Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商品形態模倣(英国)

詐称通用(passing off)

続いて、パテント誌の2019年1月号で、商品形態模倣の不競法での保護のイギリスの論文を読んでいます。

良く聞く、コモンロー上の保護のpassing offです。

 

論文は非常に詳しいですが、簡単にいうと、

  • 不実表示で、需要者の欺瞞(のおそれ)がある場合に、業務上の信用(goodwill)に損害がある場合に、詐称通用(passing off)が認められる
  • 商品の外観は、表装(get-up)という
  • このpassing offが、パリ条約10条の2の不正競争からの保護
  • イギリスでも模倣自体は不正競争ではない。他人の顧客を取り上げるのも不法行為ではない。競争にすぎない。しかし、欺瞞がある場合は、passing offとなる
  • 不法行為の定義は、主要なものが2つあるが、Jif lemon事件の定義が有力
  • 業務上の信用、不実表示、損害が、3要件
  • 企業グループの混同、逆混同(後発が有名になる事例:GleeのコメディクラブとgleeのTV番組ではTV番組が後発)もあり、passing offになりうる
  • 業務上の信用とは、「客を呼び込む魅力」。単なる名声ではない。識別力が必要であり、機能的であってはならない。商品形態については、識別力の証明が難しいので、passing offが認められることはほとんどない
  • 例外は、Jif lemon(30年以上にわたり、レモンの色と形態に似せたプラスチック製ボトルの包装のレモン果汁ブランドとして唯一の存在だった)
  • 他に、PENGUINのビスケットとPUFFINのチョコレートビスケット(こらは商標もある)
  • はるかに低い価格は、一種の事実上の免責として機能する可能性があるが、反対にその行為が原告の名声/立場に損害を与えたと主張される可能性があり、逆効果になることがある
  • 不実表示は、欺瞞をともなう。欺瞞と混同は、同じかどうか、議論が分かれている
  • 需要者調査は、滅多に行われない。理由は、不実表示の問題を判断するのが裁判官であり、また、判決で調査による証拠の証明力が疑問視されたものがあり、調査は時間と費用がかかり、質問が誘導的なことがある点
  • 損害賠償がメインで、差止は衡平法上のもの。仮処分による差止はほとんど認められない。本訴で損害賠償があったときは、ほぼ、差止が認められる

コメント

読んだ素直な感想としては、商品形態を、コモンローのpassing offで保護するのは、証拠の提出が大変であり、また、アンケート調査も効かず(アメリカと全く違うようです)、諦めた方が良いのかなぁという感想です。

 

この論文、商品形態についてのものですが、それ以前に、日本人には分かりにくい、passing offを何とか分かるように解説してくれているなと思いました。

 

passing off、goodwill、get-up、misrepresantation(不実表示)、dception(欺瞞)と難しい法律英語が続きますが、「詐称通用」という日本語も、相当難しい日本語です。

 

アンケートが大好きなアメリカと、裁判官の判断を重視するイギリスの差があるのは面白いと思ったと、

 

逆混同について、アメリカの論文は答えがなかったのに、イギリスでは、passing offになるとあるのが、面白い点です。

逆混同は、先使用主義とは違う考え方です。イギリスは、(先)使用主義といいながら、需要者を守っているんだなぁと思います。先使用も、絶対的ではないんだと思いました(アメリカは、先使用という理念に忠実で、反対のことを言いそうです)

 

混同と欺瞞は違うというのも、面白い点でした。不正競争から商標法が枝分かれしてきたとして、今は何でも混同で見ますが、もう一つ、世界には名声という流れがあります。名声を使うときは、混同ではなく、欺瞞なのかもしれません。

日本のように類似ばかりいうのは、ちょっと変ですが、混同でさえ一つの類型にすぎないと考えると、視野が広がります。

 

安い価格ものフランクミュラーのケース)は、アメリカとは違って不実表示にならない方向であるが、別の判断として名声に損害を与えたと主張される、といった点は、非常に面白いなと思います。

結局、価格の安さのファクターは、あまり、不正競争において、重視すべきではないファクターではないかと思いました。

 

イギリスのpassing offでも、日本の不競法でも、証拠の提出が大切になり、これは大変そうです。訴訟1件と出願100件、どちらを選択しますか?という感じです。

楽なのは出願ですし、日本企業は間違いなく出願を選択しますが、国内出願ならともかく、外国出願まで考えると、経済的にはどちらが得なのかなぁと思います。

 

そもそも、passing offでクレームできるほどの人気商品があれば、事業としては成功なのでしょうが。

キッコーマンのしょうゆびん、ヤクルトの容器、このレベルは早々ありません。