Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標使用許諾は有償、同意書は無償

同じようなものなのに

お客さんと話をしていて、日本の商標の使用許諾は有償なのに、なぜ同意書は無償なのかという話になりました。

 

ここでいう商標の使用許諾は、使用しており、価値が蓄積している商標を、第三者にライセンスする場合の商標使用許諾ではありません。まったく、使っていない商標のライセンスです。

 

●日本では、不使用の商標のライセンスが、有償(50万円~100万円程度の金額が多い)で行われている事例が沢山あります。

一方、海外の商標局で、審査で引例に引かれた場合に、権利者から登録と使用の同意書を取り付けて、商標局に提出することで、登録を取得できる同意書というものが一般的ですが、こちらは無償です。

 

商標が使えるようになるという効果では同じものである、日本の不使用商標の使用許諾と、海外の同意書が、対価の面では全く違います。

海外の同意書の方が、自分の権利にできるわけで、こちらの方が価値が高いように思いますが、価値のある同意書が無償というのが、社内で説明がつかないということです。

 

●日本で、新規に商標を使いたい場合、商標調査をしますが、商標調査をして抵触する商標が発見された場合、通常、次の手段となります。

  1. 商標権者に譲渡をお願いする
  2. 商標権者に使用許諾(ライセンス)をお願いする
  3. 不使用取消審判を請求して取消す

譲渡に応じてくれる権利者は、なかなかいません。しかし、使用許諾に応じてくれる権利者は、沢山います。それは、その商標が不使用の場合です。

不使用であれば、本来、商標法が前提にしているのは、不使用取消審判に行ってもらい、商標登録を取消し、そして、使っていない人から使いたい人へ商標権者を変えてもらうことですが、時間とコストがかかるので、譲渡交渉が代替手段になっています。

 

昭和34年法で使用許諾ができる前は、譲渡しかなかったのが、使用許諾が認められているので、権利者としては、不使用なら取り消されるが、使用許諾なら、(形式的な)権利は自社に残るし、多少のライセンス料も取れる。譲渡よりも、使用許諾の方が、決裁も通りやすい。というので、この使用許諾に流れてしまいました。

 

広告宣伝の人は、使用許諾のことを「権利を買う」と譲渡みたいな表現をしますが、もともと、譲渡のイメージがあるのはこのためです。

 

使用許諾ですので、対価が発生します。使用商標ならブランド価値があるので、ランニングで、3%とかなるところですが、不使用なので、定額の50万円で、一括の10年契約などが主流となりました。

 

●この50万円などの根拠ですが、

  • 不使用取消をすると、特許事務所を使うとして、費用がかかる。
  • 自分で出願した場合にも、特許事務所を使うとして、権利取得に費用がかかる。
  • 不使用取消なら、例えば、権利者が答弁しない場合でも、半年かかるとして、その分の期間の利益。
  • 契約書作成の事務手数料の数万円。

この合算です。一番価値があるのは、期間の利益です。自分で商標調査して、商標出願しても、特許庁の審査をパスして、権利になるのに、半年以上はかかります。それが、この不使用商標の許諾被許諾の関係では、今日権利者にOKをもらい契約をすれば、即日から、権利をベースにした使用ができます。単に使えれば良いというネーミングレベルでは、これほど楽なことはありません。

 

そのため、常日頃、権利の貸し借りのある大手企業同士が、持ちつ持たれつの関係で、不使用商標の使用許諾を活用しています。

ただ、暗黙の了解事項があり、使用している商標には、使用許諾はお断りしますとなります。

 

●一方、海外で一般的な同意書は、一般に無償です。

これは、商標局が類似すると引例に挙げたが、実際の商品や商標からして、問題ないと判断するので、商標権を取りたい人の権利化に協力するというものです。

当然、不使用商標の場合は、不使用取消で消されるよりは、同意書を与えようというケースもあります。また、使用しているケースでも、これは問題ないなと思えば、同意書を与えたりします。

 

同意書では、権利も取れて、無償です。

無償なのは、基本的には、権利には入っていないと判断しているためです。

 

●制度としては、同意書の方が上です。日本の不使用商標の許諾被許諾が残っているようでは、ネーミングは何時まで経ってもネーミングのままです。ネーミングがブランドに出世することもありません。日本の許諾被許諾の運用は、日本の商標の成長を妨げていると思います。

 

今の運用では、使用許諾を受けて、使用して、数億円の価値が生じたとしても、10年後には、また50万円で契約更改です。

ライセンシーの使用でも、その商標価値はライセンサーのものと契約書に書いておくことは可能ですが、50万円を一挙に、3%のランニングに変えることも、日本では現実的ではありません。

 

アメリカのライセンスが世界の商標使用許諾のスタンダードですが、そこでは、Quality Controlが求めらています。こちらは、狭義の品質だけではなく、ブランド表現も含めたコントロールです。そして、対価は有償です。

日本の許諾被許諾は、譲渡の亜流の、ネーミングの貸し借りであり、ライセンスではないということを認識する必要があります。

 

●日本でも、企業からは、同意書制度を導入して欲しいという声が多く、それを特許庁が抑えている構図ですが、同意書制度を導入すると、現行法で非常に多く行わている、許諾被許諾の実務をひっくり返すことになります。既存契約も見直しになると思います。

制度としては、同意書が圧倒的に良いですが、この作業量は、案外インパクトが大きいなと思います。