Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標管理(日本生産性本部)(その12)

資料Ⅱ 商標使用許諾契約

資料の2つ目は、契約書例です。Sunkistのボトリング事業に関するものと、CYANAという樹脂の成分ブランディングのタグ表示についての契約書です。

契約書は、機密性が高いという理解をしていましたが、雛形が完全オープンになっています。

 

面白いと思ったところだけ、ピックアップすると、

Sunkistレモネードに関する契約

サンキスト社は、農業法に基づいて設立された非営利団体とあります。

 

  • レモネード用の濃縮レモンジュースを、ライセンシーであるボトリング会社に、1ガロン4.6ドルで販売し、ライセンシーには、0.4ドルの広告費の負担があります(合計5ドル)
  • 工場の検査があります
  • 商標については、態様が決められ、ライセンシーの商標と結合(ダブルブランド)としないように要請されています
  • 広告は、ライセンシーも行います
  • ラベルなどは、事前にライセンサーに提出して、チェックを受ける必要があります
  • Licensed Sunkist Distributor, (Licensee) Licensed Sunkist Bottler という表示を容器にする必要があります
  • 前述の1ガロンあたり、0.4ドルの広告費に、ライセンサーが、1.2ドルの拠出をして、それをプールするとあり、パンフレット作成、販促品質検査マス宣伝にこの費用を拠出できるとします。ライセンサーの承認があれば、ライセンシーも使えるようです
  • 別表に品質基準があります

※ライセンス料はなく、濃縮レモンジュースの対価に含まれている構成です

 

”CYANA”PERMEL樹脂に関する契約

複数の契約、書簡、証書、書面に分かれています。

サンキストのものよりも、品質管理が細かく、厳しいことが特徴です。

  • ライセンサーの品質管理の条件に従って、織物加工を行う目的で、契約をします
  • ライセンサーからライセンシーに、樹脂を販売し、ライセンシーは織物が当該加工をしていることを示すレッテル、下げ札(タグ)、広告宣伝が可能で、さらに、ライセンシーの先の顧客にも使用を許可できるあります(※タグが介在するので、情報コントロールが可能ですが、一種のサブライセンスです)
  • 書簡で、品質検査は、ライセンサーの研究所で行うとあります。品質検査方法まで指定があります
  • 条件にかなうと、ライセンサーからライセンシーに、タグが渡されます
  • 品質維持のための契約・証書というものがあり、ライセンシーの先の顧客もラベル、タグ、広告宣伝で商標を使用できるとあります。ただし、タグ、ラベル、宣伝物はライセンサーからライセンシーの提供され、ライセンシーは顧客別に、織物の数量、用途、製品の概数、必要なタグやラベルの数を、通知するとあります(※現物給付でコントロールできています)
  • 品質検査を合格しないと、販売できないようです
  • タグの受領書の書式があります
  • 別途、品質管理の基準があります

(※こちもライセンス料の記載がありません。)

 

コメント

よく、サンキスト社やアメリカン・サイアナミッド・カンパニーが、ここまで出したなと思いますが、表に出しても良いほど、標準的なものだっとも言えます。

 

この2つとも、品質管理への言及があり、日本に説明する素材としては適切だったのだと思います。

サンキストのものは、コカ・コーラなどのボトリング事業を彷彿させます。

 

この本の別のところに、記載がありましたが、当時のアメリカでは、アメリカ国内での取引では、製品の対価の中に、ライセンス料見合いが入っていることも多かったようです。

一方、国外へのライセンスでは、ライセンス料と取る構成という記述がありました。

 

日本の契約実務の感覚では、ライセンス料を取るために、商標使用許諾契約をするのであり、ライセンス料を取らないなら契約不要(黙示の許諾)となりますが、アメリカでは第三者に品質コントロールをせずに商標をライセンスすると、商標権が無効になります(登録無効、コモンロー上の権利も放棄したとなるのでしょうか?)ので、他人に使用されるなら、品質管理に関する契約が必要となります。

 

ライセンスに品質管理を要求する法制にすると、ストック商標を中心に、日本で行われている、許諾被許諾の契約は、ほとんど権利が無効になります。これが、日本でアメリカ流の品質管理を条件にしなかった理由だと思います。

 

網野先生も、旧英国流のライセンスの登録の制度を薦めています(役所の許可制です。現時点では役所の許可という法制は無いと思います)が、アメリカ流には言及がありません。

まあ、ストック商標の貸し借りの関係は、本来はライセンスではないのだと思いますので、不使用取消審判で取消すか、譲渡するか、同意書を出すかで、十分なように思います。

あまり、日本の許諾被許諾の契約実務を重視すべきではありません。

 

CYANAの契約で、タグや現物給付によるコントロールが効いているのですが、サブライセンス権を認めているのは、驚きです。

 

本人だけではできないレベルに、露出を強化できるのが、ライセンスのメリットです。良くできているなと思います。