Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

無償の販促品(日中台)

日本では商標権侵害にならないと言われているが

企業の商標やブランドマネジメントの実務で良くある質問に、商品の販促のために頒布する、無償の販促品に、自社の商標を付けることに関する質問があります。

 

自社の商標権があるのは、通常、自分の商品分野だけですので、販促品の分野には、権利がありません。

 

例えば、自社の自動車を購入してもらったお客様に、腕時計に自動車のブランドを刻印して(名入れと言われることもあります)、プレゼントするようなときです。

日本では、一般的には、「無償の物品は『商品』ではないから、どんな商標を使っても、商標権侵害にならない」とか、「(その腕時計は)新聞、雑誌、テレビ、Web広告などの広告媒体でしかない」とかの理由から、自社の商標を販促品への使用を可能と判断したりします。

 

楽器のBOSS事件などがあるようです。楽器に「BOSS」の権利を有する者が、無償の販促品としてTシャツに自分の商標「BOSS」を表示しても、侵害にならないという判断です。

商標登録のページへようこそ

 

以前の会社で、アメリカ人の弁護士と議論になったときも、「with compliments」(謹呈)と記載とた方が更に良い、といわれましたが、アメリカでも同じような考えなんだなと思っていました。

 

さて、問題は中国です。先日、中国の案件で、中国では無償のプレゼントとしての販促品も、商標権侵害になるという話を聞き、正直、驚きました。今まで信じてきたことが、180度方向転換を求めらたしたような気分です。

中国では、この類の質問があったら、実務的には、商標権侵害になると答えるということです。これには、北京高級人民法院の公的解釈のようなものがあるとしていました。

関連しそうなものは、何かと調べてみて、おそらくこれかなと思ったのが、次の判例です。

 

JETROの2002年の中国の工業所有権侵害事例集にあった、

商標10.偽物の景品事件―「JING TANG」 です。

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1247165_po_h13_china.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

インスタントラーメン業者が、景品として白砂糖をプレゼントとして同梱。パッケージに、白砂糖をプレゼントと表示。しかし、この景品が偽物の白砂糖だったようです。

景品により、利益を得ているとして、白砂糖の会社が、差止と損害賠償をもとめたようで、インスタントラーメン業者は敗訴したようです。インスタントラーメン業者が真正品の白砂糖を使っていたら、事件にもならなかったかもしれません。

他に関連判例があるかもしれませんが、まあ、どちらにせよ、中国の無償の販促品の実務は、日本の実務とは違うようです。

 

ちなみに、検索をしていると、台湾で、侵害問題ではなく、不使用取消系の話ですが、有名ブランドのVALENTINOの各種商品を一定額購入した消費者に、VALENTINOの「香水」を景品として提供する行為について、「香水類における商標使用を構成する」と判例があるようです。 

https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/11253/

景品における使用も商標使用と認められる可能性がある - Lexology

 

不使用取消については、日本でも似た判断が出ると思います。タケダ折り紙事件などです。確かに、折角、取得した商標登録を取消すのは、酷な気もします。ここは議論があると思います。

 

また、フリーペーパーが商品であるとした、東京メトロ事件などがあるようです。下記に詳しく紹介されています。

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/200902/jpaapatent200902_044-054.pdf

 

この論文にもありますが、サントリーの「BOSS」のケースで、5万着の、パイプをくわえた男の絵やSUNTORYやCOFFEEの文字も入ったBOSSのロゴ入りジャンパーの無償抽選配布をしたのに対して、ヒューゴ ボス社から差止訴訟が提起された件があります(商標権侵害にはなならず、混同防止の指し紙を入れることで和解したようです)。

これはこれで、ヒューゴボスが差止したくなるのも分かります。

 

この問題、色々ありますね。