Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本企業の長寿の是非

89年 vs.15年(9年)

2018年11月18日の日経に、東京証券取引所に上場している企業は長寿であるが、時価総額が低く、日本企業は成長よりも、存続を目的としているという記事がありました。www.nikkei.com

  • 日本企業の「小粒化」
  • 1社あたりの時価総額が、2000年末比で、米国では2.6倍。日本は1.7倍。中国は3.2倍。成長力に差
  • 企業の新陳代謝が国際的にみて鈍い
  • 上場企業の「平均寿命」は、ニューヨーク証券取引所は15年、ロンドンは9年。日本の上場企業は89年と極端に長寿
  • 成長ではなく、存続を目的とする経営者が多い。倒産も国際的にみて少ない

  • M&Aで成長を狙うより、借金返済が確実になる安定経営が選ばれやすい

  • 日銀のETF購入により、さらに退場圧力が低下

  • 対策は、起業促進。売却、破綻処理などのハードルを下げる。経営者には成長へのインセンティブを。

というような内容です。面白いので、是非、新聞で読んでください。

 

コメント

89年対15年(9年)というのは、ショッキングな数字です。89年前いうと、1929年(昭和4年です)であり、戦前です。1940年体制よりも前の話です。相当古い会社が多いんだなと思います。

当時とは、やっている業態が違っている会社も多いとは思いますが、それでも海外と比較すると長寿が際立っています。

 

金剛組ではないですが、これまでのマスコミの論調は、日本企業は長寿であり、長寿の秘密を探るとか、長寿の良い面にスポットライトを当ててきました。

しかし、この記事は、反対の立場で、長寿が成長を阻害するという点にスポットを当てています。革命的な記事だと思います。

 

創業●●周年とか、お祝いする会社が多いですが、それに何の意味があるのか?企業は成長してこそ意味があるのではないか?と問いかけています。

 

卑近な例になりますが、日本の商標法なども、スタートアップ企業よりも既存の大企業が有利なように設計されています。

既存の大企業は、多くの商標権を持っており、それは使用しなくても有効であるとされています。もちろん、不使用取消審判制度はあり、個別に取り消されることはありますが、その数は、それほど多くはありません。

それよりも、既存の企業の保有するストック商標は、スタートアップ企業の競争の自由を害しています。

 

商標の使用は、権利の取得時、更新などの権利保全時、権利行使時の3つの段階で、チェックすることが可能であり、20年ほど前までは、まだ、更新時に使用証拠の提出義務があったのですが、今は、すべてが不使用取消審判でチェックすることになってしまっています。

これでは、多少資金に余裕のある既存の大企業で、権利を沢山もっているところが有利になり、スタートアップ企業に不利になります。

日本の失われた20年と、商標の更新時に使用証拠の提出が不要になった20年が、ほぼ一致するのも、偶然ではないと考えています。

 

商標においても、新陳代謝を活性化させ、世界標準にもっていくために、権利保全時の使用宣誓や、権利行使時に使用を前提とする法制にすべきと思いますが、権利保存が楽であることに慣れてしまった既存の権利者(使用していなければ、空権なのですが)が、反対しそうです。

 

経産省が経済政策として、使用強化策を打ち出すとすると、既存の権利者の意見だけではなく、スタートアップ企業の意見を聞くようにしないといけないように思います。

 

1996年に防護標章を廃止が議論されたとき、ダイリューションを認めない、あるいは商標の類似に縛られる、今の法制では防護標章の廃止は時期尚早ということで、国際的には絶滅危惧種の防護標章が残ってしまいました。(裁判、異議ベースの、中国の馳名商標の方が、ずっと先進的です。)

防護を廃止していも著名商標の保護が問題ない、「使用をベースとした法制」を作ることが、スタートアップの支援と著名商標オーナーの保護の双方の鍵となると思います。

 

歴史に胡座をかいた企業は退場することになります。