公取の調査
2019年6月15日の朝日新聞に、ノウハウ開示や名ばかり共同研究など、大企業が下請けの中小企業の知的財産を盗む実体についての、公正取引委員会の調査報告についての記事がありました。
- 問題事例は、延べ1400件
- 公正取引委員会は、独禁法違反にあたるかどうかを調べる方針
- 優越的地位の乱用
- 3万社にアンケート。1万6000社の回答
- 問題事例のうち、営業秘密などのノウハウ開示を迫られたケースが4割
- ノウハウが含まれる設計図を買いたたかれるが1割
- 名ばかり共同研究契約締結を迫られるが1割
- 他に、秘密の製造工程をすべて動画撮影、無償提供の強要。アイデアや技術を取引先が無償・無制限で使える契約など
- 背景に、大企業が、技術自前主義からオープンイノベーションになった点
などです。
コメント
3万件のアンケートで、半数回答ありというのは高率の回収率です。この問題は、ポイントを突いた良い調査だったのではないでしょうか。回答のあった企業の1割で、問題事例があったようです。
公取の報告書がでています。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190614_files/houkokusyo.pdf
概要もあります。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190614_files/gaiyou.pdf
問題事例は、
- 片務的なNDA: 相手方の秘密は厳守する一 方,自社の秘密は守られないという片務的なNDA契約を締結させられる
- ノウハウの開示強要: 営業秘密のレシピを「商品カルテ」に記載させられた挙げ句に模倣品を製造され,取引を停止される
- 技術指導等の強要: 競合他社の工員に対して自社の熟練工による技術指導を無償で実施させられる
- 買いたたき: 金型設計図面等込みの発注になったにもかかわらず, 対価は従来どおりに据え置かれる
- 名ばかりの共同研究: ほとんど自社で研究するのに,成果は取引先だけに無償で帰属するという名ばか りの共同研究開発契約を押し付けられる
- 出願に干渉: 取引と関係のない自社だけで生み出した発明等を出願する場合でも,内容を事前報告させられ,修正指示に 応じさせられる
- 知財の無償譲渡等: 特許権の1/2を無償譲渡させられる 。 一方的に無償ライセンスさせられる
どれも実際にありそうな話です。これに対して、公取は、これを放置しては、我が国における企業の知的財産戦略自体が成り立たなくなるおそれがあるとして、
- 経済産業省・特許庁と連携し,製造業全体に参考事例集を含めた調査結果の周知
- 引き続き優越的地位の濫用行為等の情報収集に努める
- 違反行為には厳正に対処(下請法違反行為については,中小企業庁と連携して厳正に対処)
とあります。
独禁法ですが、昔は、公正取引委員会が、行政的に調査したり、処分したり、罰則を与えるものでしたが、現在は、独禁法を私訴で使えます。
中小企業も、独禁法や下請け法を学んで、理論武装しておく必要があります。
中小企業も、法務や知財のレベルを格段にアップして、大企業に伍して、戦う体制を整える必要があります。海外の中小企業には、大企業顔負けの法務スキルをもった中小企業が沢山あります。イスラエルの中小企業など、契約書をみて、驚いた記憶があります。
日本の中小企業をサポートする、法律事務所、特許事務所のレベルも問われています。日本の特許事務所では、明細書を書くのが仕事という人がまだ多いのですが、それだけでは社会へのお役立ちが少なく、結局、評価されないように思います。
街の特許事務所にも、大企業と中小企業のWinWinの構築に関与できるように、企業の知財部レベルの契約能力が必要なように思います。