工藤先生の判例解説(4)
4つ目は、レール・デュタン事件です。
ニナリッチの「L'AIR DU TEMPS」。香水で商標登録あり。フランス語で「レールデュタン」と読む。
第三者が、装身具で「レールデュタン」を登録。
ニナリッチが無効審判を請求。
論点として、「L'AIR DU TEMPS」をフランス語読みするか、英語読みするかという点があったようですが、広義の混同が認定され、原判決と審決が取り消されています。
商標法4条1項15号について、同号の出所の混同には、広義の混同が含まれることと、混同の判断基準を示したものとあります。
判決は、フリーライド及びダイリューションの防止をも理由に挙げていますが、先生は、混同の虞とは直接的な関係はないとします(不正競争防止法2条1項2号参照)
※不競法2条1項2号を、根拠に挙げている点ですが、どういう意味なのかなと思いました。考えたのは、次です。
不競法の2条1項2号の著名表示の冒用行為は、それだけで不正競争を構成し、保護される。なにも混同の虞や実際の混同が生じたかは問題ではない。フリーライド及びダイリューションは、混同を超えたところにある問題(不当利得?、不法行為?)であり、混同の虞についての4条1項15号の射程範囲ではないという趣旨なのかと理解しました。
この不競法2条1項2号の条文をあげている点が、この判例の解説で、一番気になった点です。
ちなみに、青本には、19号はダイリューション防止やポリューション防止のためとあります。広義の混同=企業混同以外は、19号なのだと思いますが、ただ、「不正の目的」の判断が、問題になりそうで
す。
そして、本判決の基準では、「混同を生じるおそれの有無」は、
- 当該商標と他人の表示との類似性の程度
- 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
- 当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性の程度
- 取引者及び需要者の共通性その他取引の実情に照らし
- 指定商品等の取引者及び需要者におきて普通に払われる注意力を基準に
- 総合的に判断すべき
としています。
※アメリカのポラロイドファクターや、デュポンファクターなどに近いと思いました。アメリカ的に混同のおそれを中心に判断をしていく法律になれば、この判例は、日本の商標法の中心になるような判例のように思います。
ポラロイドファクターは、特許研究の2010年3月号の綾郁奈子さんの論文に載っています。こちらは、侵害時の混同のおそれの判断基準だそうです。
https://www.inpit.go.jp/content/100041953.pdf
①原告の商標の強さ(識別力や名声)
②両者の商標の類似度合(外観・称呼・観念の要素をもとに市場において使用された際、全体として近似店が相違点を凌駕するか)
③両者の商品・役務の近似度(スーパーにおける棚の配置なども考慮)
④原告の市場拡大の可能性
⑤実際の混同の証拠(間違い電話、メール、苦情、消費者調査など)
⑥被告の商標採択時の意図(商標採択・使用開始時の悪意は結論を左右、外国企業の場合は米国市場参入時の意図なども考慮)
⑦被告の商品・役務の質
⑧消費者の洗練度合(安価なものほど混同しやすく、高価なものほど慎重に選択される)
とありますが、その他の各種の事実も参酌するようです。
なお、デュポンファクターは、13ファクターもあるようです。
●実務的に役に立ちそうな視点ばかりです。
そして、判断基準の一つめの、類似性の程度とは、「近似」するという意味であると説明されています。
まとめとして、15号の意義を、10号や11号で典型な出所混同の虞のある商標出願は拒絶され、15号は引用商標が登録商標である場合は、周知・著名登録商標の保護の一環を担うもので、商標法上重要な規定であるとしておれらます。
※ここも、気になりました。10号は未登録の周知商標の保護、11号は登録商標の保護です。15号は、登録未登録は問わず、混同を生ずる虞があるものと思っていましたが、先生は、特に、周知・著名登録商標の保護の一翼を担うものとしています。
通常、著名商標の保護が問題になるケースは、商品分野を超えた混同の虞であり、基本はどこかの商品分類で、商標登録をしていると思いますので、その意味では登録商標の保護の拡張と云えると思います。
ただ、まったく商標登録のない著名商標は、15号では保護するに値しないという意味があるのでしょうか?
少し引っかかりました。未登録の著名商標の保護は、19号に譲ったとも思えません。
「混同のおそれ」ですが、漢字は「虞」ですよね。パソコンの変換では「恐れ」が先に出てくるので、ついつい「恐れ」になってしまいます。