Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

メキシコ商標法改正

使用宣誓書の提出

 

現在、Brexitが話題で、EUTMや英国商標法が話題になっています。また、ミャンマーの商標法がいつ発行されるのかも、非常に興味があるところです。

しかし、最近の各国の商標法改正で、一番重要だなと思ったのは、2018年のメキシコの法改正です。

 

特許庁のWebサイトに、メキシコ産業財産権庁がWIPOの事務局に提出した、メキシコ商標法の改正情報があります。

メキシコ産業財産法の改正(参考訳) | 経済産業省 特許庁

https://www.wipo.int/edocs/madrdocs/en/2018/madrid_2018_13.pdf

2018年8月10日からの施行です。

  • 同意書が認められるようになったり、
  • 悪意の商標が拒絶・無効になったり、
  • 音や香りといった新しい商標が認められたりしていますが、

何と言っても、

1)登録後3年経過時、および、2)更新時に、

使用宣誓書を提出するという改正がポイントです。

この理由は、商標権には使用義務があるということと、不使用の登録商標が商標採択の自由を害し商取引の健全な発展に悪影響を及ぼすためというものです。

2018 Mexico IP Law Amendments: Declaration Of Use For Mexican Trademarks - Intellectual Property - Mexico

 

商標法条約(Trademark Law Treaty, TLT)の13条(4)(iii)で、更新の申請時に、宣言書や使用証拠の要求が禁止されました。この条約、加盟国は、現在54ヵ国で少ないのですが、影響の強い条約でした。外国での商標権の更新期間が、7年やら、14年やら、20年やら、バラバラだったのが、ほぼ10年に統一されたのは、この条約のおかげだと思います(13条(7))。

https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/tlt/shouhyou94.pdf

 

だた、当初より、アメリカでは、1)登録時や、2)登録後5-6年目の使用宣誓時、3)更新時、に使用宣誓書+使用証拠の提出が必要であり、特に、更新時について、商標法条約と整合性がないという議論があったのですが、アメリカは、更新の申請と、使用宣誓は別の手続きという考え方で、両者を併存させてきました。

そして結局、更新時に使用宣誓+使用証拠が必要になっています。

 

アメリカは、3つのタイミングで、使用証拠の提出が必要ですが、今回のメキシコは、1)登録後3年経過時と、2)の更新時に、使用宣誓をもとめています。

これは、使用宣誓書だけであり、使用証拠は不要とあります。

2018 Mexico IP Law Amendments: Declaration Of Use For Mexican Trademarks - Intellectual Property - Mexico

しかし、この宣誓は、「Oath」ですので、レベルの高い宣誓です。

 

アメリカのような先使用主義国では、原理上、使用証拠の提出を要求するのは、理解できますが、メキシコのような大陸法系の先願主義国でも、同じように使用証拠を提出することに舵を切ったというのは、大きな話だと思います。

アメリカの制度に近いので、アメリカ人からは、受け入れられる発想です。

 

最近は、日本の商標法は、同意書やその他で、中国や台湾や韓国に大きく後れを取っているなと思っていますが、同じような法制度のメキシコにも負けたなと思いました。

 

宣誓書や同意書は、印鑑でも良いですが、やはり署名が似合います。

そして、署名者は責任を取る必要があります。当然、虚偽の署名は許されません。

記名捺印でも、同じかもしれませんが、社長印は案外簡単に押せますが、社長の署名をもらうのは大変です。

一方、日本にも、クレジットカードが普及し、署名の機会が増加しています。

次に、日本で使用宣誓を入れるときは、是非、記名捺印ではなく、署名でお願いしたいところです。

 

また、メキシコは、この使用宣誓は、代理人経由で行う必要があるとありました。代理人としても、マドプロで仕事が減っているでしょうから、それを補うことができるのだと思います。

 

このメキシコ式のように権利維持に不使用チェックを入れるか、欧州のように、権利行使時や異議申立時に、使用証拠の提出を組み込むか、どちらかです。(中国では、損害賠償請求時に使用証拠が必要です。中国商標法31条)

双方やっても、まったく問題ありません。

しかし、現在の日本のように、不使用取消審判一本は、あぶない制度設計だと思います。大阪の元弁理士の大量出願は、この商標権の使用義務の考えを無視しすぎた副作用です。

 

企業も、20年前とは違って、コストが厳しいので、無駄な権利は保有しないのですが、不使用の優良権利を保有しつづけ、それがスタートアップの足を引っ張っているのではないかと思っています。