Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標管理(日本生産性本部)(その2)

Ⅱ 商標と商標制度

第二章は、商標と商標制度です。

中世においては、生産者と消費者が直接商品が売買したので、商標は、生産標であり、公共の利益のために使用する義務があり、警察標とか、責任標と呼ばれていたとあります。

 

商標は、近代的な商品生産社会になり、生産者と消費者との間の結びつきが切り離され、生産者は商品を提供し、消費者は多くの商品の中から自己の好むものを自由に選択することから生じたとあります。

 

そして、商標の機能としては、出所表示、品質保証、広告機能があるとします。

 

各国の商標制度は、使用主義と登録主義に分かれ、使用主義では、最初に使用した人が独占権を取得し、登録主義では権利は登録によってはじめて発生するとあります。

登録主義国は、日本、ドイツ、オーストリア、北欧諸国とあります。

 

ただ、使用主義といっても登録主義の良いところは、取り入れており、使用主義のアメリカでも登録は商標権の確認に留まらず、訴訟条件であり、対抗力があるとします。

使用主義の欠点は、先使用者があることを知らないで大々的に商標使用を開始し、後で判明して、やめなければならない点とします。

アメリカ人も、将来の使用に備えて、予め商標を登録できれば便利と感じているとあります(※これがIntent to useになったのでしょう)。

 

イギリスは、原則として使用主義であるが、現在の使用でなく、使用意思のある商標でも良いとします。使用意思は、「誠実の意思」が必要とします。また、7年以上登録で、確定的効力があるとします(※7このあたり、現行法はだいぶのではないかと思います)。

 

フランスも、最初に使用した者が商標権を取得するということで、使用主義です。しかし、先使用商標がない場合は、使用されていない商標にも登録を認めるとあります。

 

使用を必要としないのは、ドイツです。使用の意思の証明も要求されません。しかし、ドイツでもストック商標が問題になっているとあり、不使用取消が必要とされています。

 

この本がいうには、昭和34年法で、不使用取消審判により、使用が必要となり、使用主義的な要素を取り入れたとあります。

 

少し、意味が取りにくい記載が次です。

 

特別顕著性を有しないような商標とか、他人の登録商標と紛らわしいような商標は、その構成上自他商品の識別力をもちえないのであるから、いずれの国の商標法でも、このような商標は登録を認めていない。

※ここの部分、はじめて読んだときは、引っかかったのですが、次のように解釈できないでしょうか。

・先天的登録性のようなものを、特別顕著性distinctivenessと表現し、

・一方、第三者の先行商標との抵触をみて、

・双方セットで、自他商品の識別力とみるという

考え方と読みました

現在のいわゆる識別力と、他人との抵触性を峻別するというタイプの考え方ではなく、他人との抵触性も含めて、自他商品の識別力とみる考え方は、旧英国法の根底に流れているのではないかと思っています。それを書いているかもしれません。商標は、distinguishが目的です。ちなみにブランドでは、差別化differentiateが大切です。

 

商標の使用許諾は、この本の当時、公衆が損害を受けないように何らかの対策をとりながら、認めるのが世界の趨勢とあります。

 

権利侵害については、刑事罰が面白く、イギリス、アメリカは、刑事罰がないとします。ただ、アメリカの場合は、裁判所の侵害行為の差止命令を出したの、従わないものは、法廷侮辱罪になるとあります。

 

コメント

比較法的な分析の部分ですね。商標の法制も、CTM、EUTMが生まれて、各国法で出願しなくなっているので、最近はイギリス法やドイツ法、フランス法の勉強はあまりしませんが、現在は、どう変化しているのでしょうか。

 

●使用主義の説明は分かりやすいのですが、登録主義は行政庁の設定登録に意味があるとすべきではなく、願書というのものの中に使用意思が入っているのだと解釈すべきと思います。(知財の世界では、委任状をしつこく要求しますが、あれも、意思の確認という面がたぶんにあります。)

 

ドイツが、面倒なので、出願時の使用意思の証明(使用意思宣誓)を省いただけで、根底に使用意思がないと登録主義の重要な根拠の説明が不足していると思います。

この意味で、出願時の使用意思宣誓は、現時点でもやる意味があるものと考えています。(面倒ですけれども、面倒でないと商標の仕事は誰からも評価されません)

 

●旧英国法系の諸国に出願すると、いわゆる識別力のチェックが厳しく、出願前3年程度の使用証拠を要求されます。

そして、これを出すということは、使用による特別顕著性の立証ができているだけではなく、その間、特に問題なく併存していることが立証できるのですから、他人との抵触性でも問題ないことが明らかになり、いわゆる識別力と、他人との抵触性が、一緒に判断ができる、非常に優れた方法ではないかと思います。

審査官は楽ができます。とりあえず、いわゆる識別性なしの拒絶を出せば、良いのです。それだけで、社会の認識と歩調を合わせた判断ができます。

 

こちらも、出願人は、大量の使用証拠を準備するなど、大変ですが、大変だからこそ、評価される仕事にもなります。

 

●もともとのフランス法は、使用主義に分類されるのですね。

 

●特許は、私有財産の側面が強いが、商標は、公益的側面が強いので、商標は非親告罪であると習った者としては、違和感があります。

米国は特許でも刑事罰がないようですし、また、三倍賠償などになるのだと思います。

現在は、模倣品対策面からでしょうか、アメリカでも著名商標の場合、刑事罰があったと思います。