Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標に関する日中共同研究

商標の類否判断に関する日中の比較研究

特許庁のWebサイトに、「平成30年度知的財産に関する日中共同研究報告書」が、アップされています。

平成30年度知的財産に関する日中共同研究報告書 | 経済産業省 特許庁

この中に、商標に関するものが、4つあり、順番に読んいるところです。中国の商標の類否は、日本とは違うところがあり、そのあたり、参考になればと思って読んでいます。

 

まずは、中国社会科学院 知識産権センター 李 明徳 教授の「商標の類否判断に関する日中の比較研究」です。

 

https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/nicchu_houkoku/document/h30/h30_houkoku4.pdf

 

李先生の論文の構成は、

1.商標の類否判断に関する概要

2.商標の類似と商標の登録

3.商標の類否と商標権侵害

4.結論

となっています。

 

1.商標の類否判断に関する概要

  • 商標法の目的:第1は、商標に化体し・累積された業務上の信用を守ること(1916年のハノーバー事件の米最高裁判例の引用)。第2は、商品・役務の出所に対する混同から消費者を守ること。第3は、正常は市場競争秩序を守ること。※ 日本と順番が違います。第2と第3が入れ替わっています。
  • 商標の機能:中国では、商標の機能は、出所提示機能、商品・役務区別機能、品質保証機能、広告・宣伝機能とあります。※ 日本の3機能分析とは違います。商品・役務区別機能は、日本の自他商品識別機能に言葉は近いですが、少し違うのかもしれません。消費者保護が全面に出てもおかしくありません。

2.商標の類似と商標の登録

  • 中国では、商標の同一・類似と、商品(役務)の同一・類似で、拒絶をするが、その奥には「混同をもたらすおそれ」が隠れている。具体的は、バドワイザーの図形商標の事件。形式的に類似ではなくても、混同のおそれがあれば類似になる。消費者に混同をもらたおそれに焦点を当てている。
  • この点、日本では、4条1項15号が処理しており、異なる。
  • 日本については、最高裁が商品の類似について消費者の混同のおそれを判断した橘正宗事件、4条1項8号に関する商号の略称の周知性について月友会事件、4条1項19号についてのManhattan事件を説明しています。特に、4条1項19号の外国周知でも良い点は、超地域性として、積極に評価しています

3.商標の類似と商標権侵害

  • 中国商標法は、1982年成立。当初、「混同をもたらすおそれ」は基準ではなかった。
  • 2001年、未登録周知商標の保護で、「混同をもらたすおそれ」の概念導入
  • 2002年、最高人民法院は、「商標民事紛争案件審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」で、商号とドメインネームと商標の関係で、「混同をもたらすおそれ」の概念導入
  • 2013年、法改正で、57条2項で、商標権侵害で、商標の同一・類似、商品(役務)の同一・類似を使用することによって、「混同をもたらすおそれがある場合」は、商標権侵害になるとした。(※ 文言上は、類似であっても、更に、混同をもたらすおそれが必要になります。)
  • NIKEは、スペインは別の権利者がいる。その別の権利者が、中国にOEM生産委託をした場合について商標権侵害とした判例の紹介。(このOEMの対応に対しては、中国では批判があり、2013年の法改正で、混同をもらたらすおそれで、処理することになったことの紹介)
  • 日本で侵害関係を、「混同のおそれ」で処理したものとして、「小僧寿司」事件
  • 日本も中国も、権利授与(※付与)が、権利発生の条件であるが、中国のテレビ番組の番組名「非誠無●」と、結婚紹介所の同じ商標との類否に関して、混同をまねかないとして、侵害を否定した例
  • 日本では、POPEYE事件で、商標登録の有効性に異議を唱えない前提で、「権利濫用」の抗弁制度が確立した点の紹介

4.結論

日中の類否では、登録時でも、商標・商品(役務)の同一類似だけではなく、混同のおそれを考慮しているとはいえる。

ただし、侵害時は、中国は明文で、混同のおそれを要件に入れた

誤った登録は、日本は「権利濫用」論で対処し、おそらく、中国では英米法の観点を入れて、登録は単なる公示であり、財産権の付与とは無関係となるだろう。

日本の商標法は、が4条1項19号の外国周知が称賛される。

 

コメント

一般に、中国、台湾、韓国などの商標制度は、日本の真似をしているという人が多いのですが、単純にそうではありません。

李先生のこの論文をみても、アメリカや大陸法を相当勉強していることが分かります。

形式的な類似を、どのように修正するかですが、類似の中に混同を読むか、類似の外で混同を読むかであり、中国は類似の中で混同を処理すると理解しました。類似の外で判断する日本とは全く違います。

 

橘正宗の判決は、商品の類否を、使用する商標との関係でみるか(相対説)、抽象的な商品との関係で見るか(絶対説)で、日本では、登録主義なので、抽象的にしかみれないとして、絶対説とした判例のようです(工藤莞司、「商標法の解説と裁判例」P153、参照 )。

中国は、これを、混同の概念で、類似の中で、読み込んでいるようですので、相対説になるのではないでしょうか。

 

中国においても、審査においても、審査の便宜上、類似商品役務審査基準的に、類似群コード(短冊)で判断しますが、これは、相対説ですので、実際の使用商標を前提に、裁判所で争えることになります。より柔軟な解釈ができます。

 

また、中国の権利行使は、混同概念を、更に全面に出してます。同じ「類似」という概念を使っても、中身が違うようです。

 

既存の大企業を有利に扱うか、スタートアップを有利にあつかうか、別の言い方をすると、既存の商標権を有利に扱うか、これからの商標を有利に扱うかは、重要な政策問題です。

欧文字商標に限れば、世界の商標の類否判断は、実は似ています。多少の、違いがありますが、理解できる範囲です。

一方、商品の類似の国際比較は、今、TM5で、ツリー状に商品概念を整理することがスタートしたばかりで、あまり、決まったものがないと思います。

TM5で、何か、世界的な基準ができないものかと期待しています。

日本の商品の類似は、昭和30年代のものですが、類似の幅が広く、それで本当に良いのか疑問です。少くとも、サービス程度に、商品類似は、細かく設定すべきではないでしょうか。

 

特に。4条1項15号を、4条1項11号た別に置くならそうなりそうです。

 

なお、この論文は、日中の法律や判例についての分析ですので、実務的なところは、別の論文等で理解する必要がありそうです。