴訟に勝つか負けるかの分かれ目)と言っています。

 

コメント

アメリカには、弁理士はおらず、弁護士が商標や特許を扱います。技術系の弁護士が特許出願を扱いますが、商標は技術のバックグランドのない弁護士でも対応可能です。

会社の中に弁護士は、沢山おり、この本で法律顧問というのは、法務部長(General Counsel)のことを指すようです。

日本で、商標部門が日陰の存在になるケースが多いのは、技術者中心の特許部門の中に配置されることが一つの理由なのですが、そうかと言って、日本では、法務部に商標部門が移ってもどういうことになるか、よくわかりません。

 

ただ、云えるのは、商標には、これだけの業務はあるということです。

 

チェックは、現在、ブランドマネジメントがやることになっているかもしれませんが、普通名称化や、商標の同一性のチェック、他社商標への言及方法など、商標担当の仕事です。

 

社内に働きかけて委員会をやったり、広告物をチェックしたり、広告物を保管したり、このあたりの活動にフォーカスしているようです。

 

そして、現在の日本では、権利管理や模倣品対策で精一杯で、この本でいう商標委員会や、使用証拠の収集・保存、全社規程の発行、などまであまり手が回っていないと思います。

 

特に、使用証拠の収集保存については、昔の更新制度があったときは、やっていたものが、今は、まずやっていません。

これは、商標法の改正が大きいのですが、制度を楽にし過ぎた感があります。

1996年の改正ですが、そのころから商品カタログも減り、Webに移行しています。

Webは現在の情報は十分ですが、過去のWebの情報は、Web担当も持っていないのではないかと思います。

PDFなら発行年月日等も入れられますが、Webの証拠をどう保管するかも大きなテーマであるように思います。

 

権利の管理などは外だし可能ですので、絶対に内部でしか出来ない仕事にフォーカスするのがポイントだと思います。