Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

グレーゾーン解消制度

商標登録出願支援ソフトウェアの有償提供

2018年10月29日の日経のリーガルの窓に、経済産業省の「グレーゾーン解消制度」で、商標登録出願を支援するソフトウェアの有償提供は、弁理士法75条に違反しないと判断がされたという記事がありました。

www.nikkei.com

  • グレーゾーン解消制度とは、自社のサービスへの規制適用の有無を事業者が所轄官庁に確認できる制度。産業競争力強化法で導入
  • cotobox(コトボックス)は、一般の利用者が商標登録したい文言が登録可能か調べたり、出願書類の作成を支援するソフトウェアを有償提供
  • 弁理士法75条の、弁理士以外のものが他人の求めに応じて報酬を得て、出願書類などを作成することはできないなどとの定めに違反するか
  • 経産省は、「利用者が自己の判断に基づいて自ら商標登録出願書類等を作成することを支援するソフトウェアを提供するものであり、書類作成をするものではないことから、当該事業は、弁理士法第75条に違反しない」とした
  • 士業の独占に関するものは、他に2例の判断
  • 法律業務はITの活用の余地が大きい

とあります。

 

コメント

経産省の回答は、以下にあります。

グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました (METI/経済産業省)

詳細は、次のPDFです。

http://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181009009/20181009009-1.pdf

確認を求めた事業内容は、下記です。

本件事業は、利用者が自己の判断に基づいて自ら商標登録出願書類等を作成することを支援するソフトウェアを有料で提供するものである。当該ソフトウェアの利用手順は、以下のとおり。
①事業者は、利用者にソフトウェアを提供する。事業者は、ソフトウェア利用料を徴収する。
利用者は、事業者と利用契約を締結する。(順不同)
②利用者は、利用者の氏名、住所等の情報に加え、商標及び商標を使用する商品等の情報をソフトウェアに入力し、商標登録出願に係るデータを作成する。利用者は、当該データを編集することが可能。

そして、これが、

本件事業計画の概要等の記載からすれば、利用者が自己の判断に基づいて自ら商標登録出願書類等を作成することを支援するソフトウェアを提供するものであり、弁理士法第75条に規定する書類の作成をするものではないことから、当該事業は、弁理士法第75条に違反しない。

と回答されています。

 

出願書類の作成支援ソフトの有償提供ですので、これが非弁行為になるとは考えにくいと思います。

 

違法と判断されないように、上手い聞き方をしているなと思います。(実体は、こんな短い質問では、表現できないように思います)

経産省のこの回答は、申請する企業の実態をチェックして、聞き取り調査などもして、判断しているのでしょうか?書面だけでの判断では、実態を反映した回答ができないような気がします。

 

回答には、更に、次の注意書きもあります。

なお、上記回答は、今般照会のあった事業についてのみ判断したものであり、他の事業等における判断を示すものではない。
また、本制度における回答は、あくまで該当法令における取り扱いについてのみ判断したものであり、他の法令等における判断を示すものではない。

新聞記事にある、同社の売りである「一般の利用者が商標登録したい文言が登録可能か調べたり」が抜けています。

 

いわゆる商標調査といわれるものは、特許調査と異なり、商標の使用の可否を判断するので、簡易鑑定といっても良いものです。

そのため、知財関係の企業が商標調査業務を提供する場合、非弁行為との指摘を避けるため、関係ありそうな商標公報をリストアップするだけに留めていたものです。

 

経産省に、実体に即して、誰でも実施できる商標調査なのか、非弁行為にあたる商標の鑑定なのかまで判断して欲しいところです。

 

単なる先行商標の列挙ではなく、ITが行う、〇✖△や、パーセンテージを出す商標調査が、非弁行為にあたるか明確にする必要がありそうです。

 

もし、コトボックスの業務が非弁行為にならず、弁理士以外もできるなら、今の商標の仕組みを根本から変えるきっかけになるような感じがします。

異議をベースとした欧州型か、使用実態をベースとした米国型かは別ですが、ITなど機械でできるような商標制度とは決別すべきとなるのではないでしょうか?

 

現在の日本の商標制度は、商品や役務の類否を軽視し、マークの類否も使用実態とは違う、少し特殊な法律・運用になっていますので、よりグローバルスタンダードに近い、法律・運用に変革するチャンスにもなります。

 

どちらに振れるか、分かりませんが、コトボックスには、商標調査の論点も果敢に確認してみて欲しいと思います。(実体に沿ってですが)