Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

パテントの商標特集

工藤先生の判例解説(6)

次に解説していただいているのは、真正品の並行輸入のフレッドベリー事件です。

真正品の並行輸入については、

  1. 当該商標が適法に付されたものであること
  2. 外国における商標権者と我が国商標権者とが同一人又は同一視できる関係にあって、両商標が同一の出所を表示するものであること
  3. 両商標に係る商品の品質について実質的に差異がないことと評価される場合には、

商標権侵害としての実質的違法性を欠く、という判例です。

 

真正品の並行輸入は、商標権の侵害を否定する法理として国際的に発展してきたとあります。

上記の1.2.が出所表示機能、3.が品質保証機能に関するもので、商標の国際的消尽論ではなく、機能論を採用して実質的違法性がないとして、商標権侵害を否定したもので、PARKER判決(大江判決)を、最高裁が承認したものと紹介されています。

 

●実際の本件では、許諾先とは違う工場で生産されていた点で、出所表示機能を害するものであり、また、商標権者の品質管理が及ばないため、品質に実質的な差がある可能性があるとして、並行輸入が否定されています。<許諾契約制限条項違反>(※ということは、真正品の輸入が侵害になっていますので、PATKER判決とは逆の結論になっています。)

 

また、論点としては、数量制限条項違反の場合は、説が分かれるようですが、先生は、ライセンスの使用制限の問題で、真正品でも、許諾のない者による商標の使用が侵害になると考えるとしています。

 

他の論点は、品質保証機能について、ダンロップ侵害事件(大阪地裁)を紹介しています。客観的にいかなる品質であるかが問題ではなく、商標権者が直接的に又は間接的に品質管理を行うことによって、品質に差異のないことをいい、原告が品質管理を行っていない被告製品は、要件を充足しないとあるようです。

(参考:平成15年 (ワ) 11200号 商標権侵害差止等請求事件|商標判例データベース

 

コメント

特許では、国際消尽、域内消尽、国内消尽など、消尽で議論されていることが、商標では、機能論で議論されています。

特許は、BBS事件が有名です。(契約で制限を付けておけば並行輸入を止めらるかどうかなど、BBS事件も読み方は色々あるようです。)

 

機能論で、並行輸入が認められる要件を整理した判例とありますが、本判決の結論は、並行輸入を否定しています。難しいですね。

 

さて、出所表示機能や、品質保証機能についてですが、メインは、品質保証となります。

  • 工場を限定するのは、無制限に生産委託が可能とすると、Quality Controlができませんし、
  • 数量限定については、ロイヤルティを支払っていない商品かもしれませんし、過剰生産して横流しのケースもあります。

やはり、Quality Controlをどうするのかが、一番のポイントです。

 

アメリカ商標法(ランナム法)では、Quality Controlを欠く商標ライセンスは、Naked Lisenceとして、商標権が無効になるというペナルティがあるので、各社とも必死にQuality Contorlをします。

一方、日本や欧州では、使用許諾の条文が非常にルーズで、性善説といういうか、商標権の価値が下がるような品質しか提供しないライセンシーには、ライセンサーはライセンスしないだろうという想定のもと、何の制限もなく、ライセンスができます。

日本の法律は、一見、自由で良さそうに見えますが、無分別なライセンスが行われる下地になります。

 

ライセンス協会に入ったりして、ライセンスの大切さ、怖さ、契約のやり方などを、しっかりと勉強してライセンス契約や譲渡契約を作るようにしないといけない領域です。

 

さて、先生は、NEONERO侵害事件

https://www.yuasa-hara.co.jp/publication/3475/

乳児用首浮き輪並行輸入事件

http://www.tmi.gr.jp/wp-content/uploads/2018/05/TMI_vol35.pdf

などは、フラッドベリー事件の最高裁判決を受けて、安定的に運営されていると紹介されています。

これらの判例の結論としては、そもそもの品質管理(契約、運用)に照らして、それらは守られているとして、並行輸入が認めらているようです。

 

商標で並行輸入を止めるレベルの品質管理はどうあるべきかというのは、企業にとっては、非常に大きな論点だと思います。

それをまとめて、品質部門と共有するところまでやっている企業は少ないと思いますが、どうでしょうか。