Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

Appleの異議の話

APFEL ROUTEのリンゴロゴ

2019年5月4日のengadget日本版に、アップルが、ドイツの自動車道路のリンゴ型ロゴに、異議申立てをしているという記事がありました。

japanese.engadget.com

この道路は、菜園や果樹園の木々の側を通る自転車用道路で、リンゴの道(Apfelroute)と名付けられたそうです。

今回はロゴ(商標)は、既にドイツ特許商標庁(GPTO)によって、承認されたようですが、GPTOに異議申立をし、また、観光協会にロゴの使用の中止を求めているとあります。

更に、記事には、European Regional Development Fund(ヨーロッパ地域開発基金)に異議を申立てているとあります。

 

観光協会は、自転車道のみでロゴを使用することで、アップルと和解を試みているとあります。

 

アップルは、リンゴロゴについて、ドイツで取り下げを求める例は、今回が初めてではなく、2011年には家族経営のカフェの商標登録の取消を求めて裁判を起こしたとあります(2013年にアップルが負けたようです)。

 

記事は、今回もアップルは負ける可能性が高いが、アップルに似たロゴを使うと訴訟の負担を強いられるという意味での、抑止効果を狙っているのではないかとしています。

 

コメント

アップルは、ここまで異議をするのかというのが感想です。

engadgetで、確認いただきたのですが、このロゴ、どこが似ているのだろうかと思います。こんなリンゴの図形は、どこにでもありそうです。

また、アップルはコンピュータやスマホ音楽配信、Web上のサービスなどであり、自転車道はとは関係ありませんし、そもそも、道路などの公共的なものは、商標を登録する対象である、「商品・役務」でもありません。

 

おそらく、記事にある、今回のロゴを使おうとしていた、Apfelroute用のユニフォーム、自転車ラック、サイクリングマップなどの具体的な商品(グッズ類)を商標では指定商品にしていたのだと思いますので、それらについての異議申立ではないかと思います。

 

それにしても、ユニフォーム、自転車ラック、サイクリングマップと、アップルの製品・サービスは、離れています。そして、何より、ロゴが違います。

 

何でも、異議申立をする団体としては、赤十字も有名です。「+」(プラス)の十字のマークがあれば、どのような商品・役務でも必ず異議申立をすると聞いています。そして、和解の条件として、「赤」を使わないという一筆を取るというものです。

これは、一度、遭遇したことがあります。先輩に聞くと、何回か、当たったことがあると言っていました。

 

リンゴのマークを使うと、訴訟を起こされる可能性があるので、止めておこうという抑止効果を狙うとあり、分からないでもないですが、混同や悪意のない相手方に対して、やり過ぎな感じはします。

 

アップルは、知財や法務予算も潤沢にあるということでしょうか?

 

記事で面白いと思った他の点は、アップルは、観光協会にロゴの使用の中止を求めているという点と、ヨーロッパ地域開発基金に、異議申立をしているという文章です。

 

米国企業は、異議申立書の中で、ロイヤルティのことを書いてくることがあります。映画のタイトルとバッティングしてしまったときなどは、売上の8%を通常請求しているなどと記載がありました。

当時は、金額に、非常に驚いたのですが、特許庁で争う商標登録異議申立では、登録になるか、ならないかが争点であり、金銭的な和解は、特許庁外で勝手にするなら、すべきものです。

特許庁に出す、異議申立書に記載があっても、脅し程度の意味しか無いと思います。

 

ドイツは、欧州式ですので、識別力は審査しますが、抵触性は無審査で登録になり、あとは、当事者の異議待ちで、異議申立の一定期間に和解するのがメインで、和解ができないときは、特許庁が類否を決めるとなると思います。

特許庁の判断としては、過去の登録例などと比較して、非類似で、アップルが負けると想像はしますが、それまでの異議申立に対応する法務コストを考えると、どこかで和解もありえます。

 

もう一つ、ヨーロッパ地域開発基金にも、異議を申し立てているとありますが、ヨーロッパ地域開発基金は、観光協会と、共同出願人か何かなのでしょうか?

単なる資金提供者に異議を申し立てるなど、聞いたことがありません。

これも特許庁への異議申立なのか、別途、当事者間の交渉があるのは、記事からは不明です。

 

良くはわからないことが多いですが、アップルは、時間やコストをかけて、よくやるなという気はします。

 

ちなみに、下記はドイツ語なので、英語への自動翻訳で見ただけですが、アップルの弁護士からレターが来ていることや、商品を限定して和解したこと、アップルが求めたのは、グリーンの葉っぱを取ることだったなどが記載されています。

Apple gegen Apfel-Route - Konzern fordert Anpassung von Logo - GameStar

 

異議申立は、単に特許庁に異議申立をするだけではなく、関係者にレターを送るようです。欧州型の制度は、和解を推奨しているのですから、それはそうですね。

欧州型の制度は、国が商標を使わせてあげるという、恩恵主義的な、国親思想的な、日本の制度よりはだいぶましだと思いますが、訴訟や交渉の巧拙がもろに出てくる制度という面もありそうです。