国家情報監視システムによる製品マーキング
2019年6月27日のJETROのビジネス短信で、ロシアの連邦政府が、タイヤと衣類・軽企業品の製品に、マーキング貼付試験を開始するという記事を見ました。
連邦政府、タイヤと衣類・軽工業品の製品マーキング貼付試験を開始 | ビジネス短信 - ジェトロ
概要としては、
- 製品流通状況をモニタリングする国家情報監視システム
- 試験を通じた関税・諸税の税収増への貢献
- 監督当局および市場参加者などとの情報連携体制の運営確認
- 対象製品の生産・流通を管理する法令案の策定
マーキング識別手段の貼付義務化は、たばこ、靴、香水・オーデコロン、カメラに続くもの。
同じく、2019年4月10日のJETROのビジネス短信には、
- 官民パートナーシップで統一製品デジタルマーキング・追跡国家システムを開発
- マーキング・追跡システムに必要な機器の生産
- デジタルマーキングを用いて模倣品、密輸品、類似品から消費者を守ため、統一カタログ「真正なマーク」を作成
とあります。
製品流通経路把握に向けた国家情報監視システムの運営会社決まる | ビジネス短信 - ジェトロ
さらに、2018年12月28日のJETROビジネス短信に、今回の制度の詳細が出ていました。
- 義務的マーキング対象製品の流通経路を把握(モニタリング)する情報システムを構築する法改正
- 対象製品の流通過程で主体(製造者、輸入者、販売者など)となる法人や個人事業主に政府への情報提供義務
- 施行は2019年1月1日
- 流通モニタリング情報システム
- マーキングコードや識別コード
- 目的は、商品群の流通情報について、その収集・処理プロセスの自動化、保管、アクセス保証、提供、周知ならびに流通とトレーサビリティーに関する情報交換の効率向上
- オペレーターはロシア政府により決定
- 情報自体の所有権は連邦政府に所属
- 製造者は政府の定める方法により自社製品に関する情報を無償で受け取ることができる
- ロシア国内とユーラシア経済連合(EEU)域内への知的財産侵害品や粗悪品の流入防止などを目的
- 生産者から消費者に至るまでのトレーサビリティー制度の構築を推進
- ロシア国内ではEEUに先行して義務的マーキングの対象製品の拡大が予定されており、並行して流通情報を把握するシステムの構築が進むことが想定される
- EEUの加盟国はロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス
特定製品の流通経路把握に向け法改正実施、企業に情報提供義務 | ビジネス短信 - ジェトロ
とあります。
コメント
JETROのビジネス短信は、一般紙には出ない面白い記事が多いのですが、これもそうです。ただ、順番を追って、深く見て行かないと、全体像が分かりません。
今回のものも、ロシアの新興財団などとロシア政府の合同で、トレーサビリティのシステムを作っており、模倣品が多そうな、たばこ、靴、香水・オーデコロン、カメラ、タイヤ、衣類、軽工業品について、実験をしているということになります。
日本でも、偽造防止技術などの紹介がありますが、いちいち、盛り上がりには欠けています。
今、模倣品対策は、メルカリやフリマ、コメ兵の方に、面白いものがあります。
ロシアに戻りますが、国家レベルで、ここまでやるというのは、余程、ロシアは模倣品で困っているんだろうなという気がします。
モンゴル、中国と広い陸路で、接していますので、どこからでも模倣品が流入します。港で、一応、チェックができる日本とは大違いです。
ロシアのような国家権力が強い国でないとなかなか進めることができないものかもしれません。どんなシステムで、どんなマーキングで、どんな仕組みなのか、NHK特集ででもやって欲しいところです。
そもそも、商標制度は、出所混同の防止のためにあるといいますが、現在の模倣品の状況を見ると、商標制度は模倣品には無力です。警察でも重要事件の後追いしかできませんし、アメリカや英国など、伝統的に刑事罰のない国も多いと思います。
ネットの時代ですし、代替技術はあると思いますので、そろそろ商標制度に替わる、出所混同防止のシステムが出てきてもおかしくありません。
そもそも、商標制度自体、200年程度のものです。
特定の商標使用者に、商標使用の専用権を与えれば、出所混同を防止できるなんていうのは、虚構です。商標権者が、自分で差止請求や、損害賠償請求(模倣品対策)を、死に物狂いでやることが前提になっていますが、それができる企業がどれほどあるでしょうか?
警察は、他に殺人事件や、重要事件があるのに、模倣品にばかり係わってはおれません。目立つ案件で、得点稼ぎをする程度です。
ロシアのような、トレーサビリティのシステムを導入してあげないと、商標制度だけでは無理があります。
そうなると、商標法の目的は、より宣伝・広告機能に近くなり、ライセンスの対象物というものに近くなります。
また、指導理念も、出所混同防止だけではなく、サーチコスト理論に近くなるんだろうなという気がします。
商標法の制度設計や、商標法の解釈も、この事実を前提にして、考えないと、机上の空論、世の中から乖離した制度になってしまうような気がします。
その意味では、税収目的など、別の目的が付加されているのは、気にはなりますが、ロシアの制度は注目に値します。