Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

中国商標出願の実務分析

HFGの李 蕾弁護士、蘇斌商標代理人の論文

2018年12月号のパテントに中国で、マドプロ出願するべきか、直接出願すべきかを中心に、日本の出願人向けに書かれた論文がありました。

HFG LAW & INTELLECTUAL PROPERTYの李 蕾弁護士、蘇 斌商標代理人の論文です。

 

さて、内容ですが、

  • 2017年の中国の商標出願件数は、574.8万件(前年比55.72%増)、16年連続で世界一
  • 直接出願が、553.9万件(96.36%)
  • 中国を指定国とする国際登録は、6.7万件
  • 日本人の中国出願は、外国人ではアメリカに次いで多く、20,387件
  • 内、直接出願が16,846件、マドプロ出願が3,541件
  • 中国で多い出願分類は、35類(ビジネスサービス)、25類(アパレル)、9類(計器・装置)、30類(食品)、43類(飲食、宿泊)
  • 外国人が中国に出すのは、9類、35類、3類(化粧品及び洗濯用品)、25類、5類(医薬品)
  • アメリカ、日本、韓国、イギリスからは、直接出願が多い
  • 欧州のドイツ、フランス、スイス、イタリアからは、マドプロが多い

以下、直接とマドプロの利害得失ですが、直接:マドプロで

  • 審査期間ー9ヶ月:18ヶ月
  • 指定商品の記載ー中国の標準基準のみ:国際基準
  • 権利行使ー商標登録証を示せば足る:国際的な商標登録証では不足であり中国で「商標登録証明書」を取得する必要がある(ただし、指定商品が英語なので、裁判では問題ないが、行政摘発では商標登録証明書では不十分な時がある?)
  • 審判請求:15日:30日(計算はややこしい)

論文の結論では、

  • 中国直接出願のメリット:審査期間が短い、国内出願は不要、セントラルアタックがない、商標登録証がある
  • マドプロのメリット:手続きが便利、費用が安い、権利化後の管理が容易

出願戦略としては、

  • 中国直接出願を奨めるのは、中国での実際の商業的使用がある場合(デパート、電子商取引プラットフォームへの出店)、権利行使の可能性がある場合など
  • マドプロを奨めるのは、出願国が多い場合、出願目的が実際の商業的使用ではなく、幅広い範囲での保護を受けるため

とあります。

客観的な立場で、読みやすまとめられているので、正確なところは、是非、論文をご確認ください。

 

コメント

HFG事務所ですが、昨年、弁理士会の貿易円滑化対策委員会の主催の研修会で、来日され、事務所近くのニッショーホールで話を聞いた事務所です。李蕾弁護士の名前は覚えていました。

講演会の内容もありますが、当日、HFGが作成した、中国の1年間の判例や異議事件をまとめた、写真を多用した冊子をもらったので、記憶が鮮明にあります。

買えば、1000円~2000円しそうな冊子です。日本に積極的に売り込みをかけてきているのだと思いました。

この論文のそのための物だと思いますが、内容は、丁寧だと思いました。

 

マドプロのデメリットで、権利行使時に障害があるというのは、20年前に、マドプロが始まった当初は良く云われていたのですが、今でも、言われていることは驚きです。

その理由が、権利行使時に「商標登録証明書」を個別にもらう必要があるのは、仕方ないとしても、その指定商品の記載が、英語なので、地方の行政官は、読めない、あるいは、読めるけれども、地方保護主義の影響で読めないと主張する、ということのようですが、インターネットで翻訳のハードルが下がった時代に、それは言えないのではないかと思います。

 

先日、アフリカの代理人にあったときに、アフリカではマドプロを奨めていない国があると言っており、昔の中国のようなだなと思ったのですが、今の中国でも、この説明がされるときがあるというのは、驚きました。

 

マドプロで、何もないときは、中国の代理人に仕事が入りませんので、どこの国の代理人もマドプロには積極的ではありませんが、企業のことを考え、パリ条約のもともとの理想を考えると、マドプロ頑張れと云いたくなります。(木棚先生の国際工業所有権法の研究に詳しく出ています) 

国際工業所有権法の研究

国際工業所有権法の研究

 

 

欧州のドイツ、フランス、イタリアは、中国でもマドプロを活用しています。国際登録の伝統の違いがこのあたりに出ているようです。

 

面白いは、直接出願が良いという理由に、従来の行政摘発の便に加えて、「中国での実際の商業的使用がある場合(デパート、電子商取引プラットフォームへの出店)」が出てきている点です。

確かに、ECモールでは、商標登録証を呈示することが多いようですが、商標登録証明書でも十分なような気がします。インターネット企業こそ、英語が使えるように思いました。