Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標管理(日本生産性本部)(その9-1)

Ⅸ 商標管理に関する専門家の意見(アメリカ商標協会における講演記録)前半部分

第9章は、15個の講演録になっています。テーマが多岐に亘っているので、2回分に分けて書きます。

 

1.企業における商標管理(シンガーの商標部長)

企業の商標担当者は、商標管理を行い、会社の商標を保護する。

具体的には、他人の商標権を侵害しないように指導すること、広告等での使用が過ちが無いかチェック・指導すること、世界各国の商標公報をチェックすること(異議と他社商標の把握)、更新管理、侵害対策、海外代理人や政府機関との連絡など。

広告や営業部門との関係では代替案の提示などはするが、最終決定は商標管理部門ではなく、経営責任を持つ部門が行うべきで、商標管理部門が会社の政策を決定すべきでないとします。(※少し、消極的ですね。)

特許部門と関係(シンガーは、幸い、特許部門から独立して商標部門があるとします)、予算、侵害、商標の財産的価値、最後に税の問題に言及しています。税の問題は、トレード・マーク・レポーター(TMR)の44号「商標の会計および課税面の一考察」、47号の「商標および商号の分野における課税問題」を見よとあります。

 

2.商標の選定(スコット製紙会社)

フォードが18,000の候補の中から案を出したのに、役員がEdselに決めたという話(大作業をしたが、役員の一言で、ヘンリー・フォードの後継者の名前になってしまった)、コンピュータを使った名称案の考案、マーケティングリサーチの重要性などがあります。

Flying Red HorseからMobilへの移行時も、マーケティングリサーチが活用されたようです。

 

3.商標の登録(法律事務所)

コモンローと州際取引条項をつかった、連邦商標法の話、主登録と補助登録の話、防衛商標を取るときでも短期的でも使用する必要があるという話などです。

 

4.商標の維持(フィルコ)

広告は事前チェックをしている。そのために、商標の基本原則を書いた書面を配布。普通名称的に使用されたり、小文字で書かれたり、広告に合わせた登録商標の変形使用の根絶。

使用許諾の場合、使用態様の厳守を要求している。一般には、ライセンシーは非常に注意深く、不明点は確認にくる。

 

通名称化の防止の事例としては、3MのScotchテープの事例。一般大衆や新聞が、単にその製品をスコッチテープという代わりに、略しない全部の名前で呼ぶように活発な努力をしている。(※スコッチⓇメンディングテープのような事例でしょうか。)

 

使用許諾については、OEMは問題ないとして、生産会社へのライセンスに注目するとし、ライセンシーの昔からある商標とのダブルブランド(結合)を防止されるとしています。

結合商標は、絶対に禁止とあり、要求されるが、認めないとします。

その場合、生産系統を分け、それぞれの商標で事業をするようにする。

これは、法律問題ではなく、基本的な商標上、政策上の問題とします。

 

5.更新など(ジョンソン・アンド・ジョンソン

商標使用記録は、会社の特別資料室に蓄積。自社、子会社、国内外のライセンシー、商社のカタログ、価格表など。

ライセンシーの使用に問題があれば、異議をする。1877年からの記録は、いつでもお見せできる。

 

6.商標の使用許諾(アメリカン・サイアミッド)

何度も出てくる、化学品のCyana織物仕上げの商標(成分ブランド)の紹介。特に試験の実施。処理業者の限定。

国内の場合は、その他で投資回収が出来ているので、ライセンス料をとらないが、海外では取る。海外は、通貨、統制、その他の理由で、直接取引ができないが、今や、通信は速いので、アメリカで有名になれば、世界で有名になる。相手方もアメリカで有名なものは市場進出がしやすいメリットがある。

 

7.商標の譲渡(アメリカン・ホーム・プロダクツ)

子会社から親会社に商標を譲渡した。本国登録との関係で問題が生じた。

 

8.経営管理部門と商標管理部門との関係(シーグラム

ネーミング時に良く相談する。これがあれば、商標担当者の仕事は他にあまりないとさえいえる。

識別力のない商標、良くない商標でも、積極的に使用すれば、有名になる。商標の問題は時間だけが解決できる

 

Seven Crownという商標で模倣品が相次いだ。その侵害対策では、前任者は、営業が怒りだしても何もせず、デッドコピーがでるまで待った。その後、立て続けに侵害対策をして成功した。

 

商号と社標(ハウスマーク)は、顕著性のある商標のように絶対的な禁止権は得られない。Seagramでさえ、釘やネジを作っている他人を差押えできない。

(※社標という言葉は、会社のマークと考えると、造語ではなく、顕著性がなかったのかもしれません。ちなみに、シーグラムは、ジョセフ・イー・シーグラム・アンド・ソンという社名だったようです。)

 

コメント

識別力、使用による顕著性の獲得、普通名称化の防止、適正使用管理、ライセンス時の適正使用、ダブルブランド、侵害対策と、どれも面白い話題です。

一番面白いのは、ジョンソン・アンド・ジョンソンの使用証拠の収集でしょうか。やっていることが徹底しています。

ここまで徹底して、やるなら、ライセンスをしても良いよ言っているようです。

 

以前、某関西の家電メーカーの意匠課長が、家電限定とは思いますが、自社のみならず、各社のカタログを全部集めておられ、資料としてストックされていると聞いたことがあるのですが、その後、あれはどうなったのかなと思います。

人が変わっても、資料が継続して集められてこそ意味が出ます。

 

商標の更新出願制度があったときは、まだ、商標部門と使用証拠の関係は、近かったのですが、更新出願が無くなり、更新申請になり、使用証拠との関係が離れてしまっています。

 

最近、適正使用管理がおざなりになっている理由は、ここに一つの原因があると思っています。

制度が楽になり、いままで出来ていなかった営業との関係構築、ライセンスの精緻化、模倣品対策に注力できれば、まだ、良いのですが、制度が楽になり、それが、人員削減につながるだけでは意味がありません。

制度を楽にするのは、良く考えないといけないと思いました。