Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

建物の意匠

本当に広げるんだ

最近、意匠法の改正の話が、新聞に良く出ています。

2019年2月15日に、特許庁のWebサイトに、産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会の、意匠制度の見直しに関する報告書が出ています。

産業競争力の強化に資する意匠制度の見直しについて-産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会- | 経済産業省 特許庁

 

今回の意匠法は、多くのテーマがあります。

1.画像デザインの保護

2.空間デザインの保護

3.関連意匠制度の拡充

(1)関連意匠の出願可能期間の延長

(2)関連意匠にのみ類似する意匠の登録

4.意匠権の存続期間の延長

5.複数意匠一括出願の導入

6.物品区分の扱いの見直し

7.その他

(1)創作非容易性の水準の引上げ

(2)組物の部分意匠の導入

(3)間接侵害規定の拡充

(4)手続救済規定の拡充

 

少しニッチですが、面白いと思っているのが、空間デザインの延長で、建築物を意匠の保護対象にするとしている点です。

 

従来から、建築物は、思想感情の表現であって、美術的なものは著作権法の保護対象になっていました。建築の著作物です。有名な建築家が作ったような、形状に相当な特徴がある建物です。東京タワー、東京スカイツリー、有名なホテル、中銀カプセルタワービルのような建築です。

普通一般の住宅やビルのような建物は、著作権の保護を受けないとされていました。

建築の著作物は、特殊な著作物で、認められたもの遅いですし、また、建て増しや修繕等もあるので、著作者人格権としての同一性保持権もないようです(著作権法20条)。

 

さて、今回のこの意匠の報告書は、空間デザインを保護するために、「物品」「物品性」を広げて、「不動産」まで保護対象にするようですが、意匠の場合、美術的なものという限定がないので、従来、著作権で保護されなかったような、一般のビルや住宅まで、広く意匠で保護することになります。

 

建築業界でもニュースになっているようで、kensetsunews.comにも記事がありました。

特許庁 意匠法改正案/2019年春公布、2020年春施行目指す | 建設通信新聞Digital

  • 著作権法で保護するのは一般の店舗やオフィスビルではない「建築芸術」
  • 不正競争防止法で保護される可能性もあるものの、周知性が必要
  • 意匠法では、企業が建築物の外観などでブランドイメージを構築し始める初期段階の意匠を保護するのが狙い
  • ブランドイメージの構築段階で意匠を独占的に使用できれば、早期に周知できる。周知になれば、不正競争防止法の保護対象になるため、「初期から周知までの橋渡しになれば」(審査第一部意匠課意匠制度企画室)
  • 特許庁は、過去のデザインの審査資料や一般販売されている雑誌、カタログ、インターネットなどを収集。資料を元に新規性などを判断
  • 建築確認申請段階などで意匠制度への登録の有無は審査されない
  • 「外観・内装のデザイン決定前に特許庁のホームページなどで他者の権利に触れていないかを確認するようお勧めする」(同)

とあります。

 

周知になれば不競法でとあり、それまでのインキュベーション機能を意匠法が担うと説明しています。

なによりも、審査資料も集めており、審査できるし、建築物のデザインの調査をするという前提になっているのも驚きです。

 

おそらく、建築業界の人は、このことを理解していません。意匠権の多い業界の人は、意匠調査、意匠出願、意匠公報のチェック(それも外国を含めて、)また、職務意匠の使用報償もあるというように、多くの労力をかけて、何とか意匠の運営しているのですが、これを建築業界が実施していくのは、覚悟が必要です。

 

まだ、商標法や不正競争防止法のような競争法で保護するトレードドレスを、なぜ、創作保護法である意匠で保護するのかという点が、十分理解できていませんが、さらに、建築物まで保護するのは、現時点では進め過ぎなような感じがします。

 

建築物は価格も高いですし、特許業界にとっては、未開の大きな分野だと思いますが、建築業界の人達は、今回の意匠法改正をどう思っているのか?と思います。

 

ブルーの部分ですが、特許庁のロジックは、あまりうまい説明ではありません。東京スカイツリーなど、保護に値する建築物は、建築前から、マスコミが取り上げてくれますので完成前に周知になります。

 

おそらくプレハブ住宅メーカーは、対応出来ると思いますが、一品制作的な空間デザインは排除した方が、良いと思います。

立体商標のように使用による顕著性の立証を求めることは出来ないので、やるなら創作非容易性の引き上げが必要です。でないと、当たり前の建築物が、完成後に解体する必要がある?など、ややこしくなりそうです。(おそらく、建築許可の段階しか止められません。)

 

また、海外では、建築物は意匠で保護されているとありますが、どんな事例があるのかと思いました(この点は、良く知りません)。

 

大きなテーマだと思うのですが、十分に検討されていないような気がします。