Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

パテントの商標特集

工藤先生の判例解説(1)

2019年4月号のパテントが送られてきました。商標特集です。その巻頭の論考が、工藤莞司先生の「商標法の判例と実務上の要点等ー登録要件、不登録事由、侵害訴訟及び審判に係る判例についてー」というものです。

知財の世界にもどって、2年が経過しましたが、仕事は外国商標(内外)だけなので、国内の話は、新聞やWeb情報、パテントや知財管理などの雑誌で見る範囲の理解でしかありません。

 

国内の実務をやっていたら、もう少し、国内の判決も、真剣に読まないといけないのですが、そこまで至っていません。

工藤先生のこの論考は、9つの、商標の最高裁判例を取り上げて解説されています。いい勉強になるかと思って、読んでいます。

 

先生は、「長い間実務に携わった者として、経験の上に感謝を込めて、私の最終章としたい」とお書きになっておられ、今、考えておられることをまとめらています。

これからも、ご活躍されるとは思うのですが、現時点の到達点であり、皆さんに理解して欲しいこと、ということなのでしょう。

 

一つ一つは短いのですが、簡潔にまとめておれるので、理解するのに、時間がかかります。

一日一つ理解するのが、精一杯です。

 

前置きが長くなりましたが、一つめは、「ワイキキ事件」です。

商標法3条1項3号の記述的標章は、独占適応性がなく、又、自他商品識別力がなく、商標としての機能を果たさないとした判例です。

一般的には、3条1項3号は、自他商品識別力を欠く場合の一つです。

独占適応性が出てきているのは、現在は識別性がないとは言えない言葉であるが、将来は記述的表示になるかもしれない蓋然性が高いものは、登録しても26条1項2,3号によって商標権の効力が及ばないものであるから、そのような商標は登録すべきでないという点から来ているそうです。

 

本判決は、独占使用を認めるのは、公益上適当でないとしているのですが、そもそも、3条1項各号は、公益的登録要件ではない(除斥期間の47条)のと、公益上の理由であれば、3条2項の適用が困難になると批判されています。

 

また、職権主義下の審査や審判では、特定人が独占使用していることを確認することもできないされています。

 

3条1項3号と26条の関係は、規定ぶりは似ていますが、位置づけや性格が異なり、前者は登録要件で職権審査の対象、後者は抗弁事由で被告側の立証に基づく事実によるなど、違うものとされています。

そして、実務者の識別性なしとの拒絶査定を受ければ、26条との関係から自由使用の確保ができると判断する商標管理を批判されています。

 

コメント

独占的適応性は、そう理解するのか、と思いました。確かに、3条2項を考えると、公益なのに独占が続けば特定人に権利付与されるというのは、おかしい気がします。

独占的適応性は、4条の中に新設するか、公序良俗で読むかです。

無くてよいのかというと困るケースも有るように思います。

 

3条1項3号と、26条は、違うというのも、理論上は良くわかります。ただ、審査への信頼がこのような理解を生んでいます。

 

先生の視点は、審査、審判が円滑に運営できるか?という点にありそうです。

確かに、審査、審判が円滑に運営されていると、予測可能性も上がり、法的安定性が確保されます。

 

昔は、しっかりした審査、審判があり、例外救済を裁判で行っていたのだと思いますが、その裁判で出た例外判断が、いつの間にか原則になり、審査、審判に影響が出ているのかもしれません。

 

実務家は、使えると思えば、なんでも主張します。

 

私見では、特許庁の審査官に何でも任せる制度は、他人任せであり、より権利者が、主体的に国の商標運営に関与する制度が望ましいと考えており、それがブランドを強くする道であり、産業政策としても、私権の保護としても、公的な利益の保護としても、適切ではないかと思っているので、工藤先生とは、立場は違いますが、現行法のものの見方としては、参考になります。