Ⅳ アメリカにおける商標法と不正競争防止
第4章は、商標法と不正競争防止との関係です。この章は、少し難解でした。
元々は、コモンローのPassing Offがありました。Passing Offとは、「何らかの方法で、自己の商品をあたかも他人の商品であるかのごとく消費者につかませることを許さない」という原則をいうようです。このPassing Offが、不正競争と同義とされていたようです。
商標権侵害も、Passing Offで処理されていたようですが、
・Passing Offを伴わない商標権侵害
・虚偽又は誇大広告等
・他人の営業に対する悪意ある事実の誤述
などを規律するのに十分ではなかったようです。
また、不正な意図が重視される時期があったり、消費者の混同や、当事者の不利益が重視されたり、判例も流動的であったとあります。
さらに、コモンローは、州によって異なり、連邦裁判所も州のコモンローや不正競争法の調査・適用が必要で、連邦裁判所は困難に直面していたようです。
そのため、
1.正直かつ公正な取引の助長
2.消費者の保護
3.個人の財産の保護
を目的に、不正競争防止の理論が打ち立てられ、「フェア」というものが義務になったとあります。
「相互に一定の関係のある者は、自己の意思のいかんにかかわらず、その関係に特有な権利義務を有するということがアメリカ法の伝統の一つ(パウンド教授)」とされ、「関係理論」と言われているそうです。
公衆の保護は重要性は指摘されるが、一歩下がったものであり、個人の財産の保護が前に出ているとあります。しかし、その個人の財産の保護も、同業者の正当な競争のもと、財産権の侵害が発生しても許されるが、それは正直で公正でないといけないという考えとあります。
前述の州ごとに違う、コモンローや州法で内容が異なることで、不合理なことがあったようで、ランナム法によって、連邦法となったとあります。
ランナム法により、連邦裁判所が、裁判管轄権を有することになり、出所や営業上の虚偽表示、登録商標やその類似商標を使用した商品の輸入、商号の保護、などがされているとあります。
もう一つの、公正を確保するための独禁法(シャーマン法)ですが、初期は裁判所中心だったようですが、運用に不満があり、また、技術専門的なので議会では詳細立法が無理と判断し、連邦議会が、連邦取引委員会という独立行政委員会を設置することしたとあります。
連邦取引委員会は、「通商における競争の不正な方法および通商における不正な、欺瞞的な行為を」防止するもののようです。
特に、商標に関して、ランナム法14条(※今の条文は未確認)で、次の場合に、商標登録の取消が請求できるとあります。
1.商標が放棄されている場合
2.登録が詐欺または不正な行為によってされた場合
4.商標が譲渡された結果、出所の混同を生じさせる風に使用されている場合
とあります。
最後に、執筆者は、アメリカでは商標権侵害にはならないが、不正競争として取り締まってもらえるという説明を頻繁にうけたとして、アメリカの不正競争が、当時の日本に比べて普及しており、参考になるとしています。
アメリカで、不正競争は、ランナム法、再販価格維持制度の保護を目的とする公正取引法、生産費以下の販売を禁止する公正販売法、通商における不正なまたは欺瞞的な行為を公共の利益の立場から防止する連邦取引委員会法、が不正競争防止法の体系としています。
コメント
公益より、私益より、フェアが一番というのは、アメリカっぽいなと思いました。
使用主義のアメリカでも、商標権侵害にはならないが、不正競争にはなるという事例がが多かったのですね。
日本でも、最近は、ほとんどの商標権侵害事件では、不正競争防止法が根拠に使われています。
商標権は、証拠の一つ程度の扱いのように見えますので、当時のアメリカに近づいているのではないかと思います。
不正競争防止法は、双方の実際の使用行為があり、その間の調整をすることになりますので、使用を前提とする使用主義的なものです。
商標法も使用主義、不正競争防止法も使用主義で、一貫性があります。
ところが、日本の場合は、商標法は登録主義で、不正競争防止法は使用主義で、二つの根拠が別々です。
そして、裁判所は不正競争を中心に観ますので、「マリカー」の事件のように、商標権があっても、商標権を無視して、合理的な解決を図ることになります。
登録主義をとるなら致し方ない面がありますが、不正競争防止法と商標法の整合は、もう少し考えた方が良さそうです。
心配するのは、商標権を取るのは、メリットのない行為であり、とにかく先に使用して有名にすれば勝ちとなることです。
商標権が無効、無視された判例を概観すると良いのでしょうが。。。
また、普通名称化した商標はFTCが取消し請求するんでさね。ここは、最近の議論に通じます。